【新連載】金属恵比須・高木大地の<
青少年のためのプログレ入門> 第1回
「プログレを『実食』!~ピーター・
ガブリエルの巻~」

健全な青少年は、「プログレ」という言葉を知らないと聞く。「ゲスの極み乙女。」の自称するジャンルが、「ヒップホップ・プログレ・ロック」。しかし真ん中に挟まれたカタカナには誰も気づかない。
中には「プログレ」という言葉を知っている青少年もいる。以前、ガラガラに空いた深夜の東急線で、若者3人組が大はしゃぎしていた。
「おい、お前、『プログレ館』のニオイする! タハハァ、『プログレ館』のニオイだよ、これ!」
「ほんとだ! クセェ! 『プログレ館』だ!」
「ほんとマジやめろよ」
若者が何に対して「プログレ館」と言っていたのかは定かではない。そして彼らが「プログレ」の意味をちゃんと理解した上の発言でもなさそうだ。「プログレ館」という語感に対して無性な面白さを感じ、連呼したかっただけに違いない。ここまできたら、もはや差別用語の域である。
仮に意味を理解した上で発言していたのだったら、私は窓をこじ開けて多摩川に飛び込んでいたことだろう。なぜなら、「プログレ館」にてCDを取り扱っていただいている「プログレ」ミュージシャンだからである。ちなみに「プログレ館」とは、大手CDショップ「ディスクユニオン」でプログレを専門に扱っている場所の名前。新宿のど真ん中にあり、全国のプログレ・ファンが必ず訪れる“聖地”だ。
「プログレ」という言葉は、良くも悪くもインパクトのある言葉のために、食わず嫌いの扱いにされることが多い。一般的に「プログレ」という言葉が醸し出すネガティヴなイメージといえば、
・難しそう
・よくわからない
・長い
・オヤジ臭い
・イケてない
・キモい
と、あたかも出世とは無縁の面倒臭い上司を形容するかのようだ。それでは青少年がついてこないのは仕方あるまい。私だったらこんな上司、避ける。
申し遅れた。筆者は、プログレ・バンド「金属恵比須」を20年以上運営している者である。僭越ながら自己紹介をさせていただきたい。
1980年生まれの37歳。社会でいうところの「中堅」にあたる世代であり、この世代のドンズバの音楽といえば、globeやTRFに代表される「小室系」だった。
にもかかわらず、私は流行とは無縁の音楽人生を送ってきた。親の影響から小学校5年よりディープ・パープルやレッド・ツェッペリンなどの70年代ロックを聞き始め、そのままプログレの道に進み、今日に至る。
1991年にバンドを結成し、1995年にはオリジナルのプログレ曲でNHKに出演する。1996年に「金属恵比須」と改名、2006年にはメキシコで行なわれている世界最大規模のプログレ・フェス「Baja Prog」に最年少で出演。日本代表として世界の舞台に立った。2015年にはNHK-FM『今日は一日プログレ三昧』で取り上げられ、髙嶋政宏氏に絶賛され今日に至る。
手前味噌ながら、20年以上活動しているのだから金属恵比須はプログレ・バンドの中でも「中堅」~「ベテラン勢」だと思いこんでいた。しかし、紹介をされるときは、いつも「若手」やら「新人」と形容される。
これは、テレビのお笑いの世界とも共通する事象かもしれない。大御所ばかりが目立ち、「若手」の出る間がない。ナインティナインの岡村隆史氏が、タモリ氏の楽屋に行くたびに、
「もう死んでください、あとがつかえてますから」
と懇願していたらしいが(『papyrus』2008年10月号、幻冬舎)、それと同じ状況が今のプログレ界にもあるのかもしれない。
いや、テレビのお笑い界のほうがまだ安泰だ。タモリ氏に「死んで」もらわないと「若手」が脚光を浴びられないということは、裏を返せば「中堅」以下の「若手」勢が大勢存在するということだ。
対して、プログレ勢はどうか。「もう死んでください」という前に、ベテラン組が既に鬼籍に入っている。望んでいないのに、バタバタと倒れて逝ってしまっているのだから深刻だ。
にもかかわらず、「若手」が脚光を浴びないというのは――つまるところ、後継者がいないのだ。日本をはじめとした「先進国」にとっての大きな問題となっている「高齢化社会」というのが、このプログレ界隈にも確実に浸食している。くしくも、「プログレ(progressive)」とは「先進的」という意味。「先進国」もプログレも問題は同じだ。
ということで、若い世代へ啓蒙し後継者を育成すべく、今月より『青少年のためのプログレ入門』という連載を持つこととなった。
「キモい」という印象を与えないように、なるべく能書きを垂れることは避け、経験をもとに、音楽自体に触れて誤解を払拭させることができればと思っている。
最初に取り上げるのは、ピーター・ガブリエル「スレッジハンマー」。1986年の大ヒットシングルだ。

聞いて納得、絶対耳にしたことのあるフレーズが出てくる。フジテレビ系人気番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』の看板コーナー「食わず嫌い決定戦」の「実食」時のテーマ曲である。
ピーター・ガブリエルは、1950年イギリスで生まれ、1969年にプログレ・バンド「ジェネシス」のヴォーカルとしてデビュー。衣装や被り物を身にまとい、MC中に小話を行なうなど、演劇的なステージングが評判となる。数々の名作を発表後、1975年、プログレ・シーンが絶頂の頃にジェネシスを脱退した。
脱退発表時の声明文にはこうある。
「ぼくがキャベツ(栽培)に入れこんでいるのに、バンドのスケジュールをそれにあわせてもらえっこなんかない。」(『ピーター・ガブリエル(正伝)』スペンサー・ブライト著)
脱退後は音楽界から引退し、バンド・メンバーからの何のお咎めもなく悠々自適に家族と過ごしキャベツ作りに精を出した。なんと幸せ者だろう。
1977年、さすがにキャベツに飽きたのか、ソロ・デビューを果たす。ソロにおいてもコスチュームにこだわり、ストーリー性のある楽曲も披露したりと、ある意味でプログレッシヴな姿勢を崩さずに活動を続けていた。しかしそれは同時に「難解」「奇態」とも受け取られ、セールスに結びついていなかったのもまた事実。
そんな状況から1986年4月に飛び出してきたシングルが、この曲なのである。「スレッジハンマー」とは大きなハンマー。ピーターは、インタビューでこう語る。
「ぼくが言わんとしたのは、他のコミュニケーションの方法ではうまく行かない場合でも、時にはセックスが壁を突き破ってくれることもあるってこと」(同著)
この曲において、ピーターは、「プログレ」の壁を突き破ってポップ界に仲間入りすることとなる。テーマも非常にわかりやすく身近なものとなった。「壁を突き破る」とは、ひとつ前進すること。その意味でもこの曲は「プログレッシヴ(=前進的)」なのである。
ご覧のとおり、PV映像はほぼコマ撮りで、これも当時としては画期的だった。100時間かけて撮影をし、「雲間に浮かぶピーターの顔に空が被る効果を出すのには6時間かかった」(同著)そうだ。結局数秒しか採用にならず。しかしその甲斐あって、MTVの賞を総なめしている。
なお、1986年6月にアメリカ・チャートで1位を獲得。追い落とされたシングルは、古巣のジェネシス「インヴィジブル・タッチ」だった。何の因果なのか。

それにしても、全米のチャートを独り占めしてしまうほどのポテンシャルを持つメンバーがかつて一堂に会していたという事実が凄まじい。
1970年代の「ジェネシス」というバンドはある意味「化け物」のように思えてくる。
「未来」のヒットメーカーたちがそろって演奏している若々しい姿がこちら。
1974年のジェネシス「サパーズ・レディ」。

20分を超える曲で、お花を被って踊り狂ったりするという常軌を逸した行動。このヴォーカルがピーター・ガブリエルなのだ。ある意味「化け物」のように見えてくる。
ん? 「プログレ館のニオイ」しちゃった?
(つづく)
【参考文献】
『papyrus』2008年10月号、幻冬舎
『ピーター・ガブリエル(正伝)』
スペンサー・ブライト著、岡山徹訳、音楽之友社、1989年
公演情報
金属恵比須ワンマン・ライヴ「戦国恵比須」~歴史は我々に何をさせようとしているのか?~
■日時:2017年10月14日(土)18:30開演
■会場:SILVER ELEPHANT(東京・吉祥寺)
■チケット一般発売:2017年8月19日(土)11:00
■出演:金属恵比須
vo.稲益宏美
b.栗谷秀貴
dr.後藤マスヒロ(ex.人間椅子頭脳警察・GERARD)
g.vo.高木大地
key.宮嶋健一
■公式サイト:http://yebis-jp.com
高嶋政宏(スターレス高嶋)氏も大絶賛!TV ・雑誌で話題沸騰中の新タイプ・プログレバンド1年ぶりのワンマン・ライヴ開催!大人気作家・伊東潤氏とのコラボ企画!】

6月には森高千里・渡部健司会の人気音楽番組『Love Music』(フジテレビ系)で取り上げられ、『タモリ倶楽部』でもバンド名が連呼されるなど、メディアで徐々に注目されている金属恵比須。

HMV record shopより発表した初のLP『ハリガネムシのごとく』のセールスも好調の、新世代プログレッシヴ・ロック・バンドである。ドラムに後藤マスヒロ(ex. 人間椅子、頭脳警察etc…)を迎えて3年がたち、鬼気迫るライヴ・パフォーマンスは高い評価を受けている。

そんな金属恵比須が、約1年ぶりにワンマン・ライヴを開催する。今回のテーマは“歴史文芸界”と“ロック”のミックスマッチ。歴史テレビ番組などで大人気の歴史小説家・伊東潤氏とのコラボレーションが実現した。

本人公認のもと、小説『武田家滅亡』(角川文庫刊)をモチーフとした新曲を初披露。プログレ・ファンならずとも、歴史ファン、文芸ファンをも魅惑するステージになりそうだ。

もちろん、ロングセラーアルバム『ハリガネムシ』からも演奏する。特に、あまりライヴで演奏されることのない大作「光の雪」は1年半ぶりに披露予定。マニアにはたまらない機会となる。

近年は常に超満員の金属恵比須ライヴだが、今回は、少しでもゆったりとワンマンを楽しんでいただけるよう、いつもよりも販売チケット枚数が若干少なめ。早めのソールド・アウトも必至か。いま日本で最も勢いのある生のプログレッシヴ・ロックをお見逃しなく!

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