ドイツの大ヒット舞台『チック』が日
本初演、演出・小山ゆうなと篠山輝信
が語る14歳の少年たちの夏の冒険物語

世界中で愛されている児童文学を舞台化した『チック』が8月13日~27日、シアタートラムで日本初演を迎える。本国ドイツでは2011年から上演が続けられている大ヒット作だ。退屈な学校生活を送るマイクと移民の転校生チック。14歳の少年たちのひと夏の冒険譚が残すものは……。翻訳・演出を務めるドイツ・ハンブルグ生まれの小山ゆうなと、マイクを演じる篠山輝信に、『チック』の世界について語り合ってもらった。
――『チック』を上演しようと思われたのはなぜですか?
小山  「夏休みの時期に大人も子供も見られるドイツ作品を」とのヒントを世田谷パブリックシアターからいただいた中で選びました。現代ドイツの作品ってほとんどが、「(ベルリンの)壁」や「ナチス」が題材に出てくるんですね。それもとても面白いのですけど、日本でその普遍性を共有するにはわかりづらいものが多い。でも『チック』は珍しくそういう題材が出てこない作品で、ベルリンのドイツ座では何年もロングランしている。州立劇場では上演していないところがないほどの大ヒット作。でも日本ではあまり知られていないので、こういう作品で日本でのドイツ演劇のイメージも変わり、新しく広がるといいなという思いがありました。
――マイクはチックに誘われて、盗んだオンボロ車で旅に出ますね。マイク役の篠山さんが『チック』を最初に読んだ印象は?
篠山 ものすごく面白い、演劇的な作品だと思いました。長~い距離を少年2人が車で旅行していく。5人の俳優だけで空間をつくっていく。映画だとロードムービーという得意ジャンルがありますが、それを演劇でやってしまうのは、演出と俳優の腕にかかってきますよね。それも楽しみになりました。小山さんも、作品について、みんなといろいろ話しながら、解釈を共有していこうというスタイルなんです。だから、じっくり丁寧につくっていけそうだなと思いました。
小山 原作のヴォルフガング・ヘルンドルフ氏は48歳で亡くなっているのですが、まず最初にこれが大事なキーになると話しました。脳腫瘍であと5年しか生きられないとなったときに、彼は短編だったこの小説を長編に書き直したんです。14歳の役を大人が演じることにも意味があります。生死とか人生の痛みをわかっている大人の俳優が演じるからこその面白さもあると感じます。
――マイクのひとり語りが、ふと会話になったり、小説原作ならではの語りがあったりと、せりふの表現方法がいくつも混ざりあった戯曲も面白いですね。
篠山 俳優が客席に語りかけるという独白は多いと思うのですが、マイクの場合、語りかけるのとは違う、マイクならではの作品との距離感があるなあと感じましたね。
小山 どう違いますか?
篠山 語ろうと思っているところから、いきなり素になるような、観客のひとりでもあるのかなというぐらいの、絶妙な作品との距離感があると思ったんです。
小山 そうですね。お客さんに、あとでその話をしますねと直接渡してしまうところと、いわゆる独白的なものとがいろいろ混ざっていて、そこに相手との会話も挿入されて、いったりきたりが面白いですよね。
篠山 そうそう。そして、登場人物たちのエピソードも含めて全く説明的じゃないのに、ひとつひとつ、ひとりひとりが印象的に残っていく。その中でマイクはある意味、マエストロ的な存在なのかなって思います。
小山 俳優の皆さんには、台本に役名の書かれていないキャラクターも含めいろんな役をやっていただき、お芝居の力だけでどれだけ見せられるかにチャレンジしていこうと思っています。演出的な遊びも入れて、14歳の少年たちの冒険から遊びが生まれていく感覚と、俳優が演技で遊んでいくことなどがリンクしていくことも面白いかなと。原作者は、「どういう意味があるのか?」と聞かれると、毎回「別に……。面白いから」と多くを語らない人で、でもとにかくエンターテインメントにしたかったそうです。もともとは、「トム・ソーヤの冒険」を現代に置き換えたらどうなるか?という発想から始まったそうなので、読者に退屈させたくないというのもあると思います。
――登場人物はみなひと味変わった人物で個性的でチャーミングですね。篠山さんにとってマイクはどんな存在ですか?
篠山 ほんとにすごくマイクのことが大好きですね。僕は東京生まれの東京育ちですが、14歳って、どこの国でもこんなにも同じなんだと、マイクの感覚がいちいちわかってびっくりしました。マイクは優しさや愛情を持っているからこそ、まわりがすごくインチキに見える。「キャッチャー・イン・ザ・ライ(ライ麦畑でつかまえて)」じゃないけど、思春期にはありますよね? 理想と現実のギャップや社会の閉塞感に押し潰されそうになる。だから「君はほんとうに僕だね」ってマイクに対して感じました。どんな大人も元14歳。この作品はそういう元14歳の人たちにも届くと思います。
小山 そういう閉塞感みたいなものは、私自身はすごくあったけれど、篠山さんにはなさそうに思っていました。
篠山 いやいや。今ではダサイなあと思うけど、14歳のころは両親がたまたま周りからもよく知られている存在だったので(※父親=篠山紀信、母親=南沙織)、男として、両親のように社会的に認知される大人にならなくてはと気負って考えていたりもしました。でも、そういうのはどんな家庭にも、なにかしらある。だから、ほんとにマイクに共感しますね。
小山 私は相当変わった子だったみたいです。14歳から演劇が好きで、帰国子女でもあったので、周囲とはずれていたと思います。うまく溶け込めないなあという感じはあって、でも、マイクほど賢くなかったから。マイクは相当頭がいいですし、篠山さんもそうなんじゃないかなと感じます。周囲をわかってしまうから発言しなくなって、それでまた周囲からあいつ変わっていると言われるんですよね。
――チックの柄本時生さんも含めてキャストはみな個性的ですね。
篠山 柄本さんと初めて会ってお話ししたとき、僕とは全然違うなあと思って。それが面白くてしょうがなかった。単純に14歳のとき、柄本さんと旅したらどうなっちゃってたんだろうと考えたりしました。
小山 私も思った。まさにチックとマイクだったから。柄本さんもご両親が俳優で、周囲とは少し違ったところがあったんじゃないかなと思うのですが、篠山さんと柄本さんがまた全然違っていて、そこも面白いなあと。
篠山 いい意味で、すごい違和感があったので。その違う部分がうまく作品に反映されれば大丈夫な気がしました。
小山 同じく14歳を演じる土井ケイトさんも相当ユニークなので、3人の関係性が戯曲の関係性にリンクしていくと思いますね。
――では、この作品からどういう部分を持って帰ってほしいですか?
篠山 いろんな登場人物がいるので、お客さまも誰かに必ずあてはまると思います。マイクを通して一緒に旅に出ることができる。マイクの目で改めて取り巻く世界を見ると、また違ったいろんな見方が生まれてくると思うし、劇場を出るときには旅を終えて、「世界ってそんなに悪くないなぁ」とあたたかい気持ちになれると思います。
小山 せりふにもあるのですが、世界がすごくビビットに鮮明に見えて、ドルビーサウンドのように音が聞こえてくるという感覚が全編に通してあるんです。今まで知っていたものも、新しい見え方になる。14歳の視点を感じて、新鮮なその感覚を思い出していただければと思います。
マイクとチックたちは、劇中である約束を結ぶ。それはまだまだ未来のことだけど、実現してほしいと願った。不思議な余韻の残るこの作品が日本でどう立体化されるか楽しみになった。
取材・文=田窪桜子  撮影=高村尚希
公演情報

『チック』

<東京公演>
■会場:シアタートラム
■日程:2017/8/13(日)~2017/8/27(日)

<兵庫公演>
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■日程:2017/9/5(火)~2017/9/6(水)

■原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ
■上演台本:ロベルト・コアル
■翻訳・演出:小山ゆうな
■出演:柄本時生 篠山輝信 土井ケイト あめくみちこ 大鷹明良
■公式サイト:https://setagaya-pt.jp/performances/201708tschick.html
映画版『チック』=『50年後のボクたちは』、今秋公開
■監督:ファティ・アキン(『ソウル・キッチン』『消えた声が、その名を呼ぶ』)
■出演:トリスタン・ゲーベル アナンド・バトビレグ・チョローンバータル ほか
■公式サイト:http://www.bitters.co.jp/50nengo/

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