L→R DJ KATSU(DJ)、TOC(MC)

L→R DJ KATSU(DJ)、TOC(MC)

結成10周年の節目の年を迎え、ますますその動きを活性化させているHilcrhymeが新曲を発表。Hilcrhyme史上、最高に楽しく、最高にハッピーに仕上がった、この「WARAE~In The Mood~」を最速でレポートする!
文:帆苅智之

今夏、結成10周年記念ライヴを収録した映画『Hilcrhyme 10th Anniversary FILM「PARALLEL WORLD」3D』が公開された上、同時にライヴアルバム『Hilcrhyme 10th Anniversary LIVE「PARALLEL WORLD」』をリリースしたHilcrhyme。10月13日より全国ツアー『Hilcrhyme 10th Anniversary TOUR 2016 BEST10』をスタートさせたばかりだが、そんな彼らからニューシングルが届いた。通算20枚目という、これも節目と言えるシングル作品だ。タイトルは“WARAE~In The Mood~”。パッと見て“これはどう読めばいいんだろう?”と思った人がいるかもしれないが、そのまま“ワラエ”と読めばいい。ずばり、“笑え”である。まぁ、頭ごなしに“笑え”と言われても、なかなかすぐに笑えるものでもないだろうが、この「WARAE~In The Mood~」はそんなに音楽を詳しくないリスナーでも…少なくともHilcrhymeのリスナーなら、パッと聴いて即笑顔になれること請け合いのハッピーチューンである。ここから先、「WARAE~In The Mood~」を解説させてもらうのに予めこんなことを言うのも変だが、できれば何の先入観もないまま聴いて、まずニコリとしてもらいたいところである。
タイトルに“~In The Mood~”とあるが、これはジャスの名曲「In The Mood」のこと。もとはジョー・ガーランド作曲のナンバーということだが、何と言ってもグレン・ミラー楽団の演奏で世界中に知られることとなったビッグバンドのスタンダードナンバーだ。間違いなく誰もが1度や2度は聴いたことがある名曲中の名曲である。日本では映画『スウィングガールズ』や『瀬戸内少年野球団』での使用が代表例で、その他、テレビやラジオでの使用例は…と言えば、それこそ枚挙に暇がないほどだ。それほどの定番曲「In The Mood」を大胆にカバーしており、リズムカウントに続いて、あの超有名なテーマ(原曲ではサックスとトランペットで奏でられるアレ)がドンと耳に飛び込んできて、ニヤリとする。
そして、DJ KATSUが作ったバックトラックがいい。電子音の使い方がユニークで、原曲の軽快なメロディーをさらにポップに響かせている印象だ。とにかく楽し気である。また、ビートが本来あるべき位置よりほんのわずか後ろで、いい意味でルーズな感じなのだが、これがトラック全体にいい効果を及ぼしているとも思う。デジタルっぽさが薄いというか、どことなくアナログっぽいというか、何とも陽気な雰囲気を作り出している。かなり邪道な聴き方だが、先にカップリングのインストを聴いて本作の楽しさを堪能するのもありじゃないかという気もする。そこに乗るTOCのラップもさすがに絶妙だ。その昔、ラップはあまりメロディーを付けず、リズミカルに喋るように歌うのが一般的と言われていたが、彼のラップはフックはもちろんのこと、ヴァースもメロディアスである。今回、これが活きている。「In The Mood」のサンプリングしたバックトラックにラップを乗せたという感じではなく、「In The Mood」をマッシュアップ、バスタードポップしたような聴き応えなのだ。MC、DJともにメロディー指向のHilcrhymeならではの仕上がりにニンマリとしてしまう。
さて、リリック。何はともあれ、《目標を見つけて 笑え/たとえ困難な道でも 笑え/生まれたて子供のように 笑え/命あるかぎり 笑え》という、ストレートにポジティブなメッセージが力強い。それも肩に力が入った感じではなく、《一歩進んで二度笑う/仏の顔三度まで笑う/半か丁か四の五の言わずに笑う》なんて言葉遊びをしっかり入れ込んでいるのもいい。この辺にはニコッとさせられる。それでいて、決して問題提起も忘れていないのは、日本語ラップの正当なる系譜に連なるHilcrhymeの面目躍如たる部分であろう。《敢えて買って出るその場のピエロ/豪快に滑り転んだとしても/君を笑顔にできればこれ幸い》《薄笑い浮かべからかってる/つまり視線を君がかっさらってるってこと/KYってうるせぇ俺は例外/だれが不正解と言おうと俺は正解》。“笑われる”ことすら後ろ向きにとらえることなく、笑顔に転換しようという姿勢が素晴らしい。彼ららしい清涼感に思わずニヤけてしまうのだ。
カップリング曲「ソノママ」についても少し触れておこう。こちらは「WARAE~In The Mood~」から一転、落ち着いたミディアム~スローのメロディックチューン。バックトラックは、確かなビートに乗せられた透明感あるエレピの音色が印象的で、そこに乗るヴァースのラップは比較的シンプルだが、抑制されているからこそ、揺るぎない気骨が感じられる。何よりもフックでの《Stay the way you are/Stay the way you are/誰も止めることなど/出来やしないだろう/そのままでいいんだよ/進め 心のままに》というリリックがいい。結成10周年を迎えたからといって浮足立つことも、焦ることもなく、着実に歩みを進めんとする彼らの決意の表れのようだ。カップリングとはいえ、決して疎かにはできない佳曲である。こちらもお聴き逃しなく。
さて、“笑う門には福来る”とはよく言ったもので、笑顔でいることの効果、効能は科学的にも実証されているようだ。笑うことで情報伝達物質の神経ペプチドが活発に生産されて、それが血液やリンパ液を通じて体中に流れ出し、病気のもとを攻撃するナチュラルキラー細胞も増加。この細胞は免疫力の要であるそうで、抵抗力を高める他、アレルギー、糖尿病などの予防にも効果的という。ということは、今回のHilcrhymeは、さながらセラピストであろうか。シングル「WARAE~In The Mood~」の発売は11月16日。これを聴いて存分に笑顔になってほしいものである。
「WARAE~In The Mood~」2016年11月16日発売UNIVERSAL J
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • UPCH-7206 1836円
    • 【通常盤】
    • UPCH-5890 1188円
Hilcrhyme プロフィール

ヒルクライム:ラップユニットとして2006年に始動。09年7月15日にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビュー。2ndシングル「春夏秋冬」が大ヒットし、日本レコード大賞、有線大賞など各新人賞を受賞。ヒップホップというフォーマットがありながらも、その枠に収まらない音楽性で幅広い支持を集めてきた。また、叩き上げのスキルあるステージングにより動員を増やし続け、14年には初の武道館公演を完売。「大丈夫」「ルーズリーフ」「涙の種、幸せの花」「事実愛 feat. 仲宗根泉 (HY)」などヒットを飛ばし続け、24年7月15日にメジャーデビュー15周年を迎える。ライミングやストーリーテリングなど、ラッパーとしての豊かな表現力をベースに、ラップというヴォーカル形式だからこそ可能な表現を追求。ラップならではの語感の心地良さをポップミュージックのコンテクストの中で巧みに生かす手腕がHilcrhymeの真骨頂である。耳馴染みのいいメロディーと聴き取りやすい歌詞の中に高度な仕掛けを巧みに忍ばせながら、多くの人が共感できるメッセージを等身大の言葉で聴かせる。その音楽性は、2018年にラッパーのTOCのソロプロジェクトとなってからも、決して変わることなく人々を魅了している。Hilcrhyme オフィシャルHP

TOC プロフィール

ティーオーシー:HilcrhymeのMC、自身が主宰するレーベル『DRESS RECORDS』のレーベルヘッド、そして、アイウェアブランド『One Blood』のプロデューサーとして、多角的な活動を展開。Hilcrhymeとしてメジャー進出し、メジャーフィールドにもしっかりと爪痕を残し、スターダムに登っていったが、その活動に飽きたらずソロとしての活動を展開。2013年10月に1stシングル「BirthDay/Atonement」、14年11月にはソロとしての1stアルバム『IN PHASE』をリリースし、ソロとしての活躍の幅を広げていく。その後、ソロMCとしてのTOC、及び『DRESS RECORDS』がユニバーサルJとディールを結び、メジャーとして活動していくことを発表し、16年8月にメジャーデビューシングル「過呼吸」を、18年1月にメジャー第1弾アルバム『SHOWCASE』をドロップ。メジャーフィールドでポップスター/ポップグループとしての存在感とアプローチを形にしたHilcrhyme、Bボーイスタンス/ヒップホップ者としての自意識を強く押しだしたソロ。これまでに培われたふたつの動きがどう展開されていくか興味は尽きない。TOC オフィシャルHP

OKMusic編集部

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