【key poor diary】言葉が映えるアレ
ンジ、歌が活きるフレーズを求めて
福岡の4人組ロックバンド、key poor diaryが満を持して1stミニアルバム『keyword』をリリース。結成から5年、これまでライヴで演奏してきた曲の中から7曲を選曲し、現時点での彼らの“ベスト”と言える一枚になった。
取材:山口智男
コピーバンドから始めて、その1年後にはオリジナルを作り始めたそうですね。
大島
思春期の頃、僕は自分があまり好きではなかったんです。生まれつきアレルギーがあったせいか“他の人より劣ってる”って思ってたんですけど、そんな時に長弘からバンドに誘ってもらったんです。だから、何かひとつかたちにしたい、そろそろかたちにしないとまずいんじゃないかって焦りと使命感で作りました。高校時代はみんなちゃんとやることや自分というものに対する意味を持っているように見えたんですよ。クラスという小さな世界の中で、運動神経が良いとか見た目がカッコ良いとか、ちゃんとそれぞれ役割があるのに、僕はそのどれにも入れていないんじゃないかみたいなところがあって。その気持ちをどうにか曲にできないかと思いながら、毎日を過ごしていました。その頃にできた曲をずっと温めていたので、曲を作ろうってなった時にそれを持っていったんです。それが最初に出したシングルに入っている「花火」という曲なんです。
松隈
3人が土台を作ってきたので、“1時間だけちょうだい”と言って、とりあえずイントロを付けたら気に入ってくれて。
大島
あの時は、はしゃぎましたね(笑)。“こんな感じのギターを付けるんだ”って感動したんですよ。
松隈
自分でもこんなポップなフレーズを弾くんだってびっくりしましたけどね(笑)。
大島
今のバンドのかたちができたのは、その時の感動があったからだと思います。曲を作るって楽しいんだと思いました。
その時に、自分たちがやりたい音楽はこういうものだということもはっきり分かったとか?
大島
最初からずっと言い続けているのは、“言葉を聴いてほしい”ということなんです。他のバンドさんを見ていると思うんですけど、僕らはそんなに音作り自体を優先してはこだわっていない…そこじゃない感がずっとあるんですよ。
今回、7曲を聴かせてもらって、叙情的なロックナンバーを軸にしながら、いろいろな曲をレパートリーに持っているバンドだと思いました。それは歌と言葉に一番相応しい曲調、アレンジを考えていった結果だと思うのですが。
大島
そうだと思います。だから、よく言われるんですよ。“曲の統一感がないね。何でもありなんだね”って(笑)。でも、逆に自由で楽しいです。
その“何でもあり”の幅広い曲が、大島さんが歌うことでひとつのイメージにまとまっていると思いました。無骨とも言える大島さんの歌声はバンドにとって大きな武器ですよね。ところで、大島さんが作った曲をアレンジする時、楽器隊の3人はどんなことを意識しているのですか?
長弘
さっき正ちゃん(大島)が言った、“言葉を聴いてほしい”というところは、みんな共通して思っていることなので、言葉が映えるアレンジ、歌が活きるフレーズをみんな考えていると思います。
大島
長弘は最初の頃、言葉に対するこだわりは僕以上に持ってましたね。びっくりしましたよ。
長弘
正ちゃんが持ってくる曲は共感できるものばかりで、僕自身、彼の言葉で救われているところがあるんです。僕はそれをベースで表現できたらいいなと思ってやっています。
大島
もともと、ビジュアル系のバンドをやっていた隈(松隈)は言葉を意識せずに彼らしいフレーズを弾いていましたね。逆に、それがカッコ良かった。他のバンドの真似事にならなかったのは、それがあったからだと思うんですよ。
松隈さんのフレーズって多彩ですよね。中でも「雀の涙」のイントロのリードギターは大人っぽいフレーズが特に印象に残ります。
松隈
あれだけ、普段とちょっと違う付け方をしているので、そう言ってもらえると嬉しいですね。
フュージョンを聴いているのかなってフレーズですよね。
どの曲も歌を立てながら、楽器隊の演奏は結構攻めていますね。
大島
最近、彼らが大変わんぱくで(笑)。あれやってみよう、これやってみようっていろいろやっているんで、僕らはこれからもっと変わっていくと思いますよ。
「シャドー」のドラムはレゲエっぽいと言うのか、ダブっぽいと言うのか。
吉武
もともとは全然違う感じで叩いてたんですけど、今回、サウンドプロデュースで加わっていただいた権藤知彦さん(YMO、高橋幸宏、Chara、くるり他との共演で知られる)からの提案で、ああいうふうになりました。
大島
「花火」の時は、僕らの覚悟と準備も足りなかったことも大きいんですけど、バンドサウンドを得意としているエンジニアさんと録ったので、足りないんじゃない?って求められて…それに応えることができなかったのが申し訳なかったんですよ。でも、権藤さんは手掛けてきたバンドやお会いした時の印象から、“僕たちの話を聞いてもらえそうだ”という予感があって。実際、たくさんお話しする中でも否定されることが1回もなかったですね。僕らの考えを全部聞いた上で、“僕が知っているのはこれだから”っていろいろな提案をしていただきました。
長弘
「コールドスリープ」の頭のシンセっぽい音をはじめ、そういうアプローチの仕方があったのか!って僕ら4人では思い付かなかったことの連続でしたね。
そういう経験は、今後曲作りする上で活きてきそうですね。ところで、今回ミニアルバムを作るにあたっては、どのような作品にしたいと考えていたのですか?
長弘
今回は新曲ではなく、今までずっとやってきた6曲で。そこに、2曲目の「四月の彼女」の序章になる1曲目の「九月の月」っていう短い曲を加えた7曲なんですけど、歌詞、曲調ともにそれぞれに違う7曲という意味では、今までライヴで観せてきたいろいろな僕たちを知ってもらえる作品になっていると思います。
大島
曲の振り幅的には暗いところも僕は見せたつもりですし、自分の見てきたきれいな思い出も描きましたし、その中で4人が思ったことを音に込めました。“keyword”ってタイトルは、僕ら“key poor diary”の言葉という意味もあるんです。
「四月の彼女」を聴いてからずっと、《桜が咲いたらお別れね》というサビの歌詞とメロディーが耳に残っているんですよ。
大島
嬉しいです。僕以外の誰かが歌えたらいいなと思いながら作ったので。高校生の頃に、大好きだったの歌詞を書き出しながらずっと歌っていたんですよ。それで勇気をもらったんです。でも、今のバンドさんの歌は、全てではないと思うんですけど、自分には歌えないものが多い。テクニックがすごすぎて、“共感”と言うよりは“尊敬”の気持ちのほうが強くなってしまって…でも、僕が思春期に苦しんでいた頃、救われたのは自分が好きなバンドの曲を歌えたからだと思うんです。「四月の彼女」は、そういうことも意識しました。そのサビの部分を覚えてくださる方が多いんですよ。
リリース後はどんな活動を?
長弘
リリースの2日後の3月25日に地元の福岡でレコ発ツーマンライヴをやります。その後は各地を回るつもりです。照れ臭いから直接言わないけど、僕は正ちゃんの曲と歌詞が大好きだし、救われてきたところもあるので、いろいろな人にその言葉を聴いてもらいたいから、今以上にたくさんの人に知ってもらえたらいいなって思ってます。
大島
音を届けられるバンドはたくさんいますし、それに合った時代も来ていると思うんですけど、その中で歌詞を聴く人が減ったり、言葉に救われる人が減ったりするというのは寂しいと思うんですよ。もちろんゼロになることはないと思うから、そういう人たちの居場所を作っていきたいですね。
- 『keyword』
- FGCH-14
- 2016.03.23
- 1944円
キー・プア・ダイアリー:2011年12月に前身バンドを結成。コピーバンドとして活動し、12年12月、結成1年を境にオリジナル曲を作り始め、福岡のライヴハウスを中心に活動を始める。作詞・作曲を大島が担当し、編曲をメンバー全員で行なうスタイルを取っている。何気ない日常の中の“本音の一瞬”を切り取った歌詞、そこに重なるエッジの効いた爽やかなバンドサウンドが、年齢を問わず共感を呼んでいる。16年3月23日、初の全国流通盤ミニアルバムをリリースする。key poor diary オフィシャルHP