価値あるものとは何なのか?SKE48『金の愛、銀の愛』に描かれる愛と欲望の形

価値あるものとは何なのか?SKE48『金の愛、銀の愛』に描かれる愛と欲望の形

価値あるものとは何なのか?SKE48『
金の愛、銀の愛』に描かれる愛と欲望
の形

この曲名を見て最初に想起するのは童話「金の斧」ではないだろうか。歌詞の内容もそれになぞらえたようなものになっているが、もう少し掘り下げて考えてみたいと思う。
歌い出しの“金の愛か?銀の愛か?おまえが失くした愛はどれだ?”という部分からも「金の斧」の要素を思い出させられるが、この曲が使用されたドラマが「金と欲望」をテーマにしているだけに、サビの“価値あるものは金じゃないんだ”に重きを置いた曲であろうことは間違いない。
ドラマで描かれる欲は様々な種類のものであるが、この楽曲内で描かれるのは“愛”という欲望である。

元々の「金の斧」という童話の教訓は「神は正直者を助け、不正直な者には罰を与える」というものである。しかし、ここで問題になっているのは斧という個人の持ち物ではなく、“愛”という形さえない、自分のみでは完結できない象徴的なものだ。この二番メロの歌詞で“偽るしかない”と書かれているということは、この曲での主人公は童話でいう「偽る者」だということ。
童話では、正直者には問いの天秤にかけられたすべてのものが与えられるが、真実を偽った者には元から持っていた物ですら失われてしまう結果となっている。果たして、この曲の“愛”はどうなってしまうのか。

これは歌い出しの部分だが、ここでは“金”や“銀”のようなものではない、とはっきり書かれている。つまり、この問いに対しては正直であるとも言えるだろう。ではなぜこの“私”は“偽るしか”なかったのか?読み解いていくと、“私”が元より持っていた“愛”が相互的なものではなく”独りよがり”だった、つまり何らかの「叶わぬ恋慕」であることが明らかになっている。
“金の愛”や“銀の愛”が正当な純愛によって結ばれるような“美しい愛”の形であると例えるならば、この“私”にとっての愛はそういった類ではなく、結ばれることのない一方的なものだと分かっている――ということなのかもしれない。
“神様がいるなら あの人 返してください”
このフレーズは、“神様”がいないからこそ出てくるものだ。その後に続くのが“思い出の水面を ただ 眺めるしかない”というのが更にそれを強調している。水面を眺めているばかりで、「金の斧」の童話のように神様がそこから現れることはないと“私”は知っている。つまり、“あの人”も既に返ってこないとわかっているからこそ、思い出を眺めているのである。

サビの最後で言うこの“幻”とは何だったのか。それを考えたとき、また歌詞は二番へと戻る。二番のサビで、“大事なものは 胸の底へと放り投げた”と“どんな形をした愛だったのか? 今 振り返っても答えられない”とあることから、“今深い底に沈んでいった幻”と“胸の底へと放り投げた”大事なもの、がイコールでつながる。そして、一見「偽る者」であったように見えたこの主人公が、「金の斧」における「正直者」と同じ心の持ち主であることがわかる。
金の愛も銀の愛も“私”が真に欲しているものではない。だからこそ、与えられたところで受け取れないし、それ以上に欲しいものが浮かぶこともないのだ。“私”にとって価値あるものが“金”ではないからである。
ここでいう多くの場合、そして童話においての“金”とは、「世間や他人にとって価値があるとされるもの」の比喩である。だが必ずしもそれがその人にとっての真に価値があるものかどうかはわからない。それは童話「金の斧」でも描かれていることではないだろうか。

この楽曲の最後は、こんなフレーズで締め括られている。
“まだ 輝いてる愛こそ金の真実”
この部分の“金”は単純に「最も価値の高いもの」の象徴であると思われる。そして“まだ輝いてる愛”ということは、まだ失っていなかったものということだ。
“愛”には色々な意味合いがある。相互的にしか成立しない愛、あるいは自分の中のみで完結することのできる愛。「相手と結ばれたい」という愛は深い底に沈めてしまったかもしれないが、それでも“私”が持っていた「相手を慕う気持ち」や「幸せを願う心」のような愛の形こそ、独占欲のような欲望にとらわれた愛ではなく、最後に“私”の手元に残った輝く「価値ある真実」に違いないのである。

自分が本当に欲しいものとは何なのか、その真実の姿に気付くことこそが最も大事なことなのではないかということをこの曲は教えてくれている。
自分にとっての“金の真実”が何か気付くことができれば、世界の見方がまたひとつ変わるのかもしれない。

アーティスト

UtaTen

歌詞検索・音楽情報メディアUtaTen

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着