前作『STARS FROM THE BROKEN NIGHT』と対を成す『HERE COMES NAMELESS SUNRISE』。このミニアルバム二部作に込められた想いの奥には、Jの“俺にとってロックミュージックって何だろう?”の自問自答に対する答えがあった。
取材:石田博嗣

本作はミニアルバム二部作の完結編なのですが、前作を作る時から、この2枚のコンセプトや相関関係は考えてあったのですか?

ソロをずっとやってきた中で、フルアルバムを作るっていうことがルーティーンになってしまっているんじゃないかっていう疑問から、“何か違った表現方法ができないかな?”と思って、ミニアルバムというアイデアが浮かんだんですね。でも、ミニアルバムっていうとフルアルバムよりも収録曲が少なくて、軽くとらわれてしまうじゃないですか。そういう意味でのミニではなくて。だから、最初から2枚連続でリリースしたいと。その2枚というのも塩ビ盤…いわゆるレコードのA面とB面、2枚組の1枚目と2枚目みたいなイメージで2枚が対になっていて、そこでひとつのストーリーが描ければいいかなってところから始まったんで、実はかたち在りきなんですよ(笑)

過去にも『CRACK TRACKS』というミニアルバム2部作がありましたが、そういうものではなく?

俺の中では別のとらえ方をしてますね。最初は明確に“明”と“暗”、“静”と“動”とかのコンセプトに分ける案もスタッフから出たんですけど、俺としてはそういう安易な住み分けは違うと。それぞれにドラマがあって、それぞれで完結していて、それでいてつながりのあるものにしたいっていうビジョンがありましたね。

前作は“闇から光に向かって”というテーマでしたが、今作は?

前作のそのテーマって掘り下げていった時に、“俺にとってロックミュージックって何だろう? 俺がやりたいロックって何だろう?”っていろいろ考えて…そもそも、誰かにとって何かのきっかけになるような、エネルギーになるような、パワーになるような音楽をやっていきたいっていう気持ちがベーシックにあるんですね。少なくとも、俺が若い頃にロックに救われたのは、そういう部分だったなって。そういうところにフォーカスを当てていくと、自分自身にとってのロックミュージックっていうのは、光を見せてくれるものだなってことに行き着いたんですよ。で、そういった光…その“前向きさ”みたいなものを2枚通したストーリーの中でつなげて、みんなに届けられればいいなって思ってたんです。

ということは、今作は前作の続編?

続編ととらえてもらって構わないです。ただ、前作を作り終えた時に、なんとなく“次はこんな曲を入れて、こんな感じにしよう”っていうプランが頭の中にあったんですけど、前作を引っ提げて全国ツアーをやったことで、新たに“刺激”という情報が入ってきて、“あれ? こんなんじゃないな。もっとパワフルにエネルギッシュなものにしないとつながらない!”っていう気持ちになって、ツアー中にずっと今作の曲を書き直してました(笑)。その結果、前作と“対”というよりも“その先”という世界のものを作れた気がしますね。

それで、今作は闇を振り払う力強さであったり、その向こうにある光を感じるものになったんでしょうね。音数は少ないんですけど、打ち込みとかに頼るのではなく、生身のバンドの音で勝負しているというか、すごく感情がこもってるなって。

ドラム、ベース、ギター、ヴォーカルでカッコ良いことができなかったから、それは逆にカッコ悪いよねっていう感覚に最近はなっていて…年齢的なこともあるんでしょうね(笑)。あと、時代への反動っていうのもあるかも。周りを見渡すと、コンピューターが入ってきたことも関係してるのかもしれないですけど…音楽がよりインスタントになっていってるような気がするんです。それに、“いい音ってほんとにいい音なのか?”って。もちろん、いい音を追究していくんですけど、クリアーであること以前に、人の気持ちが入っていたり、“伝えたい!”と思う熱が入っていたりするものが“いい音”なんじゃないかなって。だから、そういう音を生み出していく…それってロックミュージックの原点ですけど、そこに立ち返ったのかもしれない。

例えば「speed」はテンションが高く、それこそメンバーの前のめりな感じが伝わってくるのですが、それぐらいの気持ちを込めないと今作は説得力が出ないんだろうなって思いました。

まさに、そういうことですよね。今回のアルバムはそういうところを追究したというか。よりシンプルなものになっていったし、より生に近いものを求めるようになっていきましたね。そこがロックミュージックのカッコ良さだっていうことを再認識した…そういう意味では、“今、これがクールなんだよね”っていうものが提示できたアルバムになったと思います。だから、ものすごく愛おしいんですよ。不思議ですよね。5年前や10年前は全然そんなことを感じなかったのに。こういうサウンドを愛おしく感じるっていうのは、実は音楽っていうもの自体が過渡期なのかもしれないですね。コンピューターミュージックも音楽は音楽でカッコ良いものもたくさんあって、全然否定はしてないんですけど、多くの人が楽器の生々しさや温かさ、リアリティーっていうものを求め始めているというか。前作もそうだったんですけど、機材選びでもビンテージのものを使ったりして…それって求めているものがハイファイじゃなくて、響きなんですよね。そこでハードに鳴らそうと思ったら、プレイが重要で…ってなると、どれだけ気持ちを込めるってことになってくるんですよ。“やっぱり、楽器ってそうなんだよな”って、この年齢になって再確認しましたね。

では、二部作を作り終えた、今の実感は?

作り終えたばかりなんで、まだ客観視できないんですけど…実は、こうやってインタビューされているようで、逆にインタビューしているんですよ(笑)。みんな“すごいアルバムだね”って言ってくれるので、理想に近い場所に行けたのかなって思いますね。作る前には見えてなかった風景が見えている…今回のレコ-ディングを通して、さらに成長した自分がいると思うので、今は“よっしゃ!”って思ってます。“自信を持っていいんだな”って思えるというか、自信が確信に近づいた。現時点ではまだリリースされてないので、早くみんなに聴いてもらいたいですね。
J プロフィール

ジェイ:1992年にLUNA SEAのベーシストとしてメジャーテビュー。97年、LUNA SEA の活動休止を機にソロ活動を開始。翌年LUNA SEA を再開するが、00年12月の東京ドーム公演にて終幕し、本格的にソロ活動をスタートする。03年にはアリーナ・オールスタンディングによる、ソロ活動初の武道館公演を実施。その後もとどまることなく自身の音楽を追求し続け、17年3月にはソロデビュー20周年を記念したベストアルバム『J 20th Anniversary BEST ALBUM <1997-2017> [W.U.M.F.]』を発表。現在は10年に再始動したLUNA SEAとソロの両輪で活動中。J オフィシャルHP

OKMusic編集部

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