【Poet-type.M】“夜しかない街の物
語”を通して謳う音楽に対する感謝と
衝動

門田匡陽のソロプロジェクト、Poet-type.Mによる4部作が『A Place, Dark & Dark - 永遠の終わりまでYESを -』(通称『冬盤』)でついに完結。ひとつのジャンルにとらわれずに先鋭的なサウンドを追求してきた彼が今回、自らのルーツをふり返った先に見出したものとは?
取材:山口智男

お正月はデヴィッド・ボウイのオリジナルアルバムを聴き直していたそうですね?

7歳の頃からデヴィッド・ボウイがずっと好きで。プリンスとともに最初に憧れたアーティストのひとりなんです。今回、『冬盤』を作る時、『festival M.O.N -美学の勝利-』(2015年10月に東京と大阪で開催した、門田匡陽が企画するライヴイベント)のタイミングと重なっていたこともあって、自ずとこれまでの自分を振り返ったんですよね。『festival M.O.N -美学の勝利-』が始まった時、実はまだ2曲しかなくて、BURGER NUDS、Good Dog Happy Menと振り返る中で、そろそろ自分の道のりを地図上に記したいという思いが生まれてきて。前に僕はルーツがない音楽家だから、自分の故郷を探しているのかもしれないという話をしたじゃないですか。それをやりたいと思ったんです。それが僕の中でデヴィッド・ボウイや(ジャパンの)デヴィッド・シルヴィアンだった。彼らに対する憧れや音楽に対する一番プリミティブな衝動をかたちにしたいという考えがありました。ボウイの影響ってこれまでも無意識のうちに出ていたと思うんですよね。で、今回そこに向き合ってみた。『冬盤』の最後に入ってる「永遠の終わりまで、「YES」を(A Place, Dark & Dark)」では、メロトロンの音が入っているんですけど、あえてそういうことをやってみました。フェイクの入れ方も(ボウイの)「スターマン」っぽい(笑)。その一方で「快楽(Overdose)」はデヴィッド・シルヴィアンがジャパンの曲を作ったらというレシピがありました。

自分のルーツを見つめ直したことで、この先、進むべき道は見つかったのでしょうか?

Good Dog Happy Menの『the GOLDENBELLCITY』という架空の街3部作から始まった物語を、『A Place, Dark & Dark』4部作で補完することが目標だったんですけど、Poet-type.Mとしてはこれから音楽の中で、“東京”や“日本”というワードが出てくることはないと思いました。つまり、架空の街の物語からもう帰ってこられないんだろうなという気がしています。現実に則したワードが出てくる音楽はBURGER NUDSがやればいい。Poet-type.Mの表現の仕方が『A Place, Dark & Dark』を作ったことで、よりはっきりしました。つまり、毎回テーマやコンセプトを決めて、それに対して音を作っていくというやり方ですよね。

4部作の最後を締め括る「永遠の終わりまで、「YES」を(A Place, Dark & Dark)」という曲は、『春盤』のオープニングを飾る「唱えよ、春 静か(XIII)」で旅立ったXIII(というキャラクター)のまた新たな旅立ちなのでしょうか?

そう考えるとすごくやさしいんだけど、『秋盤』から『A Place, Dark & Dark』が現実に寄りすぎてしまったんです。去年の秋頃の、本気で世の中を変える気はないバカ騒ぎが続いて、音楽はそっちに寄らざるを得ないという雰囲気に僕は非常に気持ち悪さを感じて、苛立っていたんです。そういう想いが今回の「接続されたままで(I can not Dance)」や「快楽(Overdose)」になっているんだけども、このままでは『A Place, Dark & Dark』はハッピーエンドにならないと思ったので、2週間ほど電話にもメールにも一切応えずに、自分の中で『A Place, Dark & Dark』に言える言葉を探し続けたんです。それが自分の中のルーツを振り返ろうと思って、ボウイやプリンスを聴き直していた頃です。その時、音楽に対する自分のプリミティブな想いを歌にすれば、それでいいはずだと思いました。「永遠の終わりまで、「YES」を(A Place, Dark & Dark)」は、自分に音楽の道を選ばせてくれたものに対する気持ちでもあるんです。それはボウイやプリンスに限らず、僕が本当に音楽が好きだなって思い始めた頃、聴いていた音楽に対する言葉でもあるんです。もちろん、『春盤』のXIIIの旅立ちに向けた言葉でもあるし、『A Place, Dark & Dark』に向き合った自分と仲間たちに対する言葉でもある。あと、ちょっと先のリスナーの想像力にも期待しています。

門田さんのヴォーカルの魅力がこれまで以上に味わえる曲が揃っているところも『冬盤』の聴きどころですね。

こういうことをあまり言うと、素人臭くて嫌ですけど、自信がつきました(笑)。レコーディングは『festival M.O.N -美学の勝利-』の直後だったので、全然タイプの違う3バンドでフロントに立ち、4時間を超えるライヴをやり切ったというヴォーカリストとしての自信はありました。

「もう、夢の無い夢の終わり(From Here to Eternity)」や「接続されたままで(I can not Dance)」では耽美的というか、官能的な歌がとても魅力的に聴こえます。

退廃的な耽美主義には今回、自覚的にアプローチしてますね。ボウイやシルヴィアンを目標に掲げ、キーは低めにしているということもあるんだけど、自分の中で一番色気を出せるキーなのかな。テンションの高い表現だけではなく、そういうことも意識すれば、20代でも30代でもできるはずなんですよ。そこをちゃんとかたちにしたかった。

4月17日には『A Place, Dark & Dark』の集大成となる独演会『God Bless, Dark & Dark』が開催されますが。

同時に次への実験でもあるんです。ライヴに対する僕の考え方もギターロックの範疇を超え始めているので、それをちゃんと表現したい。非常に先鋭的な活動になっていくと思うんですよ、これからは。今までと、そのこれからを接着するライヴになります。僕たちが作り上げる『A Place, Dark & Dark』を観にきてほしいけど、座席に座って観てもらうので、盛り上がってほしいとか一体になりたいとかという気持ちはない。みんなが完全な異世界である『A Place, Dark & Dark』にいられることが目標です。ライヴが終わって街に出た時、“あれ? 違和感がある、帰ってこられないかも!?”と思えるようなライヴをやりたいと思っています。
『A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-』
    • 『A Place, Dark & Dark -永遠の終わりまでYESを-』
    • PtM-1033
    • 2016.02.17
    • 1620円
Poet-type.M プロフィール

ポエトタイプドットエム:2014年に再結成した3ピースロックバンドBURGER NUDSのメンバーであり、現在活動休止中のGood Dog Happy Menの門田匡陽のソロプロジェクト。13年10月2日に初のフルアルバム『White White White』をリリース。15年1月31日に独演会『A Place, Dark & Dark -prologue-』を開催し、その独演会を皮切りに1年を通して“夜しかない街”の物語を春夏秋冬に分け、音楽で綴っている。16年4月17日には『A Place, Dark & Dark』最終話となる独演会『God Bless, Dark & Dark』の開催が決定している。Poet-type.M オフィシャルHP

OKMusic編集部

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