新しい分野のパイオニアを目指す。2
つの道を極めるヴァイオリニスト柴田

こんにちは、ヴァイオリニストのハルカです!

同世代の気鋭の演奏家にお話を伺い、刺激を受けたいと始めたインタビュー企画。今回のインタビュイーは、ヴァイオリニストの柴田 奏さんです。柴田さんは、現在慶応義塾大学法学部で政治学を学びながら、桐朋学園大学音楽学部ソリストディプロマコースに在籍しています。
柴田さんと私の出会いは4年前。かつて同じ門下だったということで、師匠からよくお話を伺っていたのですが、当時名古屋に住んでいた柴田さんにはなかなかお会いする機会に恵まれず。あるときの発表会でようやく会うことができ、緻密に計算され尽くした知性溢れる音色にすっかり引き込まれてしまいました。
以前、柴田さんが新聞の記事で“教養は音に表れる”とおっしゃっていたのが印象に残っているので、その言葉が生まれた経緯も含めてたっぷりお話を伺おうと思います!
柴田 奏(しばた かなで)
5 歳よりヴァイオリンを始める。愛知教育大学附属名古屋中学校、県立旭丘高校を経て、現在慶應義塾大学法学部2年、桐朋学園大学音楽学部ソリストディプロマコース在学。 第 67 回全日本学生音楽コンクール高校の部全国大会第3位、翌年同コンクール全国大会第2位。第 23 回日本クラシック音楽コンクール高校の部ヴァイオリン部門全国大会最高位(第 2 位)2016年に自身初のソロコンサートを開催。
幼少期から本格的に…
−ヴァイオリンとの出会いを教えてください。
「3 歳の頃、ピアノを習い始めたのですが、飽きてしまって(笑)。嫌いになっちゃったので母に『やりたくない!』と伝えて、そのときちょうど友達がヴァイオリンを始めると言ったので私もやろうかな、と言って 5 歳でヴァイオリンを始めました」
−ピアノは合わなかったんですね…。
「というのも母が音大のピアノ科出身だったのでピアノ推しだったんです。ピアニストにさせたいというわけではなく習い事としてさせたかったようですが」
−ヴァイオリンは好きになれたんですね。幼少期はどのくらい練習してましたか?
「最初は習い事程度だったんです。当時師事した先生が厳しい先生だったので怒られるのが怖くて 1 時間は練習していました」
−5 歳で1 時間も練習できるなんてすごい! 体力と集中力がよく持ちましたね。
「怒られたくないという一心で(笑)。そのあと、小学校入ってから父の仕事の都合でアメリカに行くことになったのですが、引越し先が白人地域でアジア人が全然いなくて…。差別的な雰囲気もあり友達もあまりできなかったので、ヴァイオリンしかすることがなかったんです。
でも、それが功を奏したのかコンクールで優勝することができ、そうしたら友達ができて、今度は逆に練習どころじゃなくなりました(笑)。その後ジュニアオーケストラに入団して友達が増えたら、もっと練習しなくなりました(笑)」
−アメリカで音楽の楽しさに触れられたんですね。それでは勉強はどのくらいしてたんですか?
「まったくしなかったです(笑)。ヴァイオリンは毎日触る習慣はできていたんですけど、勉強は全然しないで一夜漬けでテストに挑んでいましたよ」
−短期集中ができるんですね!じゃあ学校でしっかり勉強してきていたんですね。
「中学が国立だったんですけど授業システムが変わってて面白かったので授業にはフルコミットしていました」
−授業が楽しいなんて、そんなことあるんですね!どんな授業内容でしたか?

「授業は基本ディスカッションベースで、一方通行で先生から学ぶというより自分の意見を述べたり議論する時間が多かったです。例えば、数学は1回の授業で1問をいろいろな方法で解いて解法を一般化する、歴史の授業では例えば織田信長、豊臣秀吉、徳川家康で誰が1番リーダーとして長けていたかを議論した後に、じゃあ現代において求められるリーダー像は何かを話し合うなどです」
−そういう工夫が凝らされていたんですね。これは集中できますね。それと、高校は進学校でしたよね? 勉強は大変ではなかったんですか?
「高校はとても自由な校風で、勉強よりも部活に力を入れているようなところだったのであんまり勉強にはのめり込みませんでした。先生たちにも勉強を強制されるようなことはなかったです」
2つの道を極めるという選択
−高校は普通高校へ、大学は一般大学へ進学を決めた経緯を教えてください。
「高校に進学する際、師事している先生が音楽高校で教えられていたというのもあったので、音楽の道を志す人はその高校や東京の音高に進学する人が多かったんです。私も当初そのつもりでしたが、私は音楽で繋がっている友達よりも音楽をしていない友達の方が多かったので『こんな早くから自分が将来音楽家として生きていくと決めなきゃいけないのかな』と疑問に感じて。
それに、その頃ちょうど勉強にも興味が湧いた時期だったんです。附属中学の授業が楽しかったので。そこで、選択肢を絞らないように普通高校に進学しようと決めました。大学受験のときも同様の考えです。『一般大学に通いながらディプロマコースで音楽を学ぶことができる』というシステムがあるのなら、ギリギリまでどっちも突き詰めていこうと思って、ダブルスクールを決めました」
−ちなみに、慶應大学を志望した理由はなんですか?
「政治に興味があったのと、桐朋でのダブルスクールをするのであれば東京じゃないといけないという条件もありました。それならと、憧れを抱いていた慶應を志望したんです。ヴァイオリニストになるものだと当たり前のように意識していましたし、ヴァイオリンに費やす時間も多いので、自分にとってヴァイオリンはあくまで主軸にあるのですが、その上での付加価値をつける意味で、一般大学で学ぶという選択をしました」
−とは言え、ダブルスクールを決めてからは両立の難しさもあがったのではないでしょうか。
「そうですね。秋頃に志望校を決めてから、練習時間はめちゃくちゃ減って…同時に桐朋のソリストディプロマコースにも受からないといけないわけですから、とても時間の配分が難しくて大変でした。とりあえず毎日机に向かうところから始めました(笑)。同級生が部活に精を出していた時間のぶん、私はヴァイオリンに時間を割き、コンクールへの挑戦や学生団体での活動も続けました」
−アクティブな高校生ですね…! 学生団体での活動というのは?
「アメリカのカンファレンスの『TED』(大規模な世界的講演会を主催している非営利団体)のフランチャイズ版みたいな感じで、世界各地の有志の人がTEDに許可をもらってライセンスをおろしてもらい、『TEDx』として開催するというものです。『TED』のプレゼンを検索していろんな人のスピーチを聞いていたときに、たまたまこの『TEDx』主催者の募集を見つけたのがきっかけだったんですけど、どうやらそれを日本の高校生が代表として開催したことがないようだとわかって。『それなら私が開催してみよう』と思って高1の3月に始めて、実際にカンファレンスを開催したのは高2の3月でした」
コンクール全国大会の前日も…!
−あれ?この頃、柴田さん全日本学生音楽コンクールに出場していましたよね?
「そうなんです。実はコンクールの全国大会の前日、東京に滞在していたのでそのまま登壇予定者のお話を伺ったりして…今考えたらコンクール前日になにしてるんだ! と呆れてしまいますが、なかなか名古屋と東京を頻繁に行き来できるものではないので、『せっかく東京にいるんだからこんなチャンスを逃したらいけない!』と思ってインタビューに行ってきました(笑)」
−器用ですね…! その後、全国2位になったところがまたかっこいいですね。
「いえいえ、器用というか飽きっぽいところがあるので、もしヴァイオリンだけだったら逆にここまでこれていないと思います」
−じゃあ、ヴァイオリンをやめたいと思ったことはありますか?
「一回だけあります。帰国したあと、小学6年生のときです。やめたいなと思って親に相談したんですけど、『練習時間は減らしていいから趣味程度に続けなさい』と言われてとりあえず続けることに。そしたら半年後にヴァイオリンが恋しくなって戻ってきました(笑)。そのとき、親の言うこと聞いていてよかったなぁと。親が寛容だったのであまり無理にさせようともしなかったですし、進路についても自分中心で決めさせてもらえたので、ありがたかったです」
−これまでにひやっとした経験はありますか?
「以前、講習会の修了コンサートでサラサーテのカルメンを弾いたとき、最後の激しいセクションで弓が真上に吹っ飛んで、それをキャッチしてそのまま弾き続けました」
−シュールですね!(笑)なんでそんなことが起こったんでしょう。
「会場がとても暑くて、それで汗が出て滑ったんだと思います。ピアニストの先生は冷静で弾き続けてくれたからそのまま弾きました。きっとみんな気づいていたと思います(笑)。それからしばらくは右手に汗をかくと舞台で気をつけるようになりましたが、今は大丈夫です」
カーティス音楽院のセミナーへ
−最近経験したことで印象深かったことはありますか?
「昨年の夏、フィラデルフィアにあるカーティス音楽院の講習会に行ったのですが、カーティスの卒業生の方がいらっしゃって色々教えてくださったのがとても良かったです。寮で生活して、カーティスの生徒と同じような生活をして…。桐朋のソリストディプロマコースのカリキュラムには室内楽が組まれていないので、ソロやオーケストラだけでなく室内楽もバランスよく学べたのはとても有意義でしたし、何より楽しかったですね」
多忙な大学生活
−現在大学2年目ですが、ダブルスクールの生活はどんな感じですか?
「今は週3で慶應と桐朋を行ったり来たりしています。最初の2年はとても忙しいのですが、その後どちらも取るべき授業数が減っていく予定なので、ここを頑張って乗り越えたいです」
−多忙ですね…音楽以外に好きなことは何ですか? 息抜きなど教えてください。
「小さい頃から読書が好きで、移動時間などのスキマ時間によく読んでいます。あとクラシック以外に洋楽を聴きます。ブルーノマーズとか」
−私も読書好きです! 小さい頃からどんな本を読んでいましたか?
「小学生のときは『ぼくらの7日間戦争』などの“ぼくらのシリーズ”をずっと読んでいました。高校生になると村上春樹をよく読みましたね。あと大学の近くに本屋があるので、おもしろいなと思った本を何冊か買って読んでいます。今は百田直樹さんの作品が結構好きです。ほかには、国際政治に興味があるので、安全保障や外交などに関する資料をとったり本を読んだりしています」
新しい分野のパイオニアになりたい
−これから目指していることは何ですか?
「今年と来年でインターンをやってみて自分の向き不向きを考えようと思います。大学に進学して、先輩方が就職したりインターンシップに行ったりしているのを見て、自分の将来をさらにじっくりと考えるようになりました。
人生を長いスパンで考えたとき、ひとつを100%というよりもいろんなことを80%にできたらなぁって思うんです。ある分野とある分野が繋がったら、それを組み合わせて自分がその新しい分野のパイオニアになれるわけじゃないですか。そういうふうに音楽と“何か”。たとえば音楽と政治、音楽と歴史…そういうふうに関わっていって、社会に何かインパクトを残せるようになれたらなあと。
よく、(大成するには)歯を食いしばって何かを突き詰めないといけないと言われますが、中途半端なりにいろいろ組み合わせることもできるだろうと思って、今模索中です(笑)。一番理想的なのは、そのときになりたいものになること。そのためにどの分野でも今を全力で頑張りたいと思っています。そのときに好きなことがしたいので。もちろん、ヴァイオリンとはずっと関わっていきたいとは思います」
好奇心旺盛な柴田さんにはいろんなところに居場所があるように思えます。自分との対峙から生まれる発見や学びを、持っている能力を最大限に発揮して次のステップに進んでいるように感じました。
出演コンサートのお知らせ
柴田さんの演奏会出演情報です♪
「アクロス弦楽合奏団 第11回定期演奏会」
日時:2017年8月20日(日)15時開演
会場:アクロス福岡 シンフォニーホール(福岡市中央区天神1丁目1番1号)
入場料:【一般】S席¥3,000/S席ペア券¥5,000/A席¥2,000(学生各席1,000円引き)
【友の会】S席¥1,500(会員特別割引価格)/S席ペア券¥3,000/A席¥1,800/(学生各席1,000円引き)
詳細はこちらから!
柴田奏プロフィール全文
愛知教育大学附属名古屋中学校、県立旭丘高校を経て、現在慶應義塾大学法学部2年、桐朋学園大学音楽学部ソリストディプロマコース在学。 5歳よりヴァイオリンを始める。2005年Henry and Gertrude Lasker Young Soloist Competition Elementary Division Awardを受賞、Newton Symphony Orchestraと共演。第1回JASTAフレッシュコンクールヴァイオリン部門中学校の部優勝、受賞者披露演奏会にてソリストとしてJASTAストリングオーケストラと共演。第67回全日本学生音楽コンクール高校の部全国大会第3位、翌年同コンクール全国大会第2位。第23回日本クラシック音楽コンクール高校の部ヴァイオリン部門全国大会最高位(第2位)。デザインK国際音楽コンクール2012第1位。第59回西日本国際音楽コンクール西日本新聞社賞および聴衆賞受賞。第1回刈谷国際音楽コンクール優秀賞受賞。第23回丹羽奨励生。2016年に自身初のソロコンサートを開催。音楽以外の活動として、高校2年時にTEDxYouth@AsahigaokaHSを開催し、日本の高校生初のTEDxオーガナイザーとなる。また、愛知県の進学情報誌「高校生スキッフル」の学生スタッフとして創刊号から携わり、現在も連載を続けている。

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