取材:土内 昇

場内に入るなり、いきなり驚かされた。アリーナの中央に幾つものライトに囲まれた低い舞台があり、後方には楽器が配置されている…つまり、アリーナに席がなく、その広いスペースの全てがステージになっていたのである。“どんなライヴが観れるんだ?”と否が応にも期待感が高められたが、ライヴは「望春風」のアカペラで静かに始まった。そして、次の「あこるでぃおん」でピアノが加わり、曲が進むに連れてギター、パーカッション…と楽曲を彩る音色が厚くなっていく。観客は歌と演奏のみのドラマチックな展開と圧巻のヴォーカルによる歌物語に惹き込まれ、釘付けになっていたことは言うまでもない。もちろん、その後はアリーナという広い空間を利用し、時に8人のダンサーと絡みながらの昭和歌謡メドレーを歌い踊り、時に紙吹雪が舞う中を後輩の慶応義塾大学アカペラサークルの100人と「ハナミズキ」を歌うなど、エンターテインメント性に長けたパフォーマンスで観る者を魅了した。そして終盤、11月19日発売の新曲「はじめて」が初披露される。カンボジアに建設される学校の校歌として彼女が渾身の思いを込めて作った新曲だ。さらに2回目のアンコールでは、観客の声に応えたというよりも、彼女の方から駆け出るようにしてステージに姿を表した。それは観客を始め、自分を支えてくれた周りの人たちに感謝の気持ちを伝えるためであり、プロデューサーの武部聡志のピアノをバックに「アリガ十々」を切々と歌い、思いの丈を歌で届けたのだった。武道館という特別な場所でのライヴ。彼女にとって大きな意味を持つライヴになったことだろう。
一青窈 プロフィール

台湾人の父、日本人の母をもつ、76年生まれの女性シンガー。
02年10月、アジアン的エキゾチック・フレイヴァーに満ちたポップ・ナンバー「もらい泣き」でデビュー。今までいそうでいなかったタイプの個性派シンガーを印象づけた。そして、続く1stアルバム『月天心』で大ブレイクを果たす。耳馴染みのいいメロディ、トラディショナルな質感を携えたきめ細かな歌唱、非常にパーソナルな内容でありながら不思議な普遍性を感じさせる詞世界——それらが、ゆるやかなエネルギーを発しながら聴き手の胸に忍び込み、鮮やかな印象を残してゆく。

03年のシングル「金魚すくい」では、エレクトロな音像とソウルフルでダークな緊迫感さえ宿したヴォーカリゼーションで、“癒し”的なパブリック・イメージにとどまらないアーティスト性を露呈してみせた。そして04年2月、ファンの間でも幻の名曲とされていた「ハナミズキ」を正式にシングルとして発表し、同年の日本有線大賞優秀賞をはじめ数々の賞を総なめにする。4月にヒット曲を多数収録した2ndアルバム『一青想』(ひとおもい)を発表。9月には、井上陽水が作曲を手掛けた「一思案(ひとしあん)」が主題歌として使用された初主演映画『珈琲時光』が公開されたのち、日本アカデミー賞新人賞を受賞し、アーティストとしてのみならず女優としても注目を浴びる。役者としては岩松了演出の音楽劇「箱の中の女」の主演を務め、映画のみならず演劇の世界でも活躍している。
05年3rdアルバム『&』06年には自身初となるベスト・アルバム『BESTYO』、08年『Key』では、横山剣(クレイジーケンバンド)、高野寛、秦基博など多彩な作曲陣による楽曲提供が話題となった。一青窈 オフィシャルHP(アーティスト)
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