『打ち上げ花火』、映画で見るか?ド
ラマで見るか?

打ち上げ花火、下から見るか?横から見
るか?

8月18日に公開された映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が大きな話題になっている。観客動員数は初日だけで13万3000人、興行収入は1億7000万円を記録。テレビや雑誌で特集されまくっていることはもちろん、ネットで検索して拾い読みすると、賛否が大きく分かれるものの、言及される数は非常に多い。ミーティアでも本作について音楽の面から触れた記事が公開されている。
では、いったいどんな映画なのか。まずは予告編をどうぞ。
(映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』予告編)

あらすじは以下の通り。

「もしも、あのとき・・・」 夏休み、とある海辺の町。花火大会をまえに、「打ち上げ花火は横からみたら丸いのか?平べったいのか?」で盛り上がるクラスメイト。そんななか、典道が想いを寄せるなずなは母親の再婚が決まり転校することになった。 「かけおち、しよ」 なずなは典道を誘い、町から逃げ出そうとするのだが、母親に連れ戻されてしまう。 それを見ているだけで助けられなかった典道。 「もしも、あのとき俺が・・・」 なずなを救えなかった典道は、もどかしさからなずなが海で拾った不思議な玉を投げつける。 すると、いつのまにか、連れ戻される前まで時間が巻き戻されていた・・・。 何度も繰り返される一日の果てに、なずなと典道がたどり着く運命は? 繰り返す、夏のある一日。 花火が上がるとき、恋の奇跡が起きるー (映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』公式サイトより)

原作は岩井俊二

原作は『スワロウテイル』、『リリイ・シュシュのすべて』、『リップヴァンウィンクルの花嫁』などの岩井俊二。脚本は『モテキ!』や『バクマン。』などの大根仁、総監督を『<物語>シリーズ』や『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之がつとめ、アニメーション制作をシャフトが担当。プロデュースは近年ヒット作を連発している川村元気。主演のなずなを広瀬すずが、道典(みちのり)を菅田将暉が演じた。
実は本作、岩井俊二が脚本・監督を担当したテレビドラマを原作としている。それが1993年に放送された『If もしも』というテレビドラマシリーズの1話。これは『世にも奇妙な物語』のレギュラー放送終了を受けて制作されたオムニバスドラマで、1話ごとに、ある分岐点を境に枝分かれした2つのストーリーを描くという「世にも感」を受け継いだドラマだった。ストーリーテラーには『世にも奇妙な物語』と同じくタモリが起用されており、ある種のスピンオフのようなドラマと言える。『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』はその第16回として放送された。

岩井俊二はこのドラマで日本映画監督協会新人賞を受賞し(テレビドラマでの受賞は異例中の異例)、知名度を一気にあげた。また、のちに映画『GO』や『世界の中心で、愛を叫ぶ』の監督となる行定勲が助監督として参加していた。

ドラマ版が本当に名作

ドラマ版の主演には山崎裕太と、当時14歳の奥菜恵。
「打ち上げ花火は横から見ると丸いのか、平べったいのか」という、どうでも良さそうな話をめぐって盛り上がる話の筋は映画もドラマも同じだが、映画版が中学生の設定なのに対し、ドラマ版は小学6年生という設定。
約45分ほどの物語で、前半には花火を「下から見る」エンディング、後半には花火を「横から見ようとする」エンディングが用意されている。

映画版の感想の中に、「どういう話なのか、謎が多すぎる」というものが散見されるが、その大半はドラマ版を見るとスッキリする。ドラマ版はすべてのシーンが有機的に繋がっており、論理性や一貫性がはっきりしている。少ないセリフや説明のための描写は皆無といっていいほどなのに、ヒロインのなずなが街を出て行く理由などがはっきりと伝わる。

恋や性への目覚め、大人の都合に振り回され傷つく子どもたちの心、やがて失われる少年少女時代のきらめきなどが美しく描かれていて、はっきり言って超名作。奥菜恵が演じるなずなの「裏切るの血筋かなあ……」というセリフが、観る者の心に重く響く。
映画版の脚本を書いた大根仁も大ファンのようで、ドラマ版『モテキ!』ではあからさまなオマージュを捧げるほど。

特に終盤の、夜のプールに入るシーンは言葉を失うほど美しい。見たらその後何年も良い意味でトラウマになるほどの名シーン。「今度会えるの二学期だね。楽しみだね」という奥菜恵のセリフとその表情の哀しさ、直後の山崎裕太の動かない背中。二度と戻らない奇跡のような美しい一瞬を切り取った最高のカット。
これを見ると、その後岩井俊二が映画界に進出してカリスマになるのも頷ける。

奥菜恵をもう一度

(出展:公式ブログ)


ところでドラマ版は、主演なずなを演じた奥菜恵が相当イイ。
特別な人間はそのキャリアの初期からすでに特別なのだと改めて感じさせられる存在感で、強烈な印象を残す。岩井俊二の作品ではいつも女優がイキイキと伸びやかに演技していて特別な輝きを放っているが(特に映画『リリイ・シュシュのすべて』では、物語の大筋にはそれほど関係ない蒼井優がまるで主演であるかのように目立っている)、その作風はこの時からすでに顕著だった。
この作品のあと、奥菜恵はテレビドラマ『若葉のころ』や『青の時代』などでブレイクする。
近年は舞台での活動が多く、一時期に比べるとあまり映像作品に出演していないが、9月16日からHuluにて配信開始の『雨が降ると君は優しい』に準主役として出演することが発表された。野島伸司の脚本で、「セックス依存症」の女を佐々木希が演じるこのドラマ。どう考えても地上波では描けない攻めた作品の匂いがプンプンする。
「清純派」「魔性の女」「演技派」など、その時代によって多くの呼ばれ方をしてきた多面性ある女優、奥菜恵。彼女の新しい仕事は注目に値するだろう。

帰宅!38歳になりました! ゆっくり丁寧に楽しんで参ります!

奥菜恵 Megumi Okinaさん(@megumi_okina)がシェアした投稿 –

(話がそれるのでオマケ的に。あまり関係ないけど、少女時代に異様な輝きを放った同じ映像作品として、個人的には橋口亮輔の映画『渚のシンドバッド』や野島伸司のドラマ『未成年』などに出演した浜崎あゆみを思い出した。今や知らない人も多いかもしれないけど、浜崎あゆみのキャリアはモデル・女優としてスタートしたのであり、女優としても「日本映画を変えるかもしれないほどの才能」と言われていたのだった)

打ち上げ花火、映画で見るか?ドラマで
見るか?

結論

・映画を見て気に入った人は、ドラマ版を見て理解を深めるべし。

・映画を見てモヤっとした人は、ドラマ版を見てスッキリするべし。

・どっちも見てない人は、早くどっちか見るべし。

DAOKOもしくは米津玄師から映画を知った人は、映画版とドラマ版両方見るべし。特にDAOKOファンはドラマ版も見た方が良い。なぜなら、DAOKOがカバーした『Forever Friends』のMVは、ドラマ版のロケ地で撮影されており、原作のオマージュ(場合によってはほぼ再現)となるシーンが数多くあるため。ちなみにMVの監督は岩井俊二です。ドラマ版を見てからMVを見ると、かなりエモいです。
(DAOKO『Forever Friends』MV。ドラマ版を思い出す名カットだらけ)

作品情報

映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
総監督:新房昭之/監督:武内宣之
アニメーション制作:シャフト
原作:岩井俊二
脚本:大根仁
声の出演:広瀬すず、菅田将暉、宮野真守浅沼晋太郎豊永利行、梶裕貴、三木眞一郎花澤香菜櫻井孝宏根谷美智子、飛田展男、宮本充、立木文彦松たか子ほか。

公式サイト
公式Twitter

ドラマ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
監督・脚本: 岩井俊二
撮影: 金谷宏二
音楽: REMEDIOS
出演: 奥菜恵、山崎裕太、反田孝幸、小橋賢児蛭子能収ほか。
Text_Sotaro Yamada

『打ち上げ花火』、映画で見るか?ドラマで見るか?はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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