【総括レポート】PIERROT×DIR EN G
REY、<ANDROGYNOS>横アリ2DAYS「ひ
とつになれんだろ!」

いよいよ夏フェス・シーズンに突入している日本列島。毎週のように各地で刺激的な音楽の祭典が繰り広げられているわけだが、そんな日々の到来以前に味わった横浜アリーナでの二夜の衝撃が忘れられない。言うまでもなく、7月7日と8日の両日に<ANDROGYNOS>というタイトルを掲げながら実現に至ったPIERROTDIR EN GREYの激突ライヴのことである。
激突、などという陳腐な言葉を用いてしまったが、実際にこの二夜公演がどのような意味や意図のもとに企画されたものであるのかは事前にはわからなかった。もちろん、7日の公演タイトルに<-a view of the Megiddo->、同じく8日分には<-a view of the Acro->という副題が伴っていたことから、インディーズ期の楽曲に「メギドの丘」があるPIERROTが第一夜の、「アクロの丘」をデビュー曲のひとつとするDIR EN GREY(彼らのメジャー・デビュー・シングルは1999年1月に3作同時発売されている)が第二夜の主導権を取りながら展開されるのであろうことはほぼ明白ではあった。ただ、“交わることのなかった2バンドが、ここに破壊的融合”といった宣伝文句にもあるように、この両バンドがひとつのステージを共有したことは過去には皆無だったわけだが(厳密に言えば、DIR EN GREYがDIR EN GREYになる以前、つまり前身バンドだった時代にはライヴハウスでの共演歴がある)、融合という言葉には、単なる対バン形式のライヴ以上の何かを期待させるものがあった。
同時に、融合という言葉が掲げられていながらも、むしろ殺伐とした匂いがあらかじめそこに伴っていたことも間違いない。なにしろ公演の特設サイトを訪ねてみれば、会場内エリア・マップは“戦場マップ”と銘打たれていて、緩衝地帯、非武装地帯といった物々しい文字が躍っていたりするのだ。まさか“緩衝=鑑賞”という洒落ではないはずだし、こうした銘打ち方もまた、この画期的な公演を盛り上げるための演出の一部であることはうかがえる。が、やはりこれは融合ではなく戦闘なのか? 実際、早い段階から“丘戦争”といった言葉が当たり前のように飛び交い、タイトルや歌詞に“丘”の登場するヴィジュアル系楽曲をまとめたサイトが登場するなど、事前のファンの過熱ぶりには、通常のライヴやフェスの場合とは明らかに一線を画するものがあった。
そして迎えた公演当日、筆者が体感することになったのは、戦地のような殺伐とした空気でも、もちろん和気藹々とした宴のような空気でもなく、まさに“破壊的融合”という言葉に似つかわしい、ポジティヴな衝突のもたらす有効な化学反応の大きさだった。
実のところ、第一夜の開演前に場内に漂っていた空気はどこか異様だった。愛情や思い入れの種類や程度こそ違え同じバンドを支持する者ばかりが集結する場とは明らかに違っていたし、筋金入りのファンから“いい機会だから試しに観てみよう”的な見物客に至るまでが混在するフェス会場のような場とも異なった空気がそこには充満していた。双方のファンがお互いを牽制している、というのとも少し違っていた気がする。本当はすぐさま叫び声をあげたいほど高揚しているのに、画期的かつ歴史的な瞬間到来を目前に控えて、ある種の緊張感がその興奮を抑えつけていたのかもしれない。とはいえ、午後6時、開演が間もないことを告げるアナウンスが聞こえてくると、少しばかり緊張の糸が解けたのか、ごく自然に拍手が起こり、それから5分ほどを経て場内が暗転。示唆的なオープニング映像が流れ始めると、DIR EN GREYのライヴ以外の何物でもない空気がその場を支配し始めた。
観衆の興味は1曲目に何が演奏されるかに集中していたはずだが、そこでまず炸裂したのは、「Revelation of mankind」。現時点での最新オリジナル・アルバムにあたる『ARCHE』(2014年)からのセレクトだ。激しくも終末感の漂うこの殺伐チューンは、現在のこのバンドを象徴する楽曲のひとつ。同時にそれは、かつてのDIR EN GREYしか知らない人たちにとっては未知の楽曲ということになるだろうし、即座にすべての観客をひとつに束ね得るものではない。が、そうした曲を最初に披露したところに、無言のメッセージが込められているように僕には思えた。敢えて言うなら“これはノスタルジックな想いに浸るための場ではない”というような。
そして、いきなり時計を逆回転させるようにして次なる「audience KILLER LOOP」(2003年発表の『VULGAR』に収録)が披露され、ステージ左右に設えられたスクリーンに、この曲を歌う京の姿とともに歌詩の一部が映し出された時、“箱庭”という言葉がやけに鮮烈に目と耳に飛び込んできた。箱庭という、閉ざされた楽園。彼らはこの巨大アリーナをそれに見立てているのではないか、と感じさせられたのだ。
この夜のDIR EN GREYのステージは全15曲、70分強で幕を閉じた。さまざまな時代の楽曲が混在した演奏プログラムではあったが、客観的な意味でのベスト選曲でもなければ、前述の通りノスタルジックな感情に訴えかけようとする内容でもなかった。昨年から継続的にこれまでの各アルバムをテーマに掲げたツアーを実践してきているだけに、彼らのなかですべての過去が改めて咀嚼されて同列のものになりつつあるわけだが、そうした彼らの現在がある意味ストレートに映し出されたライヴだったように思う。
とても興味深かったのは、後攻となったPIERROTについてもまたある意味、現在の彼らを体現していると感じられたことだ。改めて説明するまでもないはずだが、彼らは2006年、バンドとしての歴史を自らの手で閉じている。2014年10月には、さいたまスーパーアリーナでの二夜にわたる復活公演を実践し、翌年以降にはPIERROTとしてのオフィシャルサイト再開設、FCの再始動といった動きがみられるものの、少なくとも我々の目に届く範囲内では、バンドとしての継続的な活動が展開されている状態にはなかった。そこで想像されたのは、彼らが集大成的な演奏メニューで往年のPIERROTを再現しながら、現在の日常に何かが足りないと感じ続けてきたはずのファンの心を満たそうとすることだった。実際、午後7時49分にふたたび場内が暗転し、ステージ後方からメンバーが1人ずつ登場しながら配置につき、キリトがマイクを鞭のように操りながら最前線へと歩み出てきただけで、時間が当時へと逆戻りしたかのような感覚をおぼえた。しかもオープニング曲は「MASS GAME」。紗幕に映し出されたシルエットに導かれるまでもなく、オーディエンスは完璧な振り付けで先導者に同調する。そして続く「Adolf」が、いっそう強くすべてをひとつに束ねていく。
それはまさに、かつて何度も目にし、味わってきたPIERROTのライヴならではの一体感だった。語弊のある言い方かもしれないが、部外者から見れば異様と言わざるを得ないほどの。だが、不思議なことに、それでも過去の再現のようには感じられなかった。それは、PIERROTがバンド単位では停止した状態にあっても、各々のメンバーがミュージシャンとして立ち止まっていないからこそだろう。大音量でありながらきわめて良好なバランスで聴こえてくる彼らのバンド・サウンドは、かつてと同じものではなく、明らかに成熟とアップデートを遂げたものとして耳に飛び込んできた。時代への適合を狙うかのようにあからさまにアレンジが変えられていたりするわけでもないのに、だ。
「戦いの準備はできてますか?」
「ピエラーちゃん、狂ってますか?」
キリトの扇動的なMCもまた、あの頃のままだ。が、この言葉に続いて彼が発した「それから……虜ちゃん、狂ってますか?」という一言に、場内には歓声とどよめきが渦巻いた。彼はさらに「一般社会から見れば(どちらも)ただのキチガイ。狂っちまおうぜ!」と言葉を続けた。あくまで挑発的に毒を吐いていながらも、そこには明らかに余裕が、そして不要な壁を取り除こうとする意図が見られた。まさにそれは、オーディエンスを“破壊的融合”へと導く号令だったように思う。
以降のPIERROTのステージはあくまでPIERROT然とした空気を放ちながら続いていった。そして、その終盤、「MAD SKY-鋼鉄の救世主-」に合わせて歌詞を口ずさみながら“監視された箱庭の楽園(エデン)で”という一節に出くわした瞬間、僕はその場で絶句していた。DIR EN GREYの「audience KILLER LOOP」にも登場するこの“箱庭”という言葉が、いっそう意味深長なものに感じられたのだ。双方のバンドが理想を具現化すべく長年を費やしながら耕し、築いてきた楽園。それは世界や宇宙といった単位から見ればごく小さな箱庭のようなものかもしれない。が、複数の箱庭が合体することで、果てしない大地のような広がりを見せることがある。そういえば、この「MAD SKY-鋼鉄の救世主-」には“大地を蹴る鋼鉄の救世主(メシア)”という一説もある。そしてDIR EN GREYがこの夜にも演奏していた「Un deux」で何よりも耳に残るのは“大地を蹴り進め”というフレーズだった。そうした言葉の重なりは単なる偶然でしかないのだろうが、もしかすると両者が目指す理想にはずっと昔から重なり合う何かがあったのかもしれない。そんな想いを抱きながら、僕はこの夜、帰路に就くことになった。(※2日目レポートは次ページへ)
そして翌日、僕のそうした想いはいっそう強いものになった。第二夜は当然のごとく出演順が入れ替わり、まずはPIERROTが登場。クセの強い演奏と音像でありながら、この夜の彼らのバンド・サウンドも刺激を失わぬまま安定感と機能美を保っていた。また、楽曲としてのたたずまいに異形の匂いが伴っていても、やはりこのバンドは耳に残る独特のメロディと、それを他の誰よりも効果的に伝播することのできる声を持ち合わせている。綿密に編まれたコンセプチュアルな作風や活動ぶり、キリトの挑発的な言動や、どこかイビツでありながらクセになるサウンドといったものも当然ながらこのバンドの魅力に数えられるはずだが、やはり肝心なのはそれなのだ。改めて、そう強く感じさせられた。
そして二夜の饗宴を締め括る形となったDIR EN GREYのステージは、前夜の好演をも凌駕するかのような、すさまじい密度とスリリングな落差を伴ったものとなった。ことに中盤で披露された「アクロの丘」から「VINUSHKA」へと続く流れは、ポカンと口を開けて立ち尽くしているしかないほどの圧倒的な緊迫感が、極上の快感をもたらしてくれた。それに続いた「GRIEF」のライヴでの効力の高さ、「Sustain the untruth」のヘヴィなグルーヴの説得力、一緒に歌える部分などごくわずかなのにすべての観客を否応なしに巻き込んでしまう「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」の威力についても、やはり圧倒的なものを感じさせられた。
そして、その「激しさと~」でひとたび姿を消した彼らは、アンコールで「THE FINAL」と「残」を披露。前者の冒頭、“解けてしまう意図”という歌詩が聴こえてきた時、僕の脳裏にはPIERROTの「蜘蛛の意図」が浮かんだ。そして、思った。この<ANDROGYNOS>がどのような意図のもとで行なわれたものであろうと、すべてはもはや解けているのだ、と。かつて同一シーンにおける二大勢力と目され、良くも悪くも比較対象とされる機会の多かった両バンド。しかし彼らを分断するものも、がんじがらめに縛り付けるものも、2017年の現在には一切存在しないのだ。
「THE FINAL」を丁寧に歌い終えた京は「ピエラーさん、今日も元気ですか? DIR EN GREYです」と、超満員の客席に向かって改めて挨拶をした。そして彼の言葉は、次のように続いた。
「ピエラーさんたちと、愛すべき糞ったれども。ひとつ言いたいんですけど……“丘戦争”って何?」
おそらくこの夜、SNS上などでもっとも引用されたのがこのMCだったのではないだろうか。この言葉によって、まさにその場に張り詰めていた緊張感の糸を緩ませた京は、次の瞬間、「おまえら、ひとつになれんだろ! かかってこい!」という叫びでその場に火を放ち、最後の最後、まるですべての残像をかき消すかのような「残」を披露したのだった。
どす黒いカオスを提供しておきながら、京をはじめとするDIR EN GREYの面々は、実に清々しい表情でその場を去っていった。そして実際、ふたつの夜を終えて胸に残ったのは、わだかまりや煮え切らない想いではなく、まさに清々しさそのものだった。そして同時に思ったのは、この機会を通じてPIERROTとDIR EN GREYは、この2バンドにしかできないことを実践することによって、彼らの世代なりの改めての自己存在証明をしてみせたのではないか、ということ。<ANDROGYNOS>は、いわゆる巨大フェスでもなければ、仲のいいバンドばかりが集う祭りでもない。いわば、閉ざされた世界で自分たちなりの苦闘を続けてきたバンド同士のぶつかりあいだ。たとえばそこには、彼ら自身が意図していたか否かはわからないが、対バンとはどういうものであるべきか、ヴィジュアル系にとっての成熟とは何か、といった問題提起も含まれていたかもしれない。が、何よりも強く感じさせられたのは、レジェンド枠と呼ばれつつある上の世代とも、少しだけ下の世代とも明らかに違う理想が、この両バンドにはあるということ。敢えてもっとはっきりと断言するならば、彼らの存在なしに双方の世代が繋がることはなかったはずだし、同時にどちらのバンドもそうした世代間の架け橋となることだけを存在理由としてきたわけではないということだ。
そう、他のバンドにはできないことが、この2組には可能なのだ。この二夜の目撃者となった人たちの多くがそれを確信することになったはずだ。そして、この双璧を脅かすような次世代バンドの登場にも期待したい。
取材・文◎増田勇一
■<ANDROGYNOS - a view of the Megiddo ->
2017年7月7日(金)@横浜アリーナSETLIST
【DIR EN GREY】
01.Revelation of mankind
02.audience KILLER LOOP
03.FILTH
04.空谷の跫音
05.OBSCURE
06.Chain repulsion
07.輪郭
08.INCONVENIENT IDEAL
09.Sustain the untruth
10.THE FINAL
11.AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
12.CHILD PREY
13.Un deux
14.詩踏み
15.激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
【PIERROT】
01.MASS GAME
02.Adolf
03.ENEMY
04.AGITATOR
05.脳内モルヒネ
06.ドラキュラ
07.THE LAST CRY IN HADES(NOT GUILTY)
08.HELLO
09.新月
10.REBIRTH DAY
11.*自主規制
12.CREATURE
13.MAD SKY-鋼鉄の救世主-
14.蜘蛛の意図
encore
en1.HUMAN GATE
■<ANDROGYNOS - a view of the Acro ->
2017年7月8日(土)@横浜アリーナSETLIST
【PIERROT】
01.MAD SKY-鋼鉄の救世主-
02.Adolf
03.ENEMY
04.*自主規制
05.脳内モルヒネ
06.MAGNET HOLIC
07.パウダースノウ
08.鬼と桜
09.PIECES
10.PSYCHEDELIC LOVER
11.CREATURE
12.クリア・スカイ
13.HUMAN GATE
14.蜘蛛の意図
【DIR EN GREY】
01.Un deux
02.OBSCURE
03.詩踏み
04.濤声
05.audience KILLER LOOP
06.Behind a vacant image
07.アクロの丘
08.VINUSHKA
09.GRIEF
10.朔-saku-
11.Revelation of mankind
12.Sustain the untruth
13.激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
encore
en1.THE FINAL
en2.残
■LIVE Blu-ray & DVD『ANDROGYNOS』発売決定
▼ANDROGYNOS Blu-ray【豪華盤 (2DAYS収録 + 特典映像)】
3枚組(本編+特典) ANDV-001 ¥23,000+税
▼ANDROGYNOS DVD【豪華盤 (2DAYS収録 + 特典映像)】
5枚組(本編+特典) ANDV-002 ¥22,000+税
<豪華盤特典>
・特典映像DISC
・特殊パッケージ仕様
・豪華ライブフォトブックレット
▼ANDROGYNOS DVD<DAY1収録>
2枚組(本編) ANDV-003 ¥12,000+税
▼ANDROGYNOS DVD<DAY2収録>
2枚組(本編) ANDV-004 ¥12,000+税
※生産数量限定商品となります。確実にお買い求めいただくには、2017年9月30日(土)23:59迄にご予約ください。
※収録内容及び仕様等は変更になる可能性がございます。
【予約受付】
予約期間:2017年7月7日(金)21:00~2017年9月30日(土)23:59迄
お届け予定日:2017年12月12日(火)
予約受付:ローチケHMV(HMVオンライン) http://www.hmv.co.jp/fl/10/1654/1/

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