【minus(-)】『minus(-) Tour 2016
    “summer Voltaire”』2016年8月13日
    at 赤坂BLITZ

    撮影:北岡一浩/取材:清水素子

     そこに彼の身体はなかった。けれど、魂は確かにあったと、その場にいた誰もが感じ取れたに違いない。去る6月3日、心不全のため彼岸の人となったminus(-)の森岡賢。あまりにも突然の訃報に人々は悲嘆に暮れ、予定されていた全国ツアーも地方公演は全て中止に。だが、もうひとりのメンバー・藤井麻輝による構想が既に固まり、ステージプランも決定していたファイナルの赤坂BLITZ公演のみ開催されることとなった。かくして世界でも稀な“フロントマンのいないライヴ”が幕を開けたわけだが、そこに感傷的な演出は一切ない。ひとつのライヴとして圧倒的な完成度を誇りながらも、全ての観客に生涯忘れられない感動を刻み込む空前絶後のステージを目撃することになったのであったーー。

     まず、驚かされたのが藤井+トリプルドラムという編成である。これまでのminus(-)ライヴでもサポートしていたYuumi(FLiP)と山口美代子(DETROIT SEVEN/BimBamBoom)という2名の女性ドラマーに加え、2002~2003年時のSOFT BALLET再結成時にドラムを務めていた平井直樹が参加。言うまでもなくSOFT BALLETは90年代に一世を風靡したエレクトロユニットであり、森岡と藤井、そしてヴォーカルの遠藤遼一が紡ぐ最新鋭かつ斬新すぎる楽曲は、しばしば“時代が追いつけなかった”と評されていたがゆえ、そのメンバーふたりが再びタッグを組んだという意味でもminus(-) は大きな注目を集めていた。事実、2014年に始動して以降は着実に支持を広げ、昨年の『LUNATIC FEST.』参加の折にはSOFT BALLETを知らない世代をも魅了。アーティストとして間違いなく波に乗っている真っ只中でのライヴは、森岡の不在を超えてなお、その不穏と美麗をない交ぜにした音像でド頭からオーディエンスを凶暴に魅惑する。

     美しいピアノSEがやがてノイズに変わり、ステージバックの映像とともにスパークしながら音量を増して限界まで達すると、ステージの左右中央に並んだ3つのドラムセットにドラマー陣が着席。森の中を彷徨う幻想的な映像をバックに「No.9」のアンビエントな音が零れ出すと、そこにトリプルドラムの野性的なビートが命の鼓動を与えるように重なってゆく。その背後の檀上で、シンセやPCがセッティングされた要塞に仁王立ちする藤井の姿は、まるで3人を操る闇の帝王さながら。そして、エレクトリカルな「No.6」でエフェクトヴォイスを淡々と吹き込み、硬質な照明/映像効果の力も借りながら、半球型の鉄骨に覆われたステージで摩訶不思議な空間を創り上げた。

     以降、トリプルドラムによる華やかなダンスビートを煌びやかな電子音が彩る新曲「LIVE」等、森岡のヴォーカルトラックも惜しみなく組み入れながら、静と動を巧みにコンダクトして拍手と喝采を呼ぶことに。そこでサウンドの肝となったのが抑揚豊かなトリプルドラムであるが、曲間に1ミリのブレイクもなくタイトかつパワフルなプレイを聴かせる3人の力量はもちろん、それぞれの個性を生かしたパート分けで音を重ね合わせ、緻密なトラックメイキングとともに唯一無二の空間を構築する藤井のプロデュース力には恐れ入るばかりだ。そんな中で胸を締め付けたのがメロディックな「Maze」から、この日が初披露となる新曲「Beauty」への流れ。森岡の甘い歌声が木漏れ日のように降り注いで、この世の全てを祝福し、その後ろに沸き出て藤井へと忍び寄るスモークに、何度も森岡の影を感じたのは筆者の錯覚ばかりではないだろう。

     終盤は森岡節満点のEDMチューン連打でフロアーは爆発的な盛り上がりへ。「Descent into Madness」ではクラップの嵐から、歌声だけが流れる彼の分までとばかり踊り狂うオーディエンスに、藤井が御褒美のサムズアップを示すシーンも。そのノリをクールに引き継ぐ新曲「No Pretending」を挟み、「Peepshow」で一斉に両手を掲げる客席の様は神を崇め、その降臨を請う厳粛な祭儀のようにも映る。さらに、在りし日の森岡のように会場の全員が大きく左右に腕を振る「Down words falling」で頂点に達した熱狂を、一瞬にして冷ましたのがセットリストの最後に記載されていた「B612」。ノスタルジックな音像に乗せ、エフェクト越しに藤井が囁く《I can feel you, I can hear you》のフレーズに、もうひとつの意味合いを感じて、思わず胸が締め付けられてしまう。だが、直後に引き起こされた感情のうねりは、それとは比べ物にならないほど甚大なものだった。

     演奏が終わって藤井が両手を広げた瞬間、その残響に聴き慣れたギター音が重なって、思わず“まさか”と耳を疑う。そして、トリプルドラムとともに紡がれたメロディーは、紛れもなく森岡の作曲によるSOFT BALLETの名曲「AFTER IMAGES」。往年のファンならば聴き違えようのない女声コーラスに続き、遠藤遼一のヴォーカルが流れ出すと、場内には声にならない悲鳴が満ちた。この公演のために新たに録音されたという歌声に、藤井はイヤモニを外してジッと耳を傾け、信じられないサプライズにフロアーは忘我と驚喜の境地に至る。SOFT BALLETの復活を望んでいた森岡と意見を異にしていた藤井にとって、このラストチューンを決断するまでにどれだけの葛藤があったかは想像するまでもない。それでも人生でもっとも濃密と言える時間を共有した30年来の盟友を送るために、これは彼にとっても不可欠の儀式であったのだろう。LEDモニターに映し出された青空をバックに、奏でられるサウンドと歌声はどこまでも美しく神聖で、そこに誰もが天へと昇る森岡賢の姿を見たに違いない。

     曲終わりに“ありがとう”と呟いて、ドラマー3人と一礼した藤井の顔に涙はなかった。むしろ、晴れやかな笑顔の裏にあったのは悲しみや嘆きを超越した本物の絆だった。何より嬉しかったのは、この日、ふたりで立ち上げたminus(-)が今なお現在進行形で進化しているのを確認できたこと。何度終演のアナウンスが流れても止むことのなかったアンコールの声は、その明らかな証明であったろう。発売延期になっていた1stフルアルバム『O』も12月にリリースされ、昨年同様12月28日には新宿ReNYでのワンマン公演『LIVE2016 “Vermillion #2』も決定している。この先、minus(-)という存在がどのような発展と変化を遂げていくのかは、未だ闇の中だ。しかし、それを見届けることこそが、宙へと還った魂に報いることになる。そう。彼の残した音楽の血脈は、これからも連綿と息付いてゆくのだ。

    セットリスト

    1. No.9
    2. No.6
    3. The Victim
    4. LIVE(新曲)
    5. No.4
    6. RZM
    7. Maze
    8. Beauty(新曲)
    9. Descent into madness
    10. No Ptrtending(新曲)
    11. Peepshow
    12. Dawn words falling
    13. B612
    14. AFTER IMAGES(カバー)

    OKMusic編集部

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