JAKE BUGG『How Soon The Dawn』【彼
のここからこそが何だか楽しみになる
と思えるのではないか】

 こんな一筆書き的なそよ風のような歌が彼から届くとは想いもせずに、すっと最初から馴染んでいる洗いざらしのシャツのように心に響くのはなぜなのだろう。まだ23歳ながらキャリアとしては十全たる域とも言えながら、あのニヒルで幼さも残る表情が印象深かったジャケットのデビュー・アルバムもつい先日と思っていたら2012年で、今の世代感覚の速さと並列しての深い夜を抜けた朝焼けまでの傾ぎの意識の深さへの伸度はさすがに唸らされる。きっと自身のアンテナとは違う次元で、一日一秒、細胞が蘇生し直しているかのように。現代的などこかしら倦んだ集合的な意識の矢印の先にある膨大な情報量の下での彼も犠牲者になるかもしれないという杞憂とは別に、このMVと曲で安堵をおぼえたのはきっと安易に消費される何かではなく、自らの意志のしなやかさと口笛のように継がれるトラディショナルな唄の節々の中で生きながら、60年代後半から70年代前半あたりのUS(に限らずだが)のSSWを想い出して嬉しくなった。著名で、言わずもがなたるジェームズ・テイラー、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェル、ジャクソン・ブラウンなどの諸作を筆頭に今でも各種のレコード、曲の数々は世界中で求められていて、特に儚げな強度はいつ聴いても、個たる声の響きが世界という不明瞭なカオティックな網を越えてゆく快感をおぼえる。

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 この曲を収めたアルバム『Hearts That Strain』 はUSのカントリーの聖地ともいえるナッシュビルでレコーディングされ、三週間という短時間で完成させたという佳さもこの曲には表われている。

 決して枯れ具合や日和ったなどの形容ではなく、今この現在の彼が想う方向に進む様がやはり良い、ひとつ何かを表現することさえ艱難な時代だからこそ、この方向からの斜光は過去をまた照らし返し、そう思わせてくれる「How Soon The Dawn」での静かな剛健さを帯びた顔になったジェイクと、自分以外の他者がスクリーンに映るだけで必ずしも不幸ではないという尺度をミニマムに変換し直させしてくれるようなMVも心身を和ませてくれる。一度ずつ、その都度ごとに決定打を出すことはせずともいい、また、如何にもなビッグネスに靡くことは得策ではないのと同じく、漸次な変化や成長は緩やかで平穏な個別の体内時計でこそ整う。それをして、当たり前に感覚やイメージの乖離や処理能力、感性をして一旦、離れる人も居れば、受け容れられる人もいる。もっと多様にバラバラにあってこそ。

 彼のここからこそが何だか楽しみになると思えるのではないか、というあたたかさが分け隔てられたらもう少しだけ口ずさめる歌や未来が増えるような錯覚に酔いながら。

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 余談だが最後に、“枯山水キット”というのがあって、トルコ人の知己から教えてもらって、本当に玩具のようなものなのだが、水の流れを作るように砂を掻き、気流を作るのだという。そういう所作ほど、どこか日本では近いようでどんどん知ることができない。知ることから、始まる呼吸の数え方もある。一筆書きにも時には試し書きがいるように、間合いの美しさは言語や過大な素振りを平易に越える気がする。

(2017.8.21) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))

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