【大知正紘】「安全牌」のない時代に
必要なもの
弱い自分を知ってるからこそ強くなりたい。そんなヒリヒリするほどまっすぐな気持ちを類稀なる歌声で聴かせる、大知正紘。それは、「自暴自棄」さえ飲みこむ強さ。
取材:大庭利恵
名曲が出来上がったんじゃないですか?
うわぁ、ありがとうございます! 実は、レコーディング当日に歌詞を全部書き直したぐらい、伝えたいことが強くあった曲なので、すごくうれしいです。
レコーディングの当日に書き直しを?
はい。もともと“ハナレバナレ”というタイトルで1年ぐらい歌ってきてた曲だったんですけど、これを書いた当時に自分が感じていたことや状況が変化していたこともあって、プリプロの時にアレンジャーさんと意見が相違してたところもあったんですよ。
大知くんが表現したいものとアレンジャーさんが、この曲に感じてた魅力が違った?
そうですね。僕は、若さゆえのヒリヒリ感を表現したかったので、シンプルでタイトにしたいって言ったんです。そしたら、だとしたら、この曲が持ってるメッセージは散漫なんじゃないかって言われたんです。なるほどなと。確かにそうかもしれんと思って、考え始めて。あれこれ考えた結果、歌入れの当日に4時間かけて書き直したんです。
その変化は、何がきっかけになってたと思う?
もちろん、ライヴやレコーディングなど、自分が経験してきた全てなんですけど、それを分からせてくれたのが、地元での成人式ですね。みんなになんで今の職に就いたのか、その大学に入ったのかって聞いたら、ほとんどが“とりあえず”って言ったんですよ。10代って、訳も分からず、ただ目の前のことにぶつかっていくことの繰り返しでしょ? 20代になって、やっとやりたいことができるようになると思うんですよ。やっと動けるようになるのに、今をおろそかにしてどうするって思ったんです。
そんな人たちに“進むべき道”というのを提示していきたいと思ったんだ。
ヒントは転がってる。でも、これが未来へつながるものなのか分からないとしても、明日へ進むしかなくて。でも、ひとりでそこへ立ち向かっていくっていうのは大変。だけど、男だったら好きな人のために何もできないのは、すごく辛い。そう考えた時に、変わらなきゃダメだ。とにかく前に進もうぜって気持ちが描けたらと思ったんです。
だから、印象的な歌い出しの“人ひとりも愛せず僕は誰だ”につながるんだ。
はい。僕も、音楽でどうなるか分からないし、うまい具合に風が吹いてこない。地元の友達とも疎遠になりつつあり、彼女とも別れてしまったなんてことがいっぺんに降りかかってきたことがあったんですよ(笑)。でも、そんなどうしたらいいのか分からない時でも進みたかったですし。
そういう気持ちがベースにあるから、メッセージも投げかけてるというより、自分にも語りかけてるような感じになるのかもしれないね。
そうかもしれないですね。時々、自分で自分の書いた歌詞に励まされることもありますからね。“うん、そうやそうや。その通りや!”って(笑)。まだ花は咲いてなくても、枯らさなければ、いつかは必ず咲くわけじゃないですか。咲き終わっても、次の種を生む。生きるってことは、そうやって夢や希望を明日へつなげて続いていくものだっていうのを分かってもらえたらうれしいですね。
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