INTERVIEW / Mr Jukes 「サンプリン
グするという行為は、そのミュージシ
ャンと共演しているようなもの」――
絶えず変化を続けるJack Steadmanが
見つめる現在地
2014年リリースの4thアルバム『So Long, See You Tomorrow』が全英1位を獲得するなど、UKでは確固たる地位を確立していた4人組バンド、Bombay Bicycle Club。2ndアルバム、3rdアルバムも全英チャート・トップ10以内に入るなど、順調にキャリアを築いているように見えた彼らが、急遽活動休止を宣言したのが2016年1月のことだった。
そしてそこからおよそ1年後の2017年3月、急遽バンドのフロントマンであるJack Steadman(ジャック・ステッドマン)が、Mr Jukes(ミスター・ジュークス)という名義でソロ・プロジェクトを指導させたことを発表。古のソウルやジャズ、ファンクといったブラック・ミュージックを現代的な編集感覚、サウンド・プロダクションで再構築したようなそのサウンドは、これまでバンド活動と並行しながらも、自身のSoundCloud上にリミックスやオリジナルのビートをUPしていたJackを知る人にとっては、実に納得のいくものであったと言えよう。
そんなMr Jukesが早くもデビュー・アルバム『God First』を7月14日にリリースした。前述の通り、クラシカルなブラックミュージックの意匠を纏った本作には、BJ the Chicago KidやLianne La Havas、Charles Bradley、De La Soul、Horace Andyなど、バラエティに飛んだゲストを招致し、非常に自由度の高いサウンドを展開している。しかし、この華やかかつ外に大きく開けた作風となった『God First』だが、なんとその一番のインスパイア元となったのは日本のジャズ喫茶だという。今回はそんな日本愛に溢れたJack Steadman改めMr Jukesのインタビューをお届けしたい。
Interview by Hiro Suzuki
Text by Takazumi Hosaka
Text by Takazumi Hosaka
——このプロジェクトの構想は、いつ頃から生まれたのでしょうか?
Jack Steadman:こういうサンプリングとビートを使った音楽自体は、Bombay Bicycle Club(以下:BBC)以前、15歳の頃から作っていたんだ。ただ、名前を思いついたのは最近で、中国からカナダまで貨物船で旅をしていた時に、読んでいた本のキャラクターがMr Jukesだったんだよ。
——では、今回のソロ・アルバムは、これまでに作っていた曲をまとめたものなのでしょうか?
このアルバムの曲は、新しく作ったものが多いんだ。スピリチュアル・ジャズと呼ばれているような、John ColtraneやFarrell Sandersなどの音楽が、僕はすごく表現力のある音楽だと思っていて、楽曲も『God First』というアルバム・タイトルも、そういうところからインスピレーションを受けていると言えるね。
——BBCでも多様な音楽のジャンルやスタイルを取り入れていましたが、今やりたいのはこういう音楽ということですか?
そうだね。BBCの時は、インドで買ったレコードとかからサンプリングのアイディアを得ていたし、今はこういうタイプのレコードを買っているから。自分が出す音と自分が買ったレコードは直結していて、レコードをサンプリングするという行為は、そのミュージシャンと共演しているようなものなんだ。作業としては孤独なんだけど。
——相当なレコード・オタクのようですね。
ハハハ。メロディとリズムがあるものは、なんでも好きだから。
——ジャンルも時代も関係ないと。
うん。メロディとリズムさえあれば(笑)。
——レコードは何枚ぐらい持っているんですか?
えっと……数えたことはないな。まあ、壁がレコードという感じ(笑)。日本盤が多いんだよ。特にジャズのレコードはね。日本のは状態がいいんだ。あと日本のリイシュー盤は、すごくクオリティが高い。
—―ジャズ喫茶が好きとも聞きました。
そうなんだ。こないだリリースしたシングル「Grant Green」も、東京のジャズ喫茶でグラント・グリーンを聴いて、生まれた曲なんだよ。アルバムの中でも重要な曲になったと思う。
——アルバム・ジャケットも、ジャズ喫茶をイメージしているのですか?
いやいや違う(笑)。ジャケットはね、ロンドンの床屋なんだ。実際にあるんだよ(と、写真を見せてくれる)。
——あ、ほんとだ。実在するんですね。
この店のデザインがすごく好きで。だから、デザインまでサンプリングさせてもらったというわけ(笑)。
——『God First』のソングライティングは、すべてご自身によるものですよね?
うん、そう。作曲はひとりでやって、演奏はロンドンのジャズ・ミュージシャンとのセッションなんだ。
——どんなミュージシャンですか?
みんな有名な人ではないよ。サウス・ロンドンに、自分と同じぐらいの世代のコミュニティがあって、いいミュージシャンがいるんだ。ほとんど世界的には知られていないけど。でも、フィーチャリングのDe La SoulやHorace Andy、Charles Bradleyとかは、日本でも知られているんじゃないかな。
——みんな自分で見つけてオファーしたのですか?
うん。アルバムを聴いたり、YouTubeとかSpotifyとかでね。元々ファンだった人たちだから、自分で曲を書いて、やってくれるといいなと思ってお願いしたんだ。
——一番最初にマスターした楽器がベースで、曲もベースから作るそうですが、このアルバムでもそうですか?
曲によってはベースから書いたものもあるけど、サンプリングから作る場合が多かったかな。でもベースは僕にとって、もっとも重要なパートだよ。フィーリングという意味でね。曲からベースを抜いたら、何も残らないというぐらい。
——今回プレイしている楽器を教えてください。
ベースとドラム。あとキーボードも。
——ウッド・ベースもあなたが?
あれは僕じゃなくて、さっき言ったサウス・ロンドンのミュージシャンだよ。
——アルバムを聴かせていただいて、ヴィンテージ感があるのと同時に、モダンで新鮮な感触もあると感じました。まさにそういうものを作りたかったんだ。ヴィンテージ感は、ドラムとかホーンとかから来ているんだと思う。70年代のレコーディングって、その辺りがいいと思っているんだ。でも同時に、コンテンポラリーなものも好きだし、どっちも魅力があると思っているからね。
——ご自身で歌ってもいるのですか?
何曲かでは歌っているよ。でも前面には出ていなくて、ハーモニーとかだね。もし自分が歌ったら、それはBBCになってしまうからね。今回は、何の制約もなく「世界中の誰にでもいいから歌ってもらえるとしたら、どういう曲を書く?」という感覚で曲を書いたしね。
——プロデューサーは起用していないのですか?
うん。全部自分で。
——今に始まったことではないですが、マルチな才能を持っていますよね。
そういう自分の難しさというか……一般的な目で見ると、僕のようなタイプはアイデンティティがないと思われがちで、あまりにもいろんなことをし過ぎるって言われてしまうんだ。自分にとっては、全部自分が好きな音楽というところで全然不思議じゃないんだけど、普通の人は好きなバンドが同じことをやってくれると思っているし、それが安心感になったりする。だから僕が好きなことをやっていると、「何をやっているんだろう、この人は」って思われることが少なくないんだ(苦笑)。
——ちなみに、メタルの曲を書いてと言っても、EDMを書いてと言っても、すぐに書けちゃいます?
うん。ただし、メロディとリズムがあるということが条件だよ(笑)。
——このアルバムを作るにあたって、影響を受けたなと思う人がいたら教えてください。
まずは、Kendrick Lamarかな。それからDamon Albarn。Damonは、それまでやってきたことを捨てて、自分の好きな音楽をやったという姿勢もリスペクトできる。
——ご本人の中では、Mr JukesはBBCと地続きなのでしょうか? それとも、新しい自分という感覚ですか?
それは、どっちでもいいと思っているんだよね。BBCでも曲を書いて、今も書いているわけで、自分にとっては続いているものだけど、ファンには別なものに感じるだろうから。
——気持ちとしては、BBCで全英1位も獲得したことで、個人的なプロジェクトに向かう踏ん切りがついたというのはありますか?
それはあるかもしれない。ブレイクを取るのに、いい機会だと思ったんだ。下り坂になって辞めるより、頂上で辞める方がタイミングとしていいし、幸せな想い出が残るから。そういう想い出自体が貴重だし。僕は、あまりに多くのバンドが辞めることを恐れていると思っているんだ。続け過ぎて、悲惨なことになる場合もあるのにね。
——このプロジェクトは、ずっと続けるつもりですか?
自分が、人生の今この時期にやっていること。それがMr Jukesだと思っているんだ。こうしてアルバムを作ることもそうだし、ジャズ喫茶をロンドンで開くことになるかもしれないし、バンドを率いて演奏するかもしれない。全て含めてMr Jukesっていうね。ちょうどバンドができたところで、9人編成なんだ。僕がベースで、ホーンが3人、シンガーも3人で、ドラムとキーボード。最初のショウがロンドンで、2回目が”SUMMER SONIC”だから、日本に戻ってくるのが楽しみだよ。
—―”SUMMER SONIC”のステージに期待しています。
BBCの時は、「こういうショウになるよ」って言えたんだけど、このプロジェクトは即興中心なので、なかなか言えないんだ。このアルバムの曲をもちろんやるんだけど、アルバムで4分の曲がライヴだと15分になるってこともあるかもしれない。自分でもまったく予想がつかないんだよね。
——このアルバムって、すごくマニアックな聴き方もできるし、でも聴き心地がいいから、ポップ・ミュージックとして気軽に楽しめるものでもあると思うんですよね。
それこそが、僕が好きなタイプの音楽なんだ。その両方のバランスが必要だと思うんだよね。自分が作った音楽を覚えてもらいたいから、聴いてすぐいいなって思ってほしい。でも同時に、10回聴いたら10回違う発見があるというのも、すごくおもしろいと思うから。
——親日家のようですが、日本のどんなところが魅力ですか?
なんか、自分がどうこうっていうより、日本が自分をすごく受け入れてくれている気がするんだ。自分が外国人だから、そう見えるのかもしれないけど。特に、日本の人の相手に対する敬意とか礼儀正しさとかは、ちゃんとプライドを持って生きているように見える。あとは食べ物だね(笑)。
——ライヴで曲の合間に静かになることに、違和感を覚えるというアーティストも少なくないですが。
まったく気にならない。自分も似たタイプだからね。日本の人って、会ってすぐには自分の気持ちを言えないみたいなところがあるけど、僕も一緒なんだ。で、よく話してみると、お互いのことがよくわかるっていう。すごく似ていると思う。
——できることなら、日本のジャズ・クラブとかジャズ・バーでショウをやりたいですか?
そうなったら、それはとても光栄なことだね(笑)。
【リリース情報】
Mr Jukes 『God First』
Release Date:2017.07.14 (Fri.)
Label:Island Records
Tracklist:
1. Typhoon
2. Angels / Your Love (feat. BJ the Chicago Kid)
3. Ruby
4. Somebody New (feat. Elli Ingram)
5. Grant Green (feat. Charles Bradley)
6. Leap of Faith (feat. De La Soul & Horace Andy)
7. From Golden Stars Comes Silver Dew (feat. Lalah Hathaway)
8. Magic
9. Tears (feat. Alexandria)
10. When Your Light Goes Out (feat. Lianne La Havas)
Label:Island Records
Tracklist:
1. Typhoon
2. Angels / Your Love (feat. BJ the Chicago Kid)
3. Ruby
4. Somebody New (feat. Elli Ingram)
5. Grant Green (feat. Charles Bradley)
6. Leap of Faith (feat. De La Soul & Horace Andy)
7. From Golden Stars Comes Silver Dew (feat. Lalah Hathaway)
8. Magic
9. Tears (feat. Alexandria)
10. When Your Light Goes Out (feat. Lianne La Havas)
【イベント情報】
“SUMMER SONIC 2017”
2017年8月19日(土) / 8月20日(日)
東京:ZOZO マリンスタジアム&幕張メッセ
大阪:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
東京:ZOZO マリンスタジアム&幕張メッセ
大阪:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※Mr Jukesは東京・8月19日(土)に出演
■詳細: www.summersonic.com(http://www.summersonic.com/2017/)
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