奇想の宮廷画家『アルチンボルド展』
をレポート 絵画に描きこまれた「洗
練された遊び」に脱帽する

ジュゼッペ・アルチンボルドの名は知らずとも、野菜や果物で描かれた肖像画を見れば、ピンとくる人も多いだろう。奇想の宮廷画家アルチンボルドの日本で初めてとなる本格的な展覧会が、上野・国立西洋美術館で始まった。開催前日のプレス内覧会から、驚きに満ちた世界をレポートする。
まずは4つのみどころを確認!
本展は、16世紀後半にウィーン、プラハのハプスブルク家の宮廷で活躍したジュゼッペ·アルチンボルド(1526-1593年)の画業を、同時代の芸術と共に7つのセクションで紹介するものだ。
本展のみどころは4つ。1つめは、本展がアルチンボルドを本格的に紹介する初めての展覧会であること。油彩作品数が少ないアルチンボルド作品のうち、借用困難な約10点が本展のために集められている。2つめに、代表作『四季』『四大元素』が一堂に集結すること。対となるこれらの作品が、完全な状態で見られる非常に貴重な機会となる。
ジュゼッペ・アルチンボルド《夏》 1572年 油彩/カンヴァス デンヴァー美術館蔵 (c)Denver Art Museum Collection: Funds from Helen Dill bequest, 1961.56 Photo courtesy of the Denver Art Museum
3つめに、今まで知られることの少なかった宮廷アートディレクターとしての顔を、数々の素描から紹介すること。宮廷の祝祭行事の企画演出を手掛けた、画家の優れた発想力を垣間見ることができる。

ジュゼッペ・アルチンボルド《ルドルフ2世に献じられた馬上試合の装飾デザイン集「天文学」の寓意》 1585年 ペン、青の淡彩/紙 フィレンツェ、ウフィツィ美術館 素描版画室
そして4つめに、レオナルド・ダ・ヴィンチ派の素描などからアルチンボルドの芸術的背景を読み解いていること。同時代の芸術と並べることで、今までの「奇想の画家」という枠を超えた深い解釈が得られる。
フランチェスコ・メルツィ(1491/93-1570)に帰属(レオナルド・ダ・ヴィンチにもとづく)《グロテスクな女性の頭部》1510-20年頃 赤チョーク ウィンザー城、イギリス王室コレクション

驚きの中に隠された「洗練された遊び」に脱帽
代表作『四季』『四大元素』が並ぶ一室に足を踏み入れた瞬間、その奇抜な肖像画に驚かされるだろう。近づくと今度は、描きこまれたおびただしい数の野菜や魚などのモチーフの、精緻な描写力に圧倒される。《春》では80種以上もの植物が描きこまれているが、その全てが判別可能なほどだという。

『四季』『四大元素』の展示室

ジュゼッペ・アルチンボルド《春》 1563年 油彩/板 マドリード、王立サン・フェルナンド美術アカデミー美術館蔵 (c) Museo de la Real Academia de Bellas Artes de San Fernando. Madrid
そして、これらの作品の最大の驚きは「寓意性」にある。『四季』と『四大元素』は、各4点ずつが神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世に捧げられた。『四季』は春から冬までが、若者から老人までの各世代を示す。『四大元素』は世界を構成する《大気》《火》《大地》《水》を示す。さらに《春》には暖かく湿った《大気》といったように、2枚1組が対となって意味付けられている。それらが時や世界を象徴することで、世界を統べる皇帝を称揚するという、極めて高度で洗練された遊びに満ちた芸術作品となっているのだ。皇帝はこの贈り物をたいそう気に入ったという。
ジュゼッペ・アルチンボルド《水》 1566年 油彩/板 ウィーン美術史美術館蔵 (c)KHM-Museumsverband
ジュゼッペ・アルチンボルド《秋》 1572年 油彩/カンヴァス デンヴァー美術館蔵 (c)Denver Art Museum Collection: Gift of John Hardy Jones, 2009.729 Photo courtesy of the Denver Art Museum
この発想力、構想力、そしてそれを表現しきる描写力。ダリをはじめとする20世紀シュルレアリスト達や、現代のアーティストにまで影響を及ぼす唯一無二のアルチンボルドの代表作を、完璧な展示状態で堪能できることに思わず感動してしまう。(※《大気》《火》は6月24日から展示開始)
続くセクションでは、宮廷のアートディレクターとして活躍した祝祭行事のための素描や、職業がわかるモチーフで描かれた遊び心や風刺が込められた肖像画、逆さまにすると別の絵が現れる上下絵など、アルチンボルドの世界にどっぷりと浸かれる構成となっている。
ジュゼッペ・アルチンボルド《ソムリエ(ウェイター)》 1574年 油彩/カンヴァス 大阪新美術館建設準備室蔵
ジュゼッペ・アルチンボルド《庭師/野菜》油彩/板 クレモナ市立美術館蔵 Sistema Museale della Città di Cremona - Museo Civico "Ala Ponzone" / Museo Civico "Ala Ponzone" - Cremona, Italy

豊富な資料から理解する、アルチンボルド誕生の背景
本展では自然研究が流行したイタリア・ミラノのルネサンス期の芸術から、アルチンボルド芸術誕生の秘密にまで迫っている。
レオナルド・ダ・ヴィンチやその一派の素描からは、自然への鋭い観察眼や、奇怪なものへの興味が、アルチンボルドに多大な影響を与えたことがうかがえる。また、画家が仕えたハプスブルク家一族の肖像画やそのコレクションから、自然科学に深い関心を示したマクシミリアン2世、稀代の芸術愛好家として知られるルドルフ2世といった、アルチンボルドを寵愛した神聖ローマ皇帝が紹介されている。
ハプスブルク家一族の肖像画が並ぶ
オッターヴィオ・ミゼローニ(1568頃-1624)、HCのマイスター《ネプトゥヌスをともなう巻貝形の鉢》プラハ、1620年頃、縁取り:ウィーン、1620/30年頃 血玉石、鍍金された銀 ウィーン美術史美術館 美術工芸館
アルチンボルドの生きた時代の素描や油彩画、彫刻や調度品を目にするうち、当時の自然へ向けられた熱い視線と、そこから生み出される新しい芸術の熱量が伝わってくる。
記念撮影コーナーや限定グッズも楽しい
展示会場に入る前や、出た後も見逃せない。まず、会場入り口前にあるのが「アルチンボルドメーカー」だ。デジタル技術を用いた記念撮影コーナーで、自分の顔がその場で“アルチンボルド風”に描かれ、それを写真に撮って楽しむことができる。
「アルチンボルドメーカー」
また、会場を出たグッズコーナーでは、アルチンボルド展限定グッズが多数並ぶ。代表作『四季』からは華やかなマスキングテープや、各作品をイメージしたおしゃれな食品、定番のファッション小物やポストカードが並び、思わず手に取ってしまう。その他、アルチンボルドの世界を身近に楽しむ関連イベントなども行われる予定なので、ぜひ公式サイトでチェックしていただきたい。
グッズも多数揃っている
本展は国立西洋美術館にて、2017年6月20日(火)から9月24日(日)まで開催。この機会に、豊かな謎解きに満ちたアルチンボルドの世界に触れてみてほしい。
イベント情報
アルチンボルド展

会期:2017年6月20日(火)~2017年9月24日(日)
会場:国立西洋美術館
開館時間:午前9時30分~午後5時30分 毎週金·土曜日:6月23日(金)・24日(土)は午前9時30分~午後8時、6月30日(金)以降は午前9時30分~午後9時 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、7月17日、8月14日、9月18日は開館)、7月18日(火)
観覧料金:(当日券)一般/1,600円、大学生/1,200円、高校生/800円 ※中学生以下は無料
主催:国立西洋美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
協賛:損保ジャパン日本興亜、大日本印刷、ブレンボ、三井住友銀行
協力:アリタリア-イタリア航空、全日本空輸、西洋美術振興財団
特設サイト:http://arcimboldo2017.jp/

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