【信政 誠】空気感を損なわずにCDに
仕上げる
隅々までこだわり抜いた自信に満ちたミニアルバム『紅樹 ~nobumako no uta~』は、紅葉深まる秋と見事に調和する一枚だ。
取材:ジャガー
秋は最も人の感情を揺さぶる季節だと思うのですが、『紅樹 ~nobumako no uta~』もまさにそういう作品ですよね。
何かとこの季節は人恋しさを音楽で紛らす季節だと思うので、当初は“バラードアルバム”というコンセプトを掲げていたんです。僕自身切ない曲が得意なので、バラードにこだわって作っていったんですけど、制作過程で明るい曲を入れて対比させるほうが、よりバラードが響くんじゃないかなと。結果的にバランスの取れた7曲がそろいましたね。
全体を通して聴くと、よりまろやかになって、心に馴染んでくる柔和な印象を受けました。
生楽器の響きですかね。本作は打ち込みの楽器が少なく、生演奏で作ったので、その空気感を損なわずにCDを仕上げるのは、ミックスで苦労しましたし、気を使った部分です。
「会いたいな…」の《一秒が惜しくも無いのに 何かに苛立ってる》という一節は、ゆとりのない現代社会を上手く表現しているなと。でも、“君”という存在が救いとなり、純度の高い愛を感じます。
これはほぼ実体験の曲なので思い入れが強いです。もう歌詞のままなんですけど、当時は大学卒業後就職もせずに夢ばかり追いかけていて。上手くいかなくて落ち込んで、電車に乗って帰る日々。変わらない毎日…変わっていく景色は、ふと目についた中吊り広告ぐらいだなぁって、ため息が出た時に歌詞の原案が浮かびました。上手くいかない毎日でも守りたいと思うものはあって、その守りたいのために懸命にもがく姿に共感してくれたら嬉しいですね。
普段の中性的な優しい歌声とは打って変わり、ファンクな「君と僕」を歌う信政さんは男性の色気が強いですね。曲もカッコ良いのに、内容は情けない心情を吐露しているという(笑)。
グルーブに酔いながら聴いてもらいたいです。早口言葉みたいなサビなんですけど、歌詞の中身が奇抜なので、ライヴで聴いて全部を把握するのは難しいらしいです。それを集中して聴き取ろうとしてみるのも面白いんじゃないかな。あと、ライヴを想定した曲として、レコーディングのちょっと前に急遽作ったのが『c’mooooooon!!』。あまりド真ん中のポップスを普段作らないので、少しの違和感と恥ずかしさを抱えながらでしたけど、かたちになってみたらアリだなと思えました。ここまでみんなで一緒になって盛り上がれる曲になったのはバンドメンバーの力もありますけどね。
神戸をテーマにした曲はこれが初めてという「北野坂」ですが、街並みをこと細かに連想させる哀愁漂う曲ですね。
結構長い時間温めた期間中に人生経験も手伝って、良い雰囲気が出せて良かったです。本当に北野坂というところは哀愁ある素敵な場所なので、この曲を聴いて北野坂を訪れてほしいですね。
「元気の素」は、なんだかんだ彼女のわがままも嫌じゃないし、彼女も許してくれるって心のどこかで分かっているから言ってる、恋人同士のやりとりが微笑ましくて。
基本的には、自分の恋愛観を物語調にして広げていきます。『元気の素』は、だいぶ若い頃に作ったので…わがままで奇天烈な恋愛でもしてたんでしょう(笑)。こういうやり取りって当事者はすごく楽しんでるから、そこの楽しさを表現したくて。聴く人にも楽しさが広まって笑顔になってくれたらいいですね。もうひとつ僕の恋愛観が出ている『インナードライ』は、何気なさの中から恋愛の核心へと迫ってく…そんな展開を心がけて作ったんですけど、自分でも良く書けたなぁと思う一曲です。
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