text:高木智史

スタートしてからの約2時間、会場にいた誰もがKEMURIのグッドミュージックに合わせて歌うこと、踊ることに夢中で時間を忘れていた。ファストで陽気な感情を高ぶらせるスカパンク。確かな演奏力でもって裏付けされた楽曲には、たとえ彼らのライヴが初体験であろうと前のめりになる他ない。そしてフロントマンである、伊藤ふみおの包容力。演奏中の彼は、しなやかで力強いパフォーマンスと共に、常にオーディエンスに目を配りながら、何かを語りかけるような表情をしている。“楽しんでるかい”“もっと前においで”と、言葉として発せられてはいないが、私にはそう言っているように思えた。彼が時折見せた、モッシュで最前列にきたファンと握手を交わした瞬間、腕を差し伸べてきたファンと腕を交えた瞬間、そのひとつひとつがKEMURIが作り上げたかった絆であり、13年間で成し得たひとつのカタチだろう。長い歴史を経て生まれた「our PMA」では曲に入る前、伊藤ふみおはこう語った。“この曲は応援してくれたみんなのPMAです”。グッとくるひと言に客席は一斉に拳と歓声を上げ応える。そして代表曲であり、バンドの理念である「PMA」では大合唱が起こり、メンバーもオーディエンスも感情のつぼみを花咲かせる。そこは垣根など存在しない至上の喜びで満ちていた。KEMURIは今年12月9日のZepp Tokyoでのライヴをもって解散する。遂に開かれた最終章をもう一瞬たりとも見逃すことはできない。
KEMURI プロフィール

「逆輸入スカコア・バンド」——と称されるケムリ。このバンドは、イトウフミオ(vo)の尽力によって急成長したといえるだろう。高校時代をアメリカで過ごした彼は、バンド結成の95年とほぼ同時に単身アメリカへ乗り込み、最近ではスリップノットを輩出したことで知られるレーベル<ロードランナー>との契約をとりつけたのである。アメリカからの逆輸入、と言われるのはこれが由縁だ。また当然、海外でのライセンス(契約)は容易なことではなく、ハイ・スタンダードと共に彼らが率先して活動の場を海外に広げた功績は大きい。
ケムリはイトウを中心とした5人で構成され、ライヴではサポート・メンバーとしてホーン隊が加わる。彼らは、70年代UKパンクや80年代UK/NYハードコア、レゲエ、スカといった自分たちの嗜好をゴッタ煮の状態で楽曲に取り入れており、スカ特有のハネるリズム、パンク/ハードコアにおけるスピード感の双方が、「明るく・楽しい」音を演出している。
また、P・M・A=ポジティヴ・メンタル・アティテュード(肯定的精神姿勢)を提示している彼らは、シリアスな内容の歌詞においても、マインドはあくまでもポジティヴだ。眼前にしみったれた現実があっても、「また明日からがんばろう!」という気分にさせてくれるグループであり、スカコア・シーンでのカリスマ性はスキャフル・キングと共にトップ・クラスである。KEMURI Official Website
公式サイト(アーティスト)
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アーティスト

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