LACCO TOWERの『非幸福論』は、「幸福への宣戦布告」である

LACCO TOWERの『非幸福論』は、「幸福への宣戦布告」である

LACCO TOWERの『非幸福論』は、「幸
福への宣戦布告」である

いい学校に入る、いい会社に入る、出世する、いい人と結婚する。ミュージシャンの場合だったら、大手の事務所に才能を発掘してもらってメジャーデビューする事かもしれない。どんな形であれ、トントン拍子にコトが運ぶのは喜ばしいし、自分を不幸だなんて思ってしまうような事はないに越した事はない。

だけれど、それもまた「幸せ」のためには必要だとしたら?
そんなひねくれた「幸せ」を歌うのが、LACCO TOWERだ。
LACCO TOWERは、2001年結成の五人組ロックバンドだ。地元群馬に拠点を置きつつ全国的に活動を展開し、様々なイベントへの出演やアニメへの楽曲提供など、幅広く地道な活動を続けている。
どうぶつさん大集合なイメージを想起させる可愛らしいバンド名に反して、歌謡曲をベースにしながらも骨太でギラギラした激しいサウンドが特徴的な彼らの楽曲だが、音の激しさと好対照な丁寧に綴られた日本語歌詞が大きな魅力でもある。楽曲のタイトルはほとんどが日本語の単語ひとつで構成されており、歌詞にも英語はほぼ使われていない。作詞を手がけるボーカル松川ケイスケの強いこだわりが表れる楽曲の中でもなかなかに意味深なタイトルを持つ曲が、『非幸福論』だ。
LACCO TOWER 『非幸福論』

オルゴールのようなたおやかなイントロから始まるこの曲は、そこから繋がる激しいビートと狂気じみたギターのギャップが強烈な印象を残す。相反して繊細なピアノの旋律によって歌詞の文学性が際立っているだとか、松川のカリスマ性すら感じるパフォーマンスはお化粧こそしてないもののヴィジュアル系バンドのボーカルにも近いものがある点だとか、特筆したい事はたくさんあるのだけれど、ともかくここでは歌詞の方に注目してみようと思う。

以上は歌詞のワンフレーズ目だが、「篦棒」が読めない。
どうやら「べらぼう」と読むらしいが、ロックの歌詞ではなかなか珍しい言葉遣いだと思う。松川の独特な言語センスがここから既に現れているように思う。

Aメロに登場するこの歌詞にあるように、この曲は「幸福」と言う言葉をキーワードに描かれているが、どこか高圧的な印象がある。
まるで、「幸福」それ自体に見下されているような気すらしてくるぐらいだ。
この曲の主人公は幸せになるために、「幸福の番人」に戦いを挑んでいるようだ。
彼は「現実」に撃ち抜かれ、「諦める理由」を「豊富に多々用意」され、ともすれば戦意を喪失してしまうかもしれない状況にまで追い込まれている。
しかし、彼はひょうひょうとしたものだ。自分の置かれた戦況を「そうね」とごく軽やかな様子で認め、諦めずに戦いを続ける。
ギターソロを経た大サビ前のワンフレーズだ。凶暴なまでのギターの旋律から一転、スローになったテンポと松川の穏やかでありながら嘆きを抑えつけたような歌声がインパクトを強く残す。私達はみんな、当たり前のように幸せになりたい。
だからこそ、今何かに悩まされている場合、その自分を悩ませる原因である「不幸せ」にしか目が向かなくなり、「もっと幸せになりたい」「もっと楽がしたい」と無い物ねだりばかりしてしまう。だけれど、少し考え方を変えてみれば、今目の前にある「不幸せ」こそが大切なのかもしれない。
それこそが、私達が幸せになるための助走なんじゃないか?

主人公が今の自分に降りかかる不幸の理由に気づいた時、「幸福の番人」の弱みが見えるようになる。これはきっと「挑戦」なのだ。主人公は、「幸福の番人」の隙を突いて会心の一撃を見舞うように、宣戦布告する――――。
この曲は、LACCO TOWERのメジャーデビューアルバムに収録された楽曲だ。結成13年目にしてメジャーデビューを決めた彼らは、自身を「狂想演奏家」と名乗り、告げられない恋心や凶暴な本音など、いわゆる「不幸せ」な、目を背けたくなるような感情を美しい日本語で描き続けてきた。
元々メジャーデビューする気はなく、常にカウンターであり続けてきた彼らは、事務所やレーベルの運営、フェスの主催などもメンバー自ら行っている。
そんな彼らが更に大きな舞台に立つため遂にメジャーデビューという道を選んだ際の記念すべき楽曲であるこの曲には、彼らだからこそ伝えられる強いメッセージが込められている。
つまり、「不幸せとは決して不必要なものではない」という事。それすらも幸せへの糧であり、それがないと幸せの素晴らしさにすら気づけないという事。
時間をかけて地道に現在の地位を築いた彼らが、その身をもって証明した人生哲学だ。よくバンドがメジャーデビューすると「作風が変わった」「前の方が良かった」なんて言われる事がある。しかし、LACCO TOWERは誰もが避けたい「不幸せ」を肯定的に描く事によって、「自分達はメジャーデビューしても変わらないよ」とリスナーに呼びかけているような気もする。
それは、メジャーデビューと言う「幸福」への宣戦布告のようでもある。

松川のシャウトボーカルは、新しい目覚めを迎えた獣の雄叫びのように気高く勇ましい。
この曲を聴いてから、もう一度考えてみたい。
「幸せ」とは、何だろうか?

アーティスト

UtaTen

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