【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.82
「Numb」

今日は朝からうんざりだ。
自分の頭と心はまだ解釈しきれていないのに、ある情報が報じられる毎に積み重ねられて事実へと変化していくように見えて、愛なく閲覧回数をただ増やすためだけに報じるネットメディアに吐き気がして画面を閉じた。
何もする気になれず、このところ仕事三昧の日々を送っていたこともあり、自分の心を回復するためにほんの数時間を好きなように使ってしまおうと決めて買い物へ出かけることにした。
1時間ほど車で走り、目当てのモールへ到着した。新たな靴を新調しようとカジュアルブランドの靴屋に足を踏み入れた瞬間、頭上のスピーカーから聴こえてきたのは LINKINの音だった。オープンしたばかりで人気の無いガランとした空間に鳴り響く彼らの音を聴きながら買い物など出来るわけもなく、深呼吸をして心臓の鼓動を静めようとしたけれどダメだった。
帰宅してテレビを付けると軽く報じる番組と出くわしてしまい、とりあえずテレビも消した。
LINKIN PARKが2006年のSUMMER SONICや翌年のLIVE EARTHに出演していた、おそらく日本での盛り上がりのピークを迎えようとしていた頃、私は日本にいなかったため、帰国した時にはすでに日本の大箱でのワンマンライブを開催している大人気のロックバンドとして音楽シーンに君臨していた。そしてまた、自分と同世代のメンバーが中心のバンドが、自分よりも若い世代に支持されているというイメージも同時に持ち続けていた。事実、身近にいた後輩が来日の度に足繁く通っていたこともある。
このように、アルバムを数枚持っている程度でとりわけ心酔していたわけでもなく、仕事でもフェス現場で遠目に見た程度で直接関わったこともなかったが、そのヴィジュアルや音からはイメージできない慈善活動をするという意外性も兼ね備えた魅力的な活動派のUSロックバンドという印象を持っていた。
しかし、不思議なことにチェスターの死は、これまでに起きた憧れのアーティストが老衰や病気、事故が元で命を落とした時とは違ったショックを与えてくる。半日考えているけれど、未だに答えは出てこない。もしかしたらずっと出ないものなのかもしれない。でも、現段階で思い当たるものがあるとすれば、世界中の多くの人々を魅了し、活躍していた、自分と同じ世代の誇れるミュージシャンが自ら命を投げたことがショックなのではないかと、今感じているこの途轍もない胸の痛みはそのことが原因であるのではないかと、ぐるぐると考え続けている。
人生40年も生きてくると、先が見えるような、でも見えないような、そんな感覚を抱くようになる。10代、20代の頃には思いもしなかったような自分や出来事に驚きもするし、嬉しいような、残念なような気もしたりする。それぞれに事情があり、望まない難題が突如身に降りかかってきたりするのが人生だろう。しかし、だ。あなたの死が与える影響はあなたが思うよりも大きいということをどうか知って欲しい。そして、自分を大切にして欲しい。チェスターにもそれを知っておいて欲しかったし、自分のことを大切にして欲しかった。本当に残念でならない。
文=早乙女‘dorami’ゆうこ

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