『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』

    『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』

    真島昌利が『夏のぬけがら』で見せた

    バンドとは異なる深淵なる世界観

    『夏のぬけがら』(’89)/真島昌利

    『夏のぬけがら』(’89)/真島昌利

    各地で野外音楽フェスが盛り上がりを見せ、甲子園球場ではまだまだ熱戦が続いているが、お盆休みのUターンラッシュが始まった…なんてニュースを耳にすると、そろそろ夏もピーク。お隣の『ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!』では、いろいろと夏にまつわる楽曲を紹介しているようだが、彼のコーナーよろしく、当方でも夏っぽい邦楽名盤を取り上げてみたいと思う。

    こんな“夏のアルバム”はいかがですか

    7月上旬から気温30度超え連発で、どこからともなく「3年後、こんな灼熱の東京で本当にオリンピックができるのか!?」なんて声も聞こえていた昨今。ほんと暑くて暑くてどう仕様もなく、8月9日に最高気温37度を記録した辺りには、したり顔で「こりゃ、マジで日本は亜熱帯になったのね」とか思っていたのだが、しかし、そこから一転、翌日から30度以下、ここ数日、25度、26度という気温が続くと、「…何か暑くないのはやっぱり夏っぽくないね」とか思ってしまうから人間とは勝手なものである。ラジオの天気予報を聴いていたら、先日までお天気お姉さんに「この暑さはいつまで続くんですか?」と呆れた口調で訊いていたパーソナリティーが、後日、その同じ口で「スカッと晴れないもんですかね?」と尋ねていたから、みんな同じことを考えるようだ。♪夏が来れば思い出す♪じゃないが、暑い暑いと文句を言っても、やっぱり夏はジリジリと暑いくらいじゃないと違和感がある。季節というのはそれだけ我々にとって身近なものであり、その感覚はまさに肌に染み込んでいるといったところだろう。
    季節にフォーカスを絞った作品はたくさんある。それこそ“夏に聴きたいアルバム”なんてテーマを掲げたら、The Beach Boysに始まり、レゲエやハワイアン、ボサノヴァの名作があれこれ出て来るだろう。当コーナー的に邦楽作品を挙げるとするなら、まず大滝詠一、山下達郎、サザンオールスターズ辺りの名前が出て来るだろうか。あと、ORANGE RANGE、湘南乃風、やっぱりTUBEも忘れちゃいけないし、ゆずも初期作もそこに加わるかもしれない。個々に思い入れのあるアーティスト、作品があるだろう。独断専行を旨とする(?)『邦楽名盤列伝!』では、真島昌利の初のソロアルバム『夏のぬけがら』をそこに入れてみたい。この季節に誰もが聴きたくなる定番…というわけではないが、これを聴くといつでも夏を思い出せる傑作である。

    バンド絶頂期に送り出したソロ作品

    作者の真島昌利に関しては説明不要だとも思われるが、念のため、簡単にプロフィールを以下に記す。1987年にTHE BLUE HEARTSのギタリストとしてメジャーデビュー。1995年のバンド解散後には甲本ヒロト(Vo)と共に↑THE HIGH-LOWS↓を結成し、約10年間に渡って活動した後、2006年からはザ・クロマニヨンズに活動の場所を移した他、2015年にはヒックスヴィルの真城めぐみ(Vo)とましまろとしても活動を開始。この30年間、音楽シーンで精力的に動き続けてきたアーティストである。愛称はマーシー。ギタリストとしてはもちろんのこと、コンポーザー、作詞家としても高い評価を受けていることは言うまでもなかろう。
    彼の初ソロアルバム『夏のぬけがら』は、THE BLUE HEARTSの3rdアルバム『TRAIN-TRAIN』がリリースされた1988年、その1年後に発表された作品である。『TRAIN-TRAIN』のタイトルチューンでもあるシングル「TRAIN-TRAIN」は発売時にチャート5位とバンド最高位を記録しているので、もともと世評の高かったTHE BLUE HEARTSが本格的にブレイクしたのは1988年と見てもよかろう。バンドやグループが一般層にまで浸透した後、そのメンバーがソロ作品を発表するのはわりとよくあることで、マーシーの場合もそれと同じようなものだったと言える。また、メンバーがソロ作品を発表する時、バンドやグループとは印象が異なる作品を出すこともよくあるケースだが、『夏のぬけがら』もまさしくそれだった。アルバム『TRAIN-TRAIN』にはブルースやフォーク、カントリーも収録されていたので、それとは真逆と言わないまでも、THE BLUE HEARTSのロック、パンクとは雰囲気の違う作品であった。

    歌詞とヴォーカリゼーションとの親和性
    の高さ

    先行シングルであり、近藤真彦のシングル曲としても提供されたM8「アンダルシアに憧れて」が収録曲中唯一のアップテンポ。M3「さよならビリー・ザ・キッド」やM12「ルーレット」も比較的テンポは速い気がするが、他がミディアム~スローなので、相対的にそう感じるだけだろう。つまり、『夏のぬけがら』は全体としてゆったりとしたテンポの作品である。サウンドはバンドスタイルで、M1「夏が来て僕等」でのボサノヴァ・タッチ、友部正人のカバーであるM6「地球の一番はげた場所」ではレゲエ、M7「オートバイ」のハワイアン、そしてM8「アンダルシアに憧れて」のスパニッシュと、多彩な顔を見せるものの、使用楽器がアコースティック基調なので、所謂ロックバンドのそれとは趣が異なると感じるリスナーは多いことだろう。もしかすると、リアルタイムで聴いたTHE BLUE HEARTSリスナーの中には、パッと聴き拍子抜けした…なんて人がいたかもしれない。だが、そのバンドとの落差故に、マーシーの際立ったキャラクターを感じられる、ソロアルバムらしいソロアルバムと言えると思う。
    やや甲高いマーシーの声は若干ハスキーで、言わば少年っぽいヴォーカルだ。決して上手いヴォーカリストの部類には入らないだろうが、その唯一無二のパフォーマンスが本作にものすごくいい効果を上げていると思う。それは歌詞との親和性である。自分で書いた歌詞を自分自身で歌ってるのだから、もともと親和性はあってしかるべきだろうが、『夏のぬけがら』ではあの声があるからこそ、歌詞世界を立体的に感じることができると思う。
    《夏が来て僕等 アイスクリーム食べて笑った/木に登り僕等 何回目の夏か数えた》《夏が来て僕等 高校野球なんて見ないで/夏草にのびた 給水塔の影を見ていた》《夏が来て僕等 成長のドアを足であけた》(M1「夏が来て僕等」)。
    《21で結婚して 27でもう疲れて/夢のかけらさえ投げ出し 惰性で時を過ごしている/ぬけがらのようにうつろで 話題は過去に流れてく/君はふせ目がちになって 他人の人生をうらやむ》《何が君におこったんだ 何かが君をケっ飛ばした/君がとてもすけてみえる 消えてしまいそうなほどだ》(M3「さよならビリー・ザ・キッド」)。
    《人っ子一人いない夜 オートバイが走っていく/シートの上はカラッポで 誰にもあやつられちゃいない/心を隠してきたんだ 心を隠してきたんだ/オートバイが走っていく ただもう走っていくんだ》(M7「オートバイ」)。
    《洋服着た犬連れて オバサンが歩いてく/すました顔厚化粧 オバサンが歩いてく/洋服を着た犬は どうも好きになれない》(M9「花小金井ブレイクダウン」)。
    《一晩中地獄の炎に 焼かれるオマエを夢見てた/辛くてはりさけそうな オマエの痛みを夢見てた》《もう少しおたがいの事を 利用できるほどタフだったら/オレ達がはなれる理由は 何一つなかったんだろう》(M12「ルーレット」)。
    ここで描かれているのは懐古、無垢、悔恨といった言葉で表現できる情景だろうが、これらをマーシーの声で歌われると、その世界の時間軸の起点が少年~青年期に置かれるような印象がある。一瞬で過去に呼び戻されるようでもあるし、過去から現実を突きつけられているようでもあり、懺悔から決して逃れられないことを指摘されているようでもあって、いずれにしてもより激しく感情が揺さぶられるようだ。作品自体はパーソナルでも汎用性が高くなるというのは、音楽に限らず、小説にも映画にもあることだが、これは名作の必要条件でもあろう。

    歌の世界観をさらに深めているサウンド

    “サウンドはアコースティック基調で所謂ロックバンドのそれとは趣が異なる”と前述したが、だからと言って、決して歌の添え物的にはなっていないことを最後に強調しておこう。このサウンドメイキングがヴォーカリゼーションで立体的になった歌の世界観をさらに深淵にしているとも思う。最も分かりやすいところから言うと、M8「アンダルシアに憧れて」のバイオリンとガットギターだろう。歌を拮抗するかのようなバイオリンと、2番から入って楽曲をドラマチックに盛り上げるフラメンコギターは異国感、緊張感を助長しており、改めて言うまでもなく、本当に素晴らしい。テンポがゆるやかな楽曲もまたしかりで、M4「風のオートバイ」はその好例だ。パッと聴き、派手さこそ感じられないが、スネアの抜けはいいし、ベースラインはよく動くし、ギターはノイジーに自己主張している。ピアノの音も尖っており、サウンドの勢いと力強さは必ずしも比例する必要がないというか、音楽においては柔らかさと迫力とが相反しないことが分かる秀曲である。M11「夕焼け多摩川」もそうだ。ピアノとギターのみのサウンドで、構成こそシンプルなのだが、得も言われぬ迫力がある。《知ってる事と知らない事のまんなかで/川は流れていく変わっていく/何も気にしないで》と綴られた歌詞は喜怒哀楽をはっきりと表したものではないのだが、それでも悲哀の強さを感じてしまうのは、サウンドによるところが大きいのだと思う。楽曲を構成する要素が互いに絡み合って、それぞれ単体では成し得なかった効果を生んでいるのは、音楽作品としては理想的なかたちではあろう。

    TEXT:帆苅智之

    アルバム『夏のぬけがら』1989年発表作品
      • <収録曲>
      • 1.夏が来て僕等
      • 2.クレヨン
      • 3.さよならビリー・ザ・キッド
      • 4.風のオートバイ
      • 5.小犬のプルー
      • 6.地球の一番はげた場所
      • 7.オートバイ
      • 8.アンダルシアに憧れて
      • 9.花小金井ブレイクダウン
      • 10.カローラに乗って
      • 11.夕焼け多摩川
      • 12.ルーレット
    『夏のぬけがら』(’89)/真島昌利

    OKMusic編集部

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    16コメント
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    • 【真島昌利】良い文章です。直にALBUMを聞き直したくなります。帆苅さんは新潟のCASTでお世話になった文筆家さんだと思いますがありがたいです。 https://t.co/0TdV7TfH85
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