【井手綾香】何か空気みたいなもので

“井手綾香”を伝えたい

シングル「ヒカリ」が好評な井手綾香。地元である宮崎の復興ソング「輝く海」でも注目を集めた彼女が、メジャー1stアルバム『atelier』をリリース! 聴いた後に温かい気持ちになれる、豊かなサウンドと歌声に彩られた充実作だ。
取材:舟見佳子

アルバムタイトルの“atelier”は、どういう思いで付けたものですか?

私は高校時代の3年間、普通の勉強もしてましたけど、芸術学科っていう学科で絵を勉強してたんです。学校には絵を描く先生もいて、先生のアトリエが学校の中にあったんですけど、そこに1回だけ入ったことがあったんですね。そこには先生がそれまで描いてきた絵や、まだ描いてる途中のものなどがあって。全部“先生の絵だ”って分かる絵なんだけど、それぞれ何かが違っていて。でも、その部屋に入っただけで先生の内面みたいなものが空気を通して伝わってくるというか、オーラみたいなもので伝わってくるような感じがすごくしたんです。それで、このアルバムを作るっていう時にそのアトリエのことを思い出して、私も言葉とかメロディー感だけではなくて、何か別の空気みたいなもので“井手綾香ってこんな人です”とかが伝わってくるような…まぁ“私の部屋”みたいなアルバムが作れたらいいなぁと思って。それで、このタイトルにしました。

収録曲についてですが、「ひだり手」という曲は井手さんのおじいさんであるビル・ワトラスさんと一緒に演奏してますね。

この曲は私の大切な人のことを書いたんですけど…私のお母さんのことを思いながら書いた歌詞なんですよ。で、レコーディングはおじいちゃんと一緒にやるって決まって、この曲は完全に家族のつながりでできた曲なんだなぁって思って(笑)。実際の演奏も、ピアノを自分で弾いて、おじいちゃんのトロンボーンが入って、私の歌という構成で。LAに行ってレコーディングしたんですけど、おじいちゃんもすごく楽しみにしていてくれたみたいで、もうばっちりスーツで決めて(笑)、私よりも早くスタジオ入りしちゃって、気合十分で練習してたりとか。そんな姿を間近で見て過ごした、すごく温かーい幸せな時間だったので、この曲を聴くたびにおじいちゃんと一緒に頑張った時のことを思い出しますね。

「震える瞳の下で」は、大事な人を失ってしまいそうな不安や寂しい気持ちをストレートに描いてますね。

この曲は、高校一年生の時に書いた曲なんです。ラブソングに聴こえると思うんですけど、実際は私の高校の友達のことを思って歌った曲なんですね。ずっとひとりでいる静かな女の子だったんですけど、その子がひとりで何だか寂しそうだから声をかけて一緒にお弁当を食べるようになって、そこから少しずつ仲良くなって、いつもふたりで行動してたんです。でもなぜか、ある時から急に口をきいてくれなくなっちゃったんです。たぶん、私が何かしたからだと思うんですけど、何が原因なのかもはっきり分からずそんなふうになっちゃって。私はその友達のことが大好きなのに、どうしてこういうことになっちゃうんだろうって思いながら、ひとり寂しい気持ちで寮まで雨上がりの日に歩いて帰ってたんですよね。その時にこの曲が浮かんできて。私はすごい寂しがり屋なので、そうやってひとりぼっちになったりすると、ほんと泣きそうになるんですよね。学校でも何回か泣きそうになったんだけど、恥ずかしいので頑張ってこらえましたけど(笑)。その時の気持ちがぐっと詰まった曲ですね。

「輝く海」は配信限定で発表されていましたが、CDとしてリリースされるのは今回のアルバムが初めてですね。

これは、宮崎の復興応援ソングとして作った曲です。口蹄疫だったり、新燃岳の噴火だったり、鳥インフルエンザだったり、宮崎もいろいろ大変なことがあったので。私はその頃高校に通っていて、朝のニュースとかで宮崎が大変だっていうのは聞いてたんですけど、直接は被害を受けていないんですね。畜産農家でもないし、家も農業をやっているわけではないし。私は曲を作って歌っているから、歌で力になれたらいいなってずっと思ってたんですけど、直接被害を受けてないのに“分かったように”歌いたくなかったんですよ。だから、書きたいけど書けないっていう日がずっと続いていて。そういう時に宮崎のテレビ局から“宮崎の復興応援ソングを作りませんか?”っていうお話をいただいて、それで作ることにしたんです。実際に被害に遭われた農家の方を訪問してお話を聞いて、テレビだけでは伝わってこなかったことまでいろいろ教えてもらったり、実際に牛に触ったりして、その大変さを空気で感じましたね。畜産農家の方が大事に大事に飼っていた牛たち…牛たちは何も悪いことをしてないし、実際に口蹄疫にかかったわけでもないけど、広がるのを抑えるためにみんな殺処分されたという。そのお話しを聞いた時に、“あぁ、私、曲書かなきゃ”ってすごい強く思って、言葉がどんどん出てきたんですよ。この曲は私の想いだけじゃなくて、いろんな人の想いが入った曲になったんじゃないかなぁって。そういう機会をもらって、ちゃんと時間をかけて、生の声を聞いてから書くことができたので、すごくいい経験になったなぁと思います。

そんな今回のアルバムですが、リスナーにはどんなふうに聴いてもらいたいと思いますか?

一曲一曲に自分の物語があって、この時ああだったこうだったみたいな思いがあるので。何だろう? 私の日記…みたいな。今まで経験してきた、心に残ったことたちを書きとめてる日記? それにメロディーを付けましたみたいな。そんな曲たちがギュッと詰まった一枚になっているので、自分が聴いても、“あぁ、懐かしいな”って思えたり。もしかしたら、私と同じ経験をしてる人がいるかもしれないですけど、そういう人も懐かしい気持ちになってもらえたりとか、ふわっとやさしい気持ちになってもらえたりしたらいいなと思います。あとは…例えば、私と同じような悲しい経験をしてる人に“私だけじゃないんだ”って安心してもらえたりとか。そんな一枚になればいいなぁって思ってます。
井手綾香 プロフィール

イデアヤカ:宮崎県出身の20歳。アメリカ人の母と日本人の父を持ち、4歳からピアノを始める。2011年3月にメジャーデビューし、翌年4月に発表した1stアルバム『atelier』がロングセールスを記録中。13年7月には両A面シングル「235/消えてなくなれ、夕暮れ」を発売した。オフィシャルHP

OKMusic編集部

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