【ART-SCHOOL】進化があるからこそ分
かる揺るがぬ核
ART-SCHOOL が新境地のミニアルバム『ILLMATIC BABY』と、
初のベストアルバム『Ghosts & Angels』を同時発売!
取材:高橋美穂
ART-SCHOOLから、約1年前にリリースされたミニアルバム『左ききのキキ』以来の音源が届いた。しかも新曲を6曲収録したミニアルバム『ILLMATIC BABY』と、選りすぐりの楽曲を収録した初のベストアルバム『Ghosts & Angels』の2枚を同時発売するのだ。結成して8年を超える彼らだが、未だに衰えぬ勢いを感じずにはいられない。
まず、ミニアルバムに関しては、プレイボタンを押した瞬間に、“あれ? ART-SCHOOLじゃないCD入れちゃった?”なんて思ってしまうような、驚きの音像が流れ出てくる。そう、1曲目に収録されている表題曲「ILLMATIC BABY」は、ざっくり言うと、ダンスチューンなのだ。ちなみに、そのイメージとリンクするような、ニューレイヴ路線を突き進むアーティスト写真も驚愕を誘う。しかし、楽曲を聴き進めていくと、木下理樹のヴォーカルの魅力はそのままだし、エロスや刹那といったART-SCHOOLらしさが滲み出てくる。つまり、今までの彼らの核を壊すことなく、それをまったく違う手段で表現したような楽曲なのだ。そう思って紙資料を見たら、この楽曲は木下の(意外な)盟友である、かのDOPING PANDAのロックスターがプロデュースしたとのこと。なるほど、ART-SCHOOLの良さを自分のフィルターを通して解釈した結果なのだろう。寂寥のダンス…なんて矛盾しているような言葉が似合う新境地である。
続く2曲目の「夜の子供たち」は、1曲目の空気をガラリと変える、疾走感あるロックチューン。“ART-SCHOOLは別のバンドになってしまったのだろうか?”なんて心配を抱いてしまった人も、ここで安心できるような、これぞART-SCHOOLと言える楽曲だ。この1曲目と2曲目の振り幅が、今のART-SCHOOLらしさなのだと思う。そんな象徴的な流れがド頭に収録されているあたりからも、今作の意味合いが伝わってくる。
そして3曲目は、ゆらゆらと心地良い音像がまさに光のようなミドルナンバー「君はいま光の中に」。“何となく生きてきて どうだって良くなってたけど/今何を待つべきか 分かった気がしてさ”という、希望に満ちた言葉が印象的である。これもある意味、ART-SCHOOLの現在地を象徴しているのではないだろうか。この曲から感じるのは、痛みより優しさ、冷たさより温かさ。以前の彼らの楽曲からは受けなかった感覚があるのだ。
後半も、エッジィな「BROKEN WHITE」、まろやかな「エミール」、長いイントロから突入する「INSIDE OF YOU」と、それぞれ違う色を持った楽曲が続く。これ一枚で、ART-SCHOOLのポテンシャルと進化を感じさせるには十分な、濃厚なミニアルバムに仕上がっていると思う。
一方、ベストアルバムは、これまで彼らが在籍した4レーベルをまたいだ18曲が収録されているという、ヴォリューム感たっぷりの内容だ。ライヴでやっている楽曲も数多く、最近彼らを聴き始めた人にはうれしいアイテムだろう。個人的には、インタビューしたことはないのに、今作によって、初期の楽曲まで鼓膜に染み付いていること気付かされ、彼らの楽曲の普遍性を感じさせられるきっかけとなった。刹那的な佇まいだった彼らに“普遍”という表現を使うのは間違っているのかもしれないが、時を経て彼らはじわじわと変化を遂げたのだと思う。登場時は楽曲のイメージも相まって、“孤高の若手”といった存在だった彼らだが、気付けば後輩バンドがたくさん生まれ、今ではシーンを牽引する側のバンドのひとつとなったのだから。そして、きっとこれからもこう在り続けるのだろう。そう思える2作品である。