ハナエ『神様はじめました』に込められた甘酸っぱい初恋の記憶

ハナエ『神様はじめました』に込められた甘酸っぱい初恋の記憶

ハナエ『神様はじめました』に込めら
れた甘酸っぱい初恋の記憶

『神様はじめました』はハナエの3枚目のシングルだ。今まで自作曲しか歌ってこなかったハナエの、初の「人の曲を歌う」挑戦でもある。両A面シングルで、もう一曲はザ・テンプターズの『神様お願い』のカバーだ。また2曲とも、アニメ『神様はじめました』のOP・ED曲にも起用された。
今回とはアニメとは切り離した状態で、楽曲『神様はじめました』をひもといてみたい。

『神様はじめました』には、数々の文学作品からの引用が見受けられる。
まずこの「ため息はヴィオロンの調べ」という部分。これは、フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの「秋の歌」という詩の冒頭だ。日本では上田敏の訳詩集『海潮音』の中で、「落葉」というタイトルで、「秋の日の ヰ゛オロンの ためいきの」と翻訳されている。古い翻訳だが、知っている人は知っている有名な一節だ。
続く「赤い実はじけちゃった」は、名木田恵子『赤い実 はじけた』という小説のタイトルからだろう。長年教科書にも載っていた作品なので、馴染みのある人も多いかもしれない。初恋をテーマに綴られた物語であり、近年では「赤い実がはじける」と言えば「恋に落ちること」を指す慣用句のように用いられることも多いようだ。
ここではフランスの詩人・ボードレールの詩集『悪の華』のタイトルがそのまま引用されている。漫画のタイトルにもなったりしていたので、普段本を読まない人でもご存じかもしれない、翻訳された詩集は割と分厚い出来で、文庫本で手にできる。耽美で退廃的な詩や、恋愛詩などが収録されている。
ここまでで、この『神様はじめました』という楽曲は、わかったりわからなかったりする引用を多数交えて、遊び心満載に歌詞が書かれていることがおわかりいただけたのでは、と思う。
「恋」をテーマにした歌ではあるが、その中でも「初恋」を思わせる初々しさも魅力だ。「恋」を連想させる数多の作品を引用することで、より曲の世界観が不思議で楽しくて賑やかで、甘酸っぱい恋の記憶を思い起こさせるものになっている。
最後にもうひとつだけ引用を指摘しよう。「上げ染めし前髪の」という部分は、明治時代の詩人・島崎藤村の、そのものズバリ『初恋』という詩の冒頭「まだ上げ染めし前髪の 林檎のもとに見えしとき」からの引用だ。
この「上げ染めし前髪」というキーワードは、実は元JUDY AND MARYのボーカル・YUKIも『恋愛模様』という曲の歌詞に使用している。
ミュージシャンは音楽を聴くだけでなく、実は詩集もよく読んでいるのかもしれない。
『神様はじめました』という曲は、初々しくも積極的な女の子の気持ちをつぶさに描くと同時に、わからなくてもいいけど、わかるとちょっと面白い引用を交えた、耳に心地よい楽曲だ。まだ聴いたことのない人は是非聴いてほしい。
もちろんアニメと並行しても楽しめるし、切り離しても楽しめる。
ハナエの特徴であるウィスパーボイスが、あなたの初恋の思い出に彩りを与えてくれるかもしれない。
Txt:辻瞼

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