【羊毛とおはな】
優しい歌声と軽やかに音を紡ぐギターで聴く者の心を癒す。そんな羊毛とおはな初のフルオリジナルアルバムは、旅行をテーマに展開していく。ふたりだけでは作ることができなかったという本作について、話を訊いてみよう。
取材:ジャガー
フルオリジナルアルバムとしては、今作が初作品ですね。
市川
『LIVE IN LIVING』シリーズだったりを出したりしているので、定期的にアルバムは発表してたんですけどね。オリジナルで言うと、2008年に出したミニアルバム『こんにちは。』が、ギターと歌のアレンジにバンドで肉厚にしていくっていうイメージで作ったんですけど、今回はアレンジとか何も固まっていない状態で“どうしよう?”って、みんなでいちから考えていく…バンドっぽいやり方でした。「クッキング」「帰り道」は、それを象徴するような作り方をしていて。“下校”というキーワードを基に、セッションしていったものをずっと録音してたんです。そこから使える部分を拾っていくと、2曲もできたという。すごく楽しかったですね。
千葉
みんなっていうのは、サポートメンバーのことなんですけど、私たちにとってはサポートという概念じゃなくて。“羊毛とおはなバンド”っていう感じですね。なので、レコーディングはこの人、ライヴはこの人っていうのは考えられないです。このメンバーとでないと『どっちにしようかな』はできなかったし、この作品をライヴで表現するってなってもこのメンバーじゃないとできない。
チームとして、結束力を固めたわけですね。
千葉
そうですね、エンジニアさんも含めて。もともとサポートをしてくれているメンバーは、私と羊毛(市川)さんが出会う前に、羊毛さんと一緒にバンドを組んでいた方たちで。それから羊毛とおはなを結成して、メンバーそれぞれ違う場所で活躍してたんですけど、この機会に再結成したと言いますか。
市川
気心の知れた仲間なんで、いいところも悪いところもよく分かってくれています(笑)。
現場の空気感がアルバムからも伝わってきますよ。本作は旅行をテーマに作られているとのことですが、もともとそういうコンセプチュアルな作品にしようと?
千葉
いつもなんですけど…テーマは後付けです。今回は半分ぐらいの制作が終わったところで、旅行がテーマになってるねって話になりました。なので、特に意識してコンセプチュアルなものにしようとは思ってなくて、たまたま旅行に出て、各地を回って、家に帰ってくるまでのストーリーが13曲で表現できたんですよ。
てっきり綿密に練り上げていったのかと思っていました。
千葉
曲順決めも大変だったよね? どうまとまるんだろうって。
市川
ストックがあったらもっと楽だったのかもしれないね。今回は2?3曲しかストックがないところから始めたんで、とりあえず楽曲を作って作っての繰り返しで。数が出そろってきたなって場面で、一度振り返ってみてどういうかたちになるかを考えましたね。
千葉
こういうアルバムにしたいっていうのはあったんですけど、それはサウンドの面であって。
市川
それはできてるんじゃないですか? 千葉さんが言ってたのは、もっとイケイケな感じと。お客さんが縦に乗れるような(笑)。
千葉
そうじゃないよ! 今まではバラードが多かったので、ライヴでお客さんと一緒に楽しめるようなものにしたかったんです。でも、バンドの力で楽しいアレンジになりました。今の音楽の作り方って、データのやりとりを上手に行なえば、やっている者同士が会わなくても作品が作れるじゃないですか。そうじゃなくて、お互いの音を聴いて、反応し合って、創造していくアナログなものにしたいなって。この作品に限らず、そこはずっとこだわっている点ですね。音の派手さはないけど、すごくナチュラルな姿を出すことで生まれる温もり…音を出している空間に聴き手が入り込める、そんな現場が見える作品がいいなと。ベタっと貼付けた音じゃなくて、遠くで鳴っているものはちゃんと遠くで聴こえたり。
立体的に聴こえてくるアルバムでしたよ。特にテーマ性を感じた楽曲はあったのですか?
千葉
日本語では“どちらにしようかな”という意味の「イニミニマニモ」がそうかな。ものを選ぶ時に使う言葉ですが、後ろ向きに迷っているのではなく、“あれもいいし、これもいいし”って、旅行でどこに行こうかワクワク選んでいる様子をこの言葉で表現したくて。
市川
ぶらりと外へ出かけたようなラフな感じの「120分のカセットテープ」もね。意外かと思われるかもしれないけど、「「おやすみ」」も、朝、昼、夜をめぐっていく、1日の移り変わりも旅としてとれるんじゃないかな。
どの曲もちょっとしたことに幸せを見つけて喜んだり、穏やかに時の流れを感じてみたり、ほのぼのとした気持ちになりました。
千葉
日常にあふれる身近な出来事を幸せに思うことは、本当はとても大事なことなのに、つい大きな幸せばかりに目がいってしまいがちじゃないですか。それを音楽にしたいというか…いい意味で変わらないものを続けていきたい。羊毛とおはなを聴いてくださってる方も、毎日毎日私たちのことばかり考えているわけじゃなく、その時々の環境であったり、気持ちの波によって聴かない時もあると思うけど、ふと聴いた時にでも私たちの音楽はいつでも聴き手にとって温もりを与える近い存在で居続けたいですね。ほっとひと息付けるような、帰ってこれる場所。ふるさとみたいに帰ってきたらいつでも迎え入れるような存在になりたいです。
アーティスト