「シロクマ」でスピッツが再確認する「スピッツらしさ」

「シロクマ」でスピッツが再確認する「スピッツらしさ」

「シロクマ」でスピッツが再確認する
「スピッツらしさ」

 そんなことをスピッツの草野マサムネが知っているかはわからないが、「シロクマ」という曲を聴くと、シロクマらしさを失ったシロクマが頭に浮かぶ。この曲はスピッツ得意のポップチューンで、前奏から軽快なギターが私たちの気持ちを高める。しかし、歌詞にはただ明るいだけではいられない、私たち共通の日々の生きにくさが描写されている。
 「シロクマ」のMVはファンの間でとても人気があるのだが、働きづめで疲れて帰って来て、ソファーでアルコールを飲むシロクマが描かれる。これはワーカホリックな私たちと重なる姿だ。…残業は当たり前、終電で帰宅する毎日。そこに「シロクマらしさ」…人間らしさ、自分らしさを発揮する時間はあるだろうか?
サビに向かう、音階と共に曲は一気に開放に向かう。
 息の詰まる日々を抜け出して「君と」せめて笑ったりしゃべったりしたいと、草野マサムネは歌う。この曲が魅力的な理由の一つは、亀田誠治がアレンジに携わっていることがあげられる。このサビの開放感は亀田誠治の編曲ならでは、だと思う。
 亀田は2017年6月24日放送のJ-WAVE「MUSICOLOGY」の番組内で、スピッツにとって「シロクマ」は「ある意味ベンチマークとなっていてすごく重要な曲なんです。初めて、ギターサウンドでスピッツのメンバー全員が最高のサウンドを作れたという、満足した」曲なのだと述べた。「いつもこの『シロクマ』を新しいレコーディングが始まる時、リファレンスとして聴くんです。このサウンドを忘れないようにしようよ」と亀田とスピッツメンバーは話し合う。ギターによるイントロさえ聞けば、スピッツの曲だな、とわかる…それこそがスピッツの大きな特長なのだという。ギターサウンドの成功がスピッツの「スピッツらしさ」の一つならば、「シロクマ」は「スピッツらしさ」が十分に開花している曲なのだろう。

 とても重たいことを歌詞で表現しているのに、草野マサムネの独特な力みのない、しかしハイトーンまで無理なく地声で出せる「国宝級(亀田・談)」の歌声と、開放感抜群の亀田のアレンジによって「シロクマ」は極上のポップソングに仕上がっている。その苦味と甘みのブレンドがスピッツの魅力なのだ。
 MVの後半で、シロクマが星空の下、海に潜り「シロクマらしさ」を少し取り戻す場面が描かれる。「地平線を知りたくて ゴミ山登る 答え見つけよう なんとなくでは終われない 星になる少し前に」…歌詞の中で気にかかるのが「星になる少し前に」という一文だと思う。これはどういう意味なのか?「星になる」=「死ぬ前に」ということなのだろうか。
 人は、日々の生活にいっぱいいっぱいで大切なことを見失いがちだ。大切な誰かと会う時間も削って、仕事を選んでしまうこともあるだろう。
 でも、自分がいつかは命を失うことを想像できたのなら…大切な人と過ごすことや、自分らしさを取り戻して生きる道を選ぼうと思うものだ。「シロクマ」という曲を聴くたびに私は、私の中の「自分らしさ」とは何かを考え、大切な誰かと生きたいと思い直す。
 スピッツ自身も、「シロクマ」の演奏で、自分たちらしさとは何か?…常に再確認している。今一度「シロクマ」を聴き直して、私たちもスピッツらしさを再確認したい。

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