【RHYMESTER】振り切ったことをやっ
てやろう、という潔さがあった
アルバム4作連続トップテン入りを果たし、絶頂期を更新し続けるRHYMESTER。“野蛮なる知性”をテーマに掲げたニューアルバム『ダーティーサイエンス』は、ヒップホップの強度と可能性を改めて世に突き付けるキャリア最高傑作となった。
取材:高橋芳朗
前アルバム『POP LIFE』のリリース時(2011年3月)、すでに“次のアルバムではラフでタフな、どヒップホップをやりたい”という構想を語っていましたが、あらかじめ明確なビジョンがあった分、今回の制作はスムーズに進められたのでは?
Mummy-D
今回は『POP LIFE』を作っていた時のような葛藤やジレンマはなくて、振り切ったことをやってやろうみたいな、そういう潔さがあった。こういうアプローチも何年か前だったら懐古趣味的にとられていたかもしれないけど、今は本当に何でもアリになってきたからね。振り切れてるものだけが新しい、みたいな風潮になったからこそできたことなのかもしれない。
DJ JIN
もう最初のミーティングからゴリゴリでいこうって話は出てたね。俺たちの好きな、ゴリゴリのヒップホップをやろうってことにはなってたから。そこはブレずに進んでいけたかな。ブレイクビーツ感や90年代感みたいなところも当然あるんだけど、でも当時の音を今再現しようとしてもまったく同じにはならない。こういう音をアップデートしてやってるアーティストはアメリカにもいるんだけど、ゴリゴリだけど最新のサウンドになってる。ちゃんと今の音にはなってるんだよね。
リリックに関しては?
宇多丸
歌詞を書くにあたって心掛けたのは、大きく言うなら“今の歌である”ということ。普遍的な表現はいつも目指してるんだけど、同時にこれは今の歌なんだ、たった今のことを歌ってるんだって表現を込めたかった。昔ながらのセルフボースト(自己賛美)曲風であっても“これはきっと震災以降の歌だな”って分かるような、そういう気分を詩情として落とし込みたかった。
歌詞の精度とクオリティーにこだわり続けてきた、ここ数年の集大成という印象も受けました。
Mummy-D
ちょうど児童虐待をテーマにした「Hands」(『POP LIFE』収録)を作ろうとしていた頃かな。あとになって“あの時、あいつらトチ狂ってたよな”って言われても構わないから、もっと言葉を強くしてからもう一度どヒップホップをやりたいと思ったんだよね。それはものすごく険しい道だけど、そうしないと前にやってきたことの繰り返しになっちゃうからさ。『POP LIFE』は結果、今までの俺たちのアルバムからそんなに大きく逸脱したものにはなっていないと思うけど、そういう覚悟はあったね。そもそも『マニフェスト』(2010年2月)以降に俺たちが評価されたところは言葉なんだよ。サウンドの打ち出しよりも言葉を進化させていったほうが届きやすいってことがよく分かった。日本のヒップホップに足りなかったところ、サボってきちゃったところはそこらへんなのかもしれない。
アルバム全編に通底するテーマを挙げるとしたら?
宇多丸
事前に話し合っていたわけじゃないんだけど、曲を作ってるうちに気付いたテーマは“時間”。“昨日”“今日”“明日”とか、時間経過を表す言葉や描写がものすごく多い。時間が経って何かが去って何かが変わったって歌ってることがすごく多いんだよ。無意識に染み込んだ3.11以降の感覚というか。最初はもっとポリティカルで直接的な時事ネタが入ってくるかと思っていたんだけど、曲を作っているうちにそういう気分ではなくなってきた。さっきも言ったように、普遍的なことを歌っているのに3.11以降に作った曲であることが分かる感じ。そのほうが今の気分に相応しいと思って。それが“今はもう昨日とは違う”っていう歌詞が多くなる理由なんだと思う。もともとRHYMESTERは時間の経過を歌った曲が多いんだけど、今回はもうはっきり、ひとつのコンセプトと言っていいぐらいにそれがある。
Mummy-D
あとはインテリジェンスかな。もうインテリジェンスを全面解放しちまえ、みたいなことは最初の段階から話してた。このジャンル、時代によってはそれが足かせになることもあるんだけど、開き直ってどんどん出しちゃえって。トラックがダーティーなこともあるしね。ヒップホップはバカがやってる音楽だっていうイメージが定着してしまった今、それを覆すことに意義を感じるんだ。
DJ JIN
80年代のヒップホップはインテリジェンスな部分に成り立っていたところがあったよね。ゲットーで生まれたストリートミュージックなんだけど、そこに知的であろうという姿勢があるのが衝撃だった。
そのあたりが『ダーティーサイエンス』のタフネスの源泉になっているのかもしれませんね。
宇多丸
最初にヒップホップを好きになった80年代って、ただ浮かれた時代のように言われてるけど、核戦争の恐怖だったり、チェルノブイリの原発事故だったり、当時なりに絶望感は濃かった。で、それに対して雑誌で“こういう時代に生き残るのはきっとヒップホップみたいな音楽だ”っていう紹介の仕方があってさ。“タフな時代だからこそ、今までとは違う音楽が出てきたんだ”って。その主張に、俺はすごくロマンティックなものを感じたんだよね。例え世の中がむちゃくちゃになってもタフな表現があれば元気になれるかも、と。まさに今はそれが求められてる時代なんだと思う。チンピラ文化の根本にあるロマンティシズム。アルバムを通してそういうことが伝えられたらいいなと。