【秦 基博】どこを切っても秦 基博の
音が行き渡っている

約3年振りとなるオリジナルアルバム『青の光景』は、「ひまわりの約束」「水彩の月」「Q & A」などヒットシングルやタイアップ曲を網羅! さまざまな感情が“青”でグラデーションを描くように表現されている。
取材:榑林史章

自分が思う“青い”サウンドイメージで
アルバムを作りたかった

アルバムは、どんなふうに作り始めたのですか?

今回アルバムを作る前にイメージカラーというか、青みがかったサウンドというか…青が滲む音で、アルバムを作り上げたいという想いがあったんです。音で色は見えないから抽象的な表現になってしまいますが、自分の中では結構明確なイメージがありました。空の澄んだ青さのようにすごくさわやかで透明感のある青もあれば、そこからグラデーションを描いてどんどん深くなる青もあるし…それこそ黒に近い青まで。そういう自分のイメージする青を、自身のフィルターを通して音で表現したいと。そこで最終的に“青の光景”とタイトルを付けたんです。

必ずどこかに青をイメージするものが入っていると?

例えば1曲目の「嘘」は、具体的に“青”という言葉が入っているわけではないけれど、まさに滲んでいるような青で、それはギターの音色などにも表れていると思います。青のイメージにはもの悲しさもあって、例えば幸せな感情にも、そこには表裏一体の心情が隠れているものだと思うし。具体的に“ディープブルー”と名付けた曲や、「デイドリーマー」やラストの「Sally」には“空”という言葉が使われていたり。曲によってさまざまなかたちで入っています。

でも、どうして青だったのですか?

ひとつにはきっと“憂い”というのがあるからだと思います。生きていく上で、憂いや切なさのようなものってどうしようもなく付いて回るものですし、そういう悲哀まで描けたら、日々の生活でリアルに感じているものを、聴いてくれる人と共有できる気がしたんです。

過去に「青い蝶」という曲もあるし、個人的に好きな色だったりするのですか?

もともと曲を作る時に青が浮かぶことは結構多いかもしれません。もちろん赤やオレンジのこともありますが、今回はその中でも青が浮かぶ情景や感情を注ぎ込んだアルバムにしようと思いました。単純に言うと、その時の自分のモードが“青”だったんだと思います。

昨年10月に弾き語りのベスト盤『evergreen』の緑があって、その前のアルバム『Signed Pop』は明るい曲調も多く、ジャケットのイメージからもイエローという印象があったのですが。

確かに(笑)。ですが、そういう流れまでは考えてなかったかな。2013年に『Signed Pop』を出して、ああいうポップな作風は、ひとつそこで作れたので、じゃあ次のサウンド感はどうしようか?と模索しながら作ったのが「ダイアローグ・モノローグ」というシングルだったんです。それが2014年4月なので、その制作時期から徐々にアルバムのイメージが固まっていって…。その後に出した「ひまわりの約束」は、“青”というイメージとは違うように思われるかもしれませんが、根底にはこのアルバムを見据えたものが流れています。

アルバム用の新曲はいつくらいから?

曲作りを始めたのは2013年の秋頃からですが、実際にアルバム用のレコーディングを開始したのは、今年に入ってからです。1月はアイデアをまるまる吐き出すというか、思い付いたアイデアをどんどんかたちにしていく期間で、そこでできたものから取捨選択して、実際にレコーディングしていって、夏頃にまた改めて曲作りの期間を設けてもらいました。1月からの半年くらいで、イメージするアルバムに足りないものが見えたり、もっとこういう曲が書きたい!という気持ちが生まれたりするだろうと思っていたので、あらかじめそう決めていたんです。そこで「ディープブルー」とか「Fast Life」、弾き語りの「美しい穢れ」が生まれました。特に「ディープブルー」はアルバムのコンセプトがより明確になったことで、とても印象的な曲になったと思います。

「ディープブルー」はディレイ感というか、暗くて深い海の底に沈んでいくような、独特な浮遊感がありますね。あと、ヴォーカルがほぼファルセットで、それがすごく印象的でした。

「ディープブルー」はドラムの生音をキックだけとか単音でサンプリングして、Pro Tools上で組んでいます。なので、打ち込みと生音の中間というか、無機質なものと有機的なものが混ざり合った音色になって、それが曲の世界観を特徴付けてくれていると思います。ファルセットで歌ったのは、自分の持っている声色の幅の中で、新しいことができないかと考えた結果ですね。地声とは違った味が出せて、面白いんじゃないかなって。

悲しみに寄り添うような歌詞も独特ですね。

曲調が深い海の底に潜っていくイメージだったので、歌詞にもそういった情景が盛り込まれています。あえて抽象的な内容にしているので、聴いてくださる方それぞれの中で、主人公はどういう人かな?とか、想像してもらえたら嬉しいですね。

1曲目の「嘘」は、ギターがソリッドでとてもインパクトがある曲ですね。

これは最初の曲作り期間で出来上がった曲です。エレピの4つのコードのリフレインの中で、メロディーや曲を展開していこうというアイデアから生まれました。“嘘”というテーマは最初から考えていて…必ずしも実体験ではないけれど、そこに込めている気持ちや流れている感情は、確かに自分の中にあるものなので。そうなると、何が嘘で何が本当なのか、とてもあやふやだと思ったんです。アルバムの幕開けが、“嘘”から始まるのも興味深いんじゃないかと。

OKMusic編集部

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