【サンボマスター】新しいやり方と言
い方で“I LOVE YOU”と言いたかった
前作より2年3カ月振りのアルバム『きみのためにつよくなりたい』を完成させたサンボマスター。徹底的に楽曲を信じ、音楽を突き詰め、愛を追求した今作。結成10年目にして辿り着いた、決定盤と言える傑作の誕生です。
取材:フジジュン
5thアルバム『きみのためにつよくなりたい』を完成させたサンボマスターですが…本当に良かった! 大げさに言うと、“今年はこのCDだけあれば良い!”っつうくらい素晴らしかった!!
木内
じゃあ、music UP’s8号連続くらいで展開しましょうよ。
山口
いや、フジジュンさんが良いって言ってくれてるだけで、music UP’sには載せなきゃいけない人がいっぱいいるから(笑)。
アハハハ。でもだからね、今日は聞くことがないの。もう、“とにかくCD聴け!”って。いろいろ言いたくない!!(笑) 「できっこないを やらなくちゃ」で話を聞きに来た時、“5年前の自分たちを超えたい”って話してたけど、5年前どころか、絶対に超えられるはずのない10年前の初期衝動的なものさえも超えた気がするもん。
山口
うれしいなぁ~。でも、確かに作った時は本当に1stより前くらいの気分で、“タブーはなしだ!”ってのをすごく思ってたんです。10年もやると自分たちが頑張んねぇと、“サンボマスターってこういうことだろうな”って自分を押さえつけちゃうところがあるんですよ。そこで、“おい、俺たちはそんなことでバンドを始めたんじゃねぇだろ? 何でもアリだろ?”って。初期衝動って言葉も本当にそうで、今回はいろんな衝動が詰まってて。例えば、「きみはともしび」って曲は寿司屋の女の子があまりに健気に働いているのに感動して、“今、曲を作んなきゃダメだ!”って、イクラそっちのけで家に帰って作った曲で…イクラそっちのけですよ!
それだけすごいことだってのは分かりました(笑)。
山口
2010年という年が始まるに当たってね、自分たちが新しいことをやりたかったんです。08年に前作を出した後、100本くらいライヴやって、お客さんの空気がちょっと変わってきたのを感じて、その頃から近藤くんや木内も俺にいろいろと意見を言うようになってきて。“何か新しいことが始まるんじゃないか?”と思って、09年はあまりライヴをやらずに3人だけでスタジオ入って。
おぼろげに見えてきた、新しいものをかたちにする作業だよね。
山口
そう。とにかく昔と同じことをやるのが嫌でね。同じような感じなら、「美しき人間の日々」をやってれば良いだけの話ですから。で、3人でスタジオ入って機械とかも使っていろんなことを試して、アルバム2枚分くらいボツにしてるんですよ。ふたりに聴かせてない曲も入れたら、その何倍も曲も作りましたから。で、曲が揃ってきて、やっぱり一発録りが良いってことも分かって。
ただ、一発録りでも「僕の好きな君に」みたいに勢いだけではないクオリティーの高さがあったり、試行錯誤する中で生まれた耳触りの違う曲も圧倒的にサンボの音でしかなかったりして。
山口
やっぱり新しいやり方と言い方で“I LOVE YOU”と言いたかったんだけど、それも誰かと共有できなかったら困っちゃうなと思って。そこで大きいスタジオで人の顔色見ながらやるよりも、3人でスタジオに入って好き勝手なこと言ってる方がいいなって。思い出したんだけど、「世界をかえさせておくれよ」は曲を作ってきた時、木内が“8ビートでやりたい”って言って、近藤くんは“スカのビートでやるべきだ”って言って。そこで延々と言い合えたのは、俺の作って来た曲をふたりが自分のものにして、思い切りクリエイティビティを発揮できたからじゃないかな?
近藤
今まではレコーディングした後長かったんだけど、今回は試しては録って、3人で話し合ってって時間がすごく長くて。
いわゆる、プリプロの段階にすごい時間をかけたと。
山口
そうです。それがね、ストイックな感じじゃなくて楽しかったんですよ! いろんな機材を試してみたり、「アイ ウォン チュー」って曲でも「青春狂騒曲」の木内のドラムをサンプリングしたり。いっぱい試したよね? いちいち楽しかったよなぁ。
しかも、それだけいろんなことを試しているのに、無駄なものは一切削ぎ落とされていて。今までのどの作品よりも楽曲の力を信じて、音楽ってものを突き詰めて、歌詞では愛ってものをとことん信じて考えてっていう徹底ぶりがものすごいなって。
木内
いや~、今、ちょっと感動してますよ。フジジュンさんはやっぱり初期から聴いてくれてるから、最近の曲もちゃんと理解して腑に落ちて聴いてくれてて。俺らが音楽で完全に勝負しようとしてるってところまで分かってくれてるから、すごいうれしいですね。
山口
だから、俺たちも本当に結成前の気分っていうかね。CMの話が来たら、“俺らの曲聴いてもらえてうれしい”とか、近藤くんが映画に出るって言ったら“うわっ、すげぇ!”とか。
気持ちの部分での原点回帰だよね。そこで反抗心や攻撃的なものはないけど、“伝えたい”とか“共有したい”って気持ちをウワッと吐き出していて。それが結果、めちゃくちゃロックだなって。
山口
今作を、“君らはなかったことをアリにしたから、君らは偉い!”って言ってくれた人がいて、それってすごいロックだなって。歌詞もね、ちょっとぼかした歌詞にすると、とたんに演奏が色褪せてくるんですよ。「傘にさせてくれ」って曲は“これは誰にも見せまい”と思って書いた歌詞をそのまま使ってたり、「あなたといきたい」の“離れてくらした母の顔が”なんて歌詞も“うわっ!”って思うけど、それがハマったりして、そういうことなんだなって。
だから、結成10年目にして丸裸になった感じもあるよね。照れ臭い部分も含めて、全てを剥き出しにして愛を歌うサンボマスター。
山口
もうね、今までのキャリアとかなんとかってのが嫌でしょうがないんですよ! 権威ってのが一番面白くないでしょ!? フェスでトリをやらせてくれるのは盛り上がるし、ありがたいんですけど、トリじゃなくて良いんですよ!! もう一回、フジロックのルーキー・ステージに立ってやろうかと思ってますから(笑)。
- 『きみのためにつよくなりたい』
- SRCL7270
- 2010.04.21
- 3059円
山口隆(vo&g)、近藤洋一(b&cho)、木内泰史(dr&cho)が00年に結成。山口の狂気じみた渾身のヴォーカルと、ソウル魂が炸裂するファンク・サウンドでインディーズ・シーンの中でも異彩を放つ存在となり、様々なコンピレーションに参加。03年、オナニーマシーンとのスプリット・アルバム『放課後の性春』をメジャー・レーベルからリリース、同年リリースした1stフル・アルバム『新しき日本語ロックの道と光』が爆発的ヒットを記録した。その後、“コザック前田と泉谷しげる”やYO-KINGのシングル「審美銃」のバック・バンドをつとめたり、松尾スズキの映画『恋の門』の主題歌に「月に咲く花のようになるの」が選ばれたりと、音楽関係者やアーティスト筋にもに絶賛されている。要チェック。サンボマスターOfficial Website
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