マニアック女子の生態に釘付け 『T
he “LUCK” room - #堕落部屋 #女子
部屋 -』をレポート

オタク属性のあるマニアック女子の部屋を記録した写真展『The “LUCK” room - #堕落部屋 #女子部屋 -』が、新宿眼科画廊でスタートした(会期:2017年6月30日~7月12日)。
(c)shiorikawamoto
作家の川本史織は73年生まれで、スナップショットの多用で日常のシーンを掬いとることを得意とするフォトグラファーだ。グループ展や個展に精力的に参加し、近年は地下アイドルやコスプレイヤーの撮影に注力している。
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2013年にオタク女子50人の部屋とポートレートを紹介した『堕落部屋』、2016年には個性豊かな女子102人とその部屋を写した『作画資料写真集 女子部屋』を刊行。本展ではこれら2冊からのアザーカットや、撮り下ろしの新作を公開するほか、グッズやZINEの販売も行われる。
もともと昨年に刊行した『作画資料写真集 女子部屋』の出版記念として企画された本展だが、1年温めたうえで展示用に再編集され、満を持しての今回の開催となった。

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「メリハリをつけたかった」という川本の意向より、フォーマルな「ドレスの間」・密度の高い「カオスの間」・シックな「モノクロの間」の3部屋から構成されている。なかでも「カオスの間」はミラーボールがまわっていたり、天井近くに作品が展示されていたりと趣向を凝らした空間となっている。
「カオスの間」の展示風景
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会期中は、被写体となった「部屋主」が実際に「降臨」するイベントや、会期中における作品の大幅な入れ替えも予定されている。ただ写真をみるだけにとどまらないライブ感のある展覧会が期待できそうだ。
川本は語る。「写真に興味ない人に興味をもってもらえたら最高です。iPhoneやインスタの普及で写真が身近になりすぎた今だからこそ、「堕落部屋」という身近ではない世界を、ここでしかみれないサイズ感でぜひみてほしいですね。」
『TOKYO STYLE』から『堕落部屋』へ——
リアルでカオスな「部屋写真」の系譜
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川本の「女子部屋」を語る上で欠かせない1冊がある。93年に発表された都築響一の『TOKYO STYLE』だ。東京に暮らす人々の生活感あふれる居住空間を露わにした写真集は、「アート」とも「インテリア」ともはっきり分類されず、やむなく「サブカルチャー」というカテゴライズで浮遊せざるを得なかった“スキマ”本でもあった。
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しかし、それまでありそうでなかった人々の暮らしをそのままにとらえた極めて地に近い視点は、「部屋写真」という新たな風を写真の世界に吹き込み、刊行から20年以上経った今も異彩を放っている。
都築は『TOKYO STYLE』の続編ともいえる『賃貸宇宙―UNIVERSE for RENT』を05年にも刊行している。しかし、それ以降はほかの写真家を含め、「部屋写真」を重点的に撮ったり扱ったりする作家や作品は、しばらくあらわれてこなかったようにみえる。
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都築の写真と比較されることについて川本は、「都築さんからの影響は否定しません。ただ、都築さんには『堕落部屋』の帯を書いてもらったりしていて、いわば“お墨付き”は得てる。僕としては、部屋写真というジャンルのパイオニアからの系譜、として認知されればと思っています」と語った。
川本史織
実際、女子の部屋に絞っていること、またそこにアキバ系の文脈を汲み入れている点に、都築作品と川本作品の大きな違いがあり、両者を単純に比較するのも早計といえるかもしれない。ただひとつ共通点が見出せるとしたら、「好き」を貫く部屋に充満する圧倒的な熱量にはどんな正攻法も通用しない。そして都会で生きる人たちの多くの「諦め」や「手放したもの」を一気に吸い上げて吐き出してくれているような快感さえがそこに転がっている、ということだろうか。
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編集者のひとことが写真集のきっかけ
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女子部屋を撮り始めたきっかけは、とある偶然だった。グループ展に参加した際、参加アーティストのうちの一人が出版社でバイトをしており、その方を通じてデザイン系に強い出版社と接点ができた。そこで「アイドルが住んでる寮はモノがごった返しで通称『堕落部屋』って呼ばれている」と話したところ、強く興味をもった編集者から「その『堕落部屋』を撮ってきてほしい」との提案があったのだ。
編集者のこの一言を機に、3カ月で50軒撮影というノルマを課された川本は、短期間で数多くの部屋を撮影。1冊目の写真集『堕落部屋』の出版にこぎつけた。
「ノルマを達成しないと出版しないと言われ、必死でした。部屋の撮影は何よりアポを取るのが大変で。撮らせてもらった子の紹介の紹介……という感じで何とか人脈をつなげていったけど、最初は誰も初対面なので気も遣います。実家暮らしの子の部屋を撮りに行ったとき、何も知らなかったその子のお母さんから怒られるというハプニングもありました(笑)」
被写体になる女の子はフリーで地下アイドルをやっていたりと、“素人以上プロ未満”な子が多いという。「アイドルは基本的に忙しく、不規則な生活になる仕事。彼女たちからしたら部屋は帰って寝るだけの場所。だから雑然とした部屋が多いんです。撮影のときですが、僕のほうからポーズを指示したりはしません。自然な流れで素の状態を撮っています。」
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「撮り続けていきたい」写真家としてのこれから
尊敬する写真家は2人いる。ひとりはアラーキーこと荒木経惟。もうひとりは西岡伸太だ。
「アラーキーは商業とアートのバランスの良さと、撮ることを継続して積み重ねていってるところがすごいなと思っています。僕自身も写真を今後も撮り続けていきたいですし、継続することが一番大切だと思っています。西岡さんは大学時代の先生で、ずっと琵琶湖の写真を撮り続けている写真家です。写真で表現するということ、そして写真に対する真摯な姿勢を教わりました。」
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最近は、東京五輪で再開発が進み、目まぐるしい早さで変わりゆく東京の風景を撮ることにハマっているという川本。高層の建物が立ち並ぶなかで、ビルがつぶされたあとの更地が歯抜け状態になっている光景が面白く、撮りながら東京の記憶と記録を整理している。
「もともとファッション系の写真に興味があるので、チャンスがあればやってみたい。それこそ女子部屋とファッションをからめて何か面白い表現ができたら……なんてアイデアも本当はあるんです。」
イベント情報

The “LUCK” room - #堕落部屋 #女子部屋 -

会期:2017年6月30日(金)~7月12日(水)
時間:12:00~20:00(最終日~17:00) ※木曜日休廊
会場:新宿眼科画廊 スペース M、S、E
東京都新宿区新宿5-18-11 https://www.gankagarou.com/
イベント:
・7月7日(金)…ヒロこてん(@hirokoten)降臨
​・7月8日(土)…部屋主ナマコラブ(@namacolove)降臨
…DJ円井テトラ(@maruiTTR)降臨
​・7月9日(日)…部屋主愛(@30_24100)降臨
協力:高橋理子株式会社、玄光社

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