そこはあの世か現世か。チャペルで見
たノベンバの現在地

THE NOVENBERS × 教会。都会の喧騒か
ら遠く離れた美しい世界。

8月25日、品川グローリアチャペルにて。

THE NOVEMBERSが教会でライブをやるというので、チケット発売前から大いに話題を集めていました。「すごいライブになる…」。そういう予感を誰しもが持っていましたから、期待値は上がりきっていたはずです。案の定、チケットも即完売でした。

ところが、高く設定されたハードルをものともせず、彼らはそれを優に超えて行ったのです。圧倒的に美しく、危うくも暖かい。そんな世界観が展開されました。彼らとファンにとっても特別な一夜の様子を紹介します。

Photography_Atsuki Umeda
Text_Yuki Kawasaki
シューゲイザーとチャペルの素敵な関係
そもそも、なぜTHE NOVEMBERSは教会という場所に惹かれたのか? 理由は様々あるでしょうが、その一つには「音響」の側面があると思います。オーディエンスとの距離は近いのだけれど、天井が高く、独特の響き方で音楽が鳴る。1曲目の『救世なき巣』から轟音でしたが、明らかに意図された音作りでした。音と音の間隔がなくて、まるで血で塗りたくったように連綿と続く音像。凄まじい圧力でしたけれど、この時点で彼らの美意識は表出していたように思います。

危うさを感じる美しさには覚えがありました。聴いていると背徳感を覚え、忘却の彼方にあった幼少期の記憶が蘇ってくる、この感じ。今年のフジロックのレッドマーキーで観たSlowdive。いや、確かに同じく「シューゲイザー」として解釈されるバンドではありますが、ガワの話ではなく、もっと根源的な部分で共振していたと思うのです。それこそ、美意識とか世界観とか、抽象度の高い部分で。4曲目の『あなたを愛したい』までは、彼らとSlowdiveがリンクしているように見えたのです。大自然の苗場と、閑静な品川の街がパラレルに繋がっていくような感覚。
『Hallelujah』の死生観
Jeff Buckley – 『Hallelujah』

個人的にハイライトを感じたのが、立て続けに披露された『Hallelujah』。カバーVer.と、THE NOVEMBERSのオリジナル。カバーVer.は元々レナード・コーエンの曲ですが、その後ジェフ・バックリーによって再演され、ロック史に残る名曲となりました。

THE NOVEMBERSがカバーしたのは、ジェフ・バックリーの『Hallelujah』ではないかと思います。ジェフはこの曲が収録された『Grace』を遺作として、30歳の若さで逝去。原因は事故死でしたが、一時は自殺説も囁かれておりました。ゴスペル調で、歌詞は聖書モチーフ。祈りのようであるけれど、そこには確かな諦観があります。THE NOVEMBERSのカバーにも、ディストピアにも似た暗黒の風景が見えました。
恐怖すら感じたのです。それはホラー映画を観たときに感じるような怖さではなく、誰かの死を目の当たりにしたような恐怖。このライブが終わったら、小林祐介(Vo.Gt.)はいなくなってしまうのでは。冗談みたいな話だけれど、この時僕はそう思ったのです。
THE NOVEMBERS – 『Hallelujah』

けれども、次に披露されたTHE NOVEMBERSオリジナルの『Hallelujah』では様子が一変します。トロンボーンとトランペットで成るブラス隊がバンドに加わり、「生への希求」のような様相へ。華麗にあの世の淵から舞い戻ってみせた。冒頭で教会を選んだのは「音響」のためと書きましたけれど、それはあくまで副次的なもの。大本命は、この2曲を歌うためであったような気がします。スケールの大きい、説得力のある賛美歌でした。
『Hallelujah』以降のTHE NOVEMBERS
少しアルバムの話を。昨年リリースされたTHE NOVEMBERSの最新アルバム『Hallelujah』。本作を聴いた当初、日本のロックが根底から変わるのではと思うほど衝撃を受けました。昨今の若手アーティストが外向的な音を鳴らす傾向にありますが、地ならしをしたのは本作だと思います。

で、本作以降のTHE NOVEMBERSは音楽の面でも、キャラクターの面でも変化があったような気がするのです。憶測ですが。今回のライブは、その変化を表面化させたものだったのではないでしょうか。

かつての小林祐介は、それこそジェフ・バックリーにも似た危うさがありました。『picnic』の頃は、飄々として掴みどころがなく、歌詞を見ても「もうこれ以上生きれる気がしない(最近あなたの暮らしはどう)」と書かれています。
けれども、今の彼からは「死」の匂いはしない。MCからもそれを感じ取るができます。「明るい未来」を暗示させるような言葉が次々と語られ、むしろ「生」への執着すら感じました。そんな彼が、過去の自分と対峙するように初期のTHE NOVEMBERSの曲を歌い上げるわけです。
THE NOVEMBERS – 『Misstopia』

これほど暖かい『Misstopia』は初めてでした。極めて内省的であった世界観が、少しだけ外に向かってゆくような。ソリッドで尖ったギターのリフはそのままだけれど、どこか優しい。そうして、小林祐介は過去の自分と対峙することで、現在地を高らかに宣言していたのです。

最後に披露されたのは、『今日も生きたね』。頭の中でエンドロールが流れるような、美しい締めくくり。まさに明日へ繋がる一曲だったと思います。
THE NOVEMBERS – 『今日も生きたね』

そこはあの世か現世か。すぐ横に「死」は鎮座しているけれど、THE NOVEMBERSの立っている場所には曇りなく輝く「生」がある。


セットリスト

1. 救世なき巣
2. 小声は此岸に響いて
3. 終わらない境界
4. あなたを愛したい
5. Hallelujah(Jeff Buckley cover)

6. Hallelujah
7. Human flow
8. 最近あなたの暮らしはどう
9. mer
10.Across the universeThe Beatles cover)
11.Moire
12.Misstopia
13.今日も生きたね
■「ROSES」THE NOVEMBERS live at SHINAGAWA GLORIA CHAPEL
日時: 2017年8月25日
会場: 品川グローリアチャペル
<THE NOVEMBERS公式サイト>
http://the-novembers.com/
そこはあの世か現世か。チャペルで見たノベンバの現在地はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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