【PUSHIM】シンガーとして純粋に歌う
ことに集中できた作品

唯一無二の美しいヴォーカルを聴かせるレゲエシンガー・PUSHIMが、初のカバーアルバムをリリースする。松田聖子、Bob Marley、松任谷由実、美空ひばり、globeといったジャンルも世代も越えた名曲をPUSHIM流にアレンジ。聴き応えたっぷりの作品だ。
取材:土屋恵介

初のカバーアルバム『The Great Songs』を制作したきっかけから訊かせてください。

ジャマイカでカバーは、古い曲だけじゃなく流行ってる曲もやるのが定番なんです。それが面白いなって『MESSENGER』というミニアルバムで伊藤由奈ちゃんの『Endless Story』(REIRA starring YUNA ITO)をカバーしたんですね。実際やったら楽しくて。前のアルバム『MILESTONE』でマイケル・ジャクソンの『Human Nature』をカバーして、そうした延長でカバーアルバムを作ろうと思ったんです。

かなり幅広く、バラエティーに富んだ選曲になりましたが、どういう基準で選んだのですか?

基本、選曲は自分が歌いたかったものと、挑戦したいと思ったもの。松任谷由実さんの『Hello, my friend』、ちあきなおみさんも歌っていた小畑 実さんの『星影の小径』、松田聖子さんの『瑠璃色の地球』は、ずっとやってみたかった曲で、伊藤由奈ちゃんやglobeの『Is this love』はトライした曲ですね。今ってカバーアルバムが多いけど、他とあまり被らない、私らしい選曲になればなって。あと、せっかくカバーをやるなら、若い世代から親の世代まで、歌を通じて私のことも知ってほしいって気持ちもありました。

全体を通じて、人を応援する歌詞のものが多いですね。

震災以降に作り始めたので、メッセージのあるものを入れたかったですね。でも、それだけじゃなく、アニメ『ふしぎな島のフローネ』の『裸足のフローネ』や、美空ひばりさんの『リンゴ追分』とか、楽しく聴いてもらえる曲も入れたかったんです。

ちなみに一番難しかった曲は?

どれもだけど、特に『Hello, my friend』は難しかったですね。

最高にいいカバーですね。聴いて泣きそうでした(笑)。

(笑)。8年ぐらい前に初めて松任谷由実さんとラジオの番組でお会いして、その時にカバーしたいんですって話をしたんですよ。それが今回やっとできたなって。この曲って歌詞が素晴らしい。私も学生の頃、この曲を聴いて泣いてたんです。その感覚を思い出しながら歌いました。それに、彼女ならではの言葉の入れ方、譜割りとか、私にないものがいっぱいある。私の曲はメロディーがグワッと上がるのが多いけど、この歌は深々と流れていく切なさがあって、そこが難しかったですね。

カバーは原曲の良さを活かしつつ、どうアレンジしていくかが醍醐味ですよね。

アレンジは、曲ごとの私なりのイメージです。『星影の小径』はジャジーな雰囲気でやってみたり、『瑠璃色の地球』はオリジナルよりもハイパーで面白い感じになりました。逆にBob Marleyの『One Love』、マイケルの『Human Nature』は原曲を忠実にやってみようと思って。ただ『One Love』は、歌ってみてゴスペルっぽいなって気付いて、後半にコーラスを入れてみたんです。

あと、歌が普段のPUSHIMさんとちょっと違いますよね。

そうなんです。どの曲も節々が似てしまうんですよ。似せて歌ったら気持ちいいなって発見もありました(笑)。ASKAさんの『はじまりはいつも雨』もちょっと真似したとこがあります(笑)。やっぱり、作った本人が一番気持ちいいところを知ってて歌ってるから、そこはあまり抵抗せずに歌おうと。

「はじまりはいつも雨」はピアノと歌一本だけの、一番シンプルなアレンジですね。

歌詞もメロディーも素敵で大好きですね。男の人がこれだけキュンとする歌詞を書くのはすごいなって、本当に久しぶりに、そして素直に感動しましたね。

美空ひばりさんの「リンゴ追分」をロックステディで歌っているのがすごいハマっていました。昭和の粋な感じも出てますし。

レゲエのリディムでドラムソングっていうのがあるんですけど、合いそうと思ってやってみたらハマりましたね。セリフを言うところも楽しかったです。

一番意外な選曲はglobeの「Is this love」でした。声が若干KEIKOさんっぽいなと。

ちょっとさわやかに歌いました(笑)。オリジナルのキーだったんですけど、歌えたんです。当時熱心に聴いてた曲ではないけど、いい雰囲気の曲でちょっとレゲエに通じるアレンジだったのを思い出してやってみたんですよ。歌詞が、若い子の不安と夢を代弁してて、ラップに若者代表としてDJのCHEHONを呼んで、2012年版の歌として説得力が出たと思いますね。

最後のウルフルズ「笑えれば」が、ゆったりとしたアレンジで、上手くいかない日常だけど笑っていこうよってメッセージがすごく入ってきます。今回、他の人の歌をこれだけまとめて歌ったのは初めてだと思いますが、原曲の良さ、PUSHIMさんのシンガーとしての力がしっかり味わえるアルバムだと感じました。

自分が純粋に歌うことに集中できたし、自分の声色の幅を見せられたかなと思います。ほんとに勉強になりました。人の作った歌を歌うこと、アレンジするのもすごく楽しかった。あと、ジャマイカや他の国でも、若い子が古い歌を知ってるんですよ。でも、日本は新しい歌がいっぱいあるから古い歌を振り返らないじゃないですか。いい歌を次の世代が歌っていくっていいことだと思うし、それでタイトルを“The Great Songs”にしたんです。またやりたいですね。次はアニソンをやりたいと思いました。

おぉ、いいじゃないですか。今回も「裸足のフローネ」を歌ってますけど、やるとしたらどんな曲を歌ってみたいですか?

『デビルマン』のエンディング曲とか(笑)。前に『はじめ人間ギャートルズ』の『やつらの足音のバラード』を歌ったことがあるけど、あれもエンディングでしたね(笑)。物悲しい感じがいいのかな(笑)
『The Great Songs』
    • 『The Great Songs』
    • KSCL-2014
    • 2012.04.25
    • 2980円
PUSHIM プロフィール

プシン:2000年3月に1stアルバム『Say Greetings!』(Greetingsはジャマイカで“初めまして”の意味)をリリース。朝本浩文とのコラボレーションや雑多なジャンルを飲み込んだスケールの大きい世界を展開し、サウンドの隅々から主張をみなぎらせている。ダンスホールやヒップホップ、R&Bまで歌いこなす器のデカさは、いわゆるディーヴァ系の括りには収まりきらない。デビュー15周年を経た16年1月、自身が新たに設立したレーベル“groovillage”より、アルバム『F』をリリース。PUSHIM オフィシャルHP

OKMusic編集部

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