『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』

    『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』

    『magic number』にあふれるKICK THE CAN CREWの
    ヒップホップ・アーティストとしての使命感と矜持

    『magic number』(’03)/KICK THE CAN CREW

    『magic number』(’03)/KICK THE CAN CREW

    KICK THE CAN CREWがニューアルバム『KICK!』を8月30日にリリースする。そして、9月7日には日本武道館にて『KICK THE CAN CREW 「復活祭」』を開催し、年末には約13年ぶりとなる全国ツアー『KICK THE CAN CREW CONCERT TOUR 2017』が決定…と、ついに本格復活を果たす。2000年代前半に日本のヒップホップシーンをけん引し、現在に至るシーンの隆盛に大きな役割を担ったグループである。活動休止以後、その10数年間のソロ活動において各人が蓄えてきたアーティストパワーがどう収斂されるのかに注目が集まるところだが、本コラムでは予習を兼ねて、彼らの過去作にスポットを当て、そのアーティスト性を紐解いてみようと思う。

    グループ史上最高最大のヒット作

    KICK THE CAN CREW(以下KTCC)、14年振りのニューアルバム『KICK!』がいよいよ来週8月30日にリリースされる。2004年の活動休止後、各々が他のメンバーのライブステージに現れて3ショットを披露したり、テレビで共演を果たしたり、何よりも2014年8月、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014』にて、すでにKTCC名義で活動を再開させていた彼らだが、今回は結成20周年という節目の年の新譜発売とあって、ファンの想いもまた格別のようだ。7月に先行配信されたシングル「千%」のリリックを指して、以下のように過去のKTCC楽曲との関連を示すまとめサイトも見かけた。
    《安定とかも関係なしに (カンカラ)宙に蹴飛ばす》(=『カンケリ01』)。
    《(半端なく)最高な(アンバランス)》(=『アンバランス』)。
    《『一生懸命を恥ずかしがるな』》(=『LIFELINE』)。
    《『ライツ、カメラ、アクションで棒立ち』》(=『sayonara sayonara』)。
    《いつもONEWAY『YEAH』ありのままの姿見せる為 今日も足伸ばすまた》(=『ONEWAY』)。
    コアなファンならずとも、リアルタイムでKTCCを聴いていたリスナーなら指摘されずともいくつかは元ネタは分かりそうなものであるが、考えてみれば、彼らが活動休止してから14年も経っている。KTCCのデビュー当時を知らないリスナーが増えていても何ら不思議ではない。もしかすると、10代のリスナーの中には「KTCC? 何それ?」と思っている人がいるかもしれない。よって、上記のような元ネタ紹介は重要であり、需要はあるのだろう。
    というわけで、今回の当コラムでもKTCCの名盤紹介、そして、そこからこのグループの本質を掘り下げてみたいと思ったわけだが──。ネット上で無邪気に「KTCCってKREVAがいたグループだったんだねぇ(´・ω・`)」とか書き込んでいる若きリスナーほどではないものの、正直に言えばヒップホップに関して筆者はかなり半可通なことに加え、リアルタイムで熱心にKTCCを聴いていたわけでないので、まずどの作品を紹介しようか迷った。いや、迷う以前にどれにしていいかまったく分からなかったことを白状する。インディーズでの『YOUNG KING』、メジャー第一弾で彼らの出世作と言える「マルシェ」が収録された『VITALIZER』、活動休止前に発表された『GOOD MUSIC』等があるわけだが、この度の新作『KICK!』とのジャケ写の類似性で『magic number』に決めた。それ以外の他意はないし、『KICK!』の内容との関連性も分からない。ジャケ写の類似性以外でわかっていることは、収録時間67分19秒で、現状ではKTCCのアルバムでチャート最高位を記録している上、売上枚数も最高であるということである。筆者が『magic number』の中身に関しては、ほぼまっさらに近い状態で聴いたことをご理解いただいた上で、以下のコラムをご笑納いただければ幸いである。

    ループミュージックにこだわったトラック

    先に結論から述べると、『magic number』からはKTCCのヒップホップ・アーティストとしての使命感のようなものを感じたのだが、実際のところ、どうなのだろうか? このアルバム、M1「登場」で幕を開け、M15「magic number」でフィナーレとなるが、それぞれのリリックはこうだ。
    《じゃあ教えてやるぜ知らないこと/Put your hands up手を高いとこ/Crap your handsなら手をたたいとこう/騒げもちろん騒いでおこう/すべて騒ぎどこeverybody say》(M1「登場」)。
    《ヒップホップっつーのは すげえだろ/(オレらに続け) c'mon (hey! come on)/十年二十年もう終点ない 偶然とはいえない you&I/(言えるさ!)オレ達はどこへでも行けるさ!》《先へ行っとく 付いてこい(もしも遅いならば追い抜いてよし)/速攻で追い付き 抜き返す/こんな感じで ずっと付き合えるかい?》(M15「magic number」)。
    M15「magic number」は明らかにヒップホップを鼓舞する内容だし、M1「登場」での《Put your hands up》《everybody say》は如何にもヒップホップ的だ。誰が見聞きしても、本作でKTCCが提示するのはヒップホップであることが分かる作りであるし、頭と終わりでそれがどんなものであるのかをきちんと示す、意外と生真面目な作りと言える(そもそもアルバムタイトルの“magic number”は、米国のヒップホップグループ、De La Soulの楽曲名と同しなのだから、ヒップホップへのオマージュ、リスペクトは明白であろうか)。
    そのヒップホップ・ミュージックの要素は、大凡DJが鳴らすバックトラックと、MCによるラップとに大別されると思うので、『magic number』をその要素それぞれの側面から見ていこう。まず、バックトラック。生楽器でのそれがないわけではないが、ヒップホップ・ミュージックのトラックと言えば、やはりサンプリングや打ち込みが中心である。『magic number』のサウンドもまさにそれだ。スペイシーなM2「RE-FRESH」、ビッグバンドジャズ風のM10「CAN-CAN」、あるいはM12「E.L.E.M.E.N.T.S」~M13「LONELY ONE」~M14「sayonara sayonara (Album Edit) feat. CUEZERO」で続けざまに聴けるサイケデリック要素と、そのサウンドメイキングは多彩だが確実に先達たちへのリスペクトがうかがえる。しかも、所謂ポップスの構成ではなく、しっかりとループミュージックにしているところに彼らの強固な意志を感じる。サビ──ヒップホップで言うところのフックはあるのだが、例えば、A→B→サビ(フック)→C→サビ(フック)ではなく、ループするトラックに乗せられたラップが続き、その後にフックといった具合の構成がほとんどだ。しかも、それが単調にならないようにサウンド的なエッセンスを加えたり、MCを重ねたりと、グルーブが生まれるような工夫がなされている。歌謡曲を既存のポップスに寄せるのではなく、ヒップホップのままでポップミュージックに昇華させようと試みているのである。そして、それは成功していると思う。
    個人的にトラックで注目したのはサウンドのミックス具合の面白さ。分かりやすいところで言うとM3「地球ブルース〜337〜」だろうか。ラテン風でもあり、中東風でもある旋律と音色に三三七拍子を合わせるという大胆不敵さ。異国感も無国籍感も通り越して若干SF的ですらあり、当時、これをシングルでリリースしたKTCCのチャレンジ精神を今更ながら称えたいくらいである。M5「mama said 〜ハタラキッパ〜」もよい。大陸的なイメージで聴いていくと、その内、昭和的というか、昭和の日本映画的な匂いを感じ、フックではおそらく8ビットゲームの音と思われる音色が重なる。言葉にすると「何じゃそりゃ!?」といった気もするが、あえて文字にするとそんな印象で、しかもそれはアバンギャルドであったり、実験的な匂いがなく、あくまでもポップに仕上げている。何と言ってもそこに素晴らしさがあると思う。細かく分解すればかなり音楽的に難解なことをやっているのだろうが、聴き応えとしては単に楽しいのである。この辺は、ヒップホップ・アーティストとして身体に染み込んだものを自然と出した結果なのだろうか。トラックはKREVAが作っているそうだが、彼の音楽家としての凄味を感じるところでもある。

    確かなライミングスキル

    続いて、ラップ。全国規模のフリースタイルバトルで3連覇を達成して殿堂入りを果たしているKREVAは言うまでもないが、LITTLE、MCUもそのMCテクニックは確かだ。収録曲のほとんで3人がMCを回すスタイルで、先ほども述べたが小節の頭や終わりでMCを重ねたりすることで、単調にならず緊張感を持続させる工夫がなされている。この辺も聴いていて気持ちがいいところだ。押韻のすごさは、それが即ちKTCCと言ってもいいほど特徴的である。
    《やたら働きっぱ ほめてあなたりっぱ/したら花が言った 「いつでも辛くなったら来なさい」/やたら働きっぱ ほめてあなたりっぱ/したらママが言った 「辛くてももっと働きなさい」》(M5「mama said 〜ハタラキッパ〜」)。
    《マイアンサー No.1/快感の ワンダーランド/階段を上がんなら そう/今じゃない 今はアンバランス》(M6「アンバランス」)。
    《こうして育てられた/目標がないと咎められた/絵に描いたような答え出せば/かわいい、素晴らしいとおだてられた/押さえられた自我 常に指示待ち/役割を全う それが生きがい》(M7「ナニカ」)。
    《朝が来るまで 部屋で車で/流れ出した音に ただくるまって》(M9「DJDJ [for RADIO]」)。
    《I can, You can, We can-can (米) I can, You can, We can-can (英)/会場全体でいい経験 カウントダウン 時間だ/ガンガン飛ばすぜ イケイケ》(M10「CAN-CAN」)。
    耳に残ったフレーズをザッと挙げてみたが、徹底して韻を踏んでいる上に、言葉の響きがこれまたポップであることも分かる。リリックにおいても高度なことをやっていながら、決して難しく聴かせていないのである。
    KTCC以前には、それこそ、スチャダラパーと小沢健二の「今夜はブギーバック」、EAST END×YURI「DA.YO.NE」がヒットしていたし、彼らのメジャーデビュー前には、Dragon Ashが3rdアルバム『Viva La Revolution』においてZEEBRAをフィーチャリングしたりしており、ラップ、ヒップホップが巷には浸透し始めた時期である。しかし、それらは、本格的なヒップホップ・アーティストが参加しつつも、プロパーなヒップホップではなかった。そんな中で、KTCCは大衆に媚びることも、マニアにおもねることもなく(少なくとも音源からはそう思える)、トラックもリリックも徹底してヒップホップのマナーに則って作り上げた作品をチャート上位に押し上げた。その辺を当時、彼らがどこまで意識していたかどうか分からないが、今回、『magic number』を聴いてみて、KTCCのアーティストとしての矜持をビンビンに感じたところではある。

    TEXT:帆苅智之

    アルバム『magic number』2003年発表作品
      • <収録曲>
      • 1.登場
      • 2.RE-FRESH
      • 3.地球ブルース〜337〜
      • 4.ストレス
      • 5.mama said 〜ハタラキッパ〜
      • 6.アンバランス
      • 7.ナニカ
      • 8.movingman
      • 9.DJDJ [for RADIO]
      • 10.CAN-CAN
      • 11.TORIIIIIICO! feat. CASSETTE VISION
      • 12.E.L.E.M.E.N.T.S
      • 13.LONELY ONE
      • 14.sayonara sayonara (Album Edit) feat. CUEZERO
      • 15.magic number
    『magic number』(’03)/KICK THE CAN CREW

    OKMusic編集部

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