L→R フミ(Ba&Vo&Synthesizer)、ハヤシ(Gu&Vo&Pro)、カヨ(Synthesizer&Vo&Vocoder)、ヤノ(Dr)

L→R フミ(Ba&Vo&Synthesizer)、ハヤシ(Gu&Vo&Pro)、カヨ(Synthesizer&Vo&Vocoder)、ヤノ(Dr)

【POLYSICS】アイデアを具現化した、
本当の意味でのニューウェイブ

国内外問わぬ活躍で、日本を代表するアーティストとなったPOLYSICSが、前作から約1年ぶりとなるニューアルバム『We ate the machine』を完成させた。まったく新しいロックスタイルを提示する今作に日本人の価値観が変わる!?
取材:フジジュン

POLYSICSの近況としては、2月からのUK&EUツアーを終え、現在は全国ツアー中。やっぱり日本に帰って来て少し落ち着いた気持ちはありますか?

ハヤシ
ありますね、家に帰るとやっぱり落ち着きますよ。
フミ
あとはやっぱり食べ物ですよね。
ハヤシ
そう。空港からの帰り道、絶対に一個目のサービスエリアに寄ってお茶を買うんですけど、ペットボトルのお茶が本当に美味しいんだよね。
フミ
そう、本当に染みるんですよ(笑)。
ハヤシ
150円でこんな美味しいお茶が飲めるのか!って。それだけで、帰ってきて良かった!って思いますよ。

海外に行くごとに言葉とかも上達してきていますか?

ハヤシ
英語はまったく喋れなくて、リハーサルのやり方も分からないくらいだったんですけど、やっぱり人とも喋りたいから、スパルタ教育って感じで少しずつ覚えて、最近はちょっと冗談も言えるくらいになってきましたよ。
フミ
ま、上手くはないですけど(笑)。
カヨ
話を理解できるようになっただけで、かなり楽です。
ハヤシ
ただ今回、EUをちゃんと回るのは初めてだったんですけど、もうね、イタリアとかフランスとか、言葉がまったく通じないんですよ! せっかく最近では日常会話くらいはできるようになったのに、“また言葉も伝わらない、あの感じからやり直しか!”と思ったらショックで(笑)。だって、“コーヒーください”が全然伝わらないんですよ! こっちが頑張ってるんだから、“理解する気になれよ!”って腹立ってきましたもん。
フミ
パリはまだいいんですけど、ちょっと田舎の方に行くと英語が全然ダメ! まったく通じない!!
ハヤシ
ライヴでも一応、挨拶くらいは現地の言葉で言おうと思ったら、それがまた難しくて! ひとつの言語だけならいいんですけど、フランス語とドイツ語とか複数の言語を使うような土地もあるから、“こんばんは、ポリシックスです!”を4パターン言わなきゃいけなかったりして。

あと、日本やアメリカとウケる楽曲も全然違ったりするみたいですね。

ハヤシ
そうそう。日本やアメリカだと、ドッシリしたビートとサウンドにキャッチーなメロディが乗って、“イエーーイ!”みたいな感じだったりするんですけど、ヨーロッパでは「I My Me Mine」とか、「Ah-Yeah!!」とか、ちょっとポストパンクノリのあるギクシャクしたディスコサウンドがすごい反応良かったりして。その辺は土地柄もあるのかなと思いますけど、ちょっとエッジの効いたサウンドの方が反応良いですね。

でも、そこでどちらにも振れる懐の深さがあるのがPOLYSICSだし、ハヤシさんが今作を紹介する時に“聴いた人の価値観を数センチだけずらしたい”と言ってましたけど、そこでど真ん中を提示してもやっぱり数センチだけズレているってところがPOLYSICSの強みだと思います。

ハヤシ
最近、その価値観がズレ始めてきている人が日本にも増えてきている気がして…。

あぁ、いい傾向ですね。

ハヤシ
そうそう。“オレが言うのも何だけど…あんたたち、大丈夫?”って人が増えている気がする(笑)。でもそれはすごく良いことだと思うし、そうなると“もっとズラしてぇな!”と思ってしまうんですよ。なんだかんだ言って、音楽を聴く時にメロディーやメッセージを大事にするけれど、ロックの楽しみ方ってそれだけじゃないと思うんですよね。ギターや歌一発で、“うわっ、ヤラレた!!”っていう、あの感じ。僕らはあの感じをこれまでもずっと大事にしていたし、“こんな音楽があるのか!”って興奮する感じを提示したいと思っているし。

そこでちょっと大げさな言い方ですけど、10年目を迎えて、活躍の場を世界へと広げて、そこで改めて気付いたPOLYSICSの使命というか、今やるべきことってところも今作ではバッチリ見えていたような気がするんですよね。

ハヤシ
そうですね。僕らの音楽は今まで、ニューウェイブというワードを用いて、“ロックよりさらにロックな音楽”、“誰も聴いたことのない新しい音楽”ってところで提示していたんだけど、それは結局、今まで自分が聴いてきたニューウェイブの現代的な解釈だったり、回答だったような気がして。今回のアルバムでは“自分たちでもやったことのない音楽、誰も聴いたことのない音楽を作ろう!”っていう思いが今まで以上にあったし、結果、ニューウェイブ以上にニューウェイブというか、ロックとして新しいものにもなった気はします。

そういう強い意識があったからというのも関係あるかもしれませんが、僕が最初に聴いた印象は、とにかく“熱いアルバムだな!”と思ったんです。衝動にあふれ、沸々と血の煮えたぎるロック感があって、体温を感じるというか。

ハヤシ
うん。やっぱりそこが一番大事にしたいところですしね。ロックをやっている以上は良質なポップスを作る気はさらさらないですから。聴いて何かを感じてもらいたいし。“We ate the machine”は“We are the machine”ではないので、僕たちが機械になっているわけではない。ちゃんと人間がビートを刻んで演奏して、その上での機械と融合することこそが必要だと思っているので。今回はその辺がちゃんと音にも表せたし、タイトルにも表せたと思いますね。

では、おひとりずつ、アルバムが完成しての率直な感想を聞かせていただけますか?

フミ
そうですね、私は以前より作曲に対して踏み込む部分がすごく多くなったので、そういう意味でも今作は自分の中で新しくPOLYSICSを見直すいい機会になりました。ハヤシとふたりで何もアイデアのないところから曲作りをして。最初、モードを掴むまではすごく大変だったんですけど、お互い考えていることや、何が流行っているかを聴きながら作り進めて…曲作りはスムーズだったよね?
ハヤシ
うん。中身が濃い曲が作れた気はしますね。今までは一曲作って“終わり!”だったけど、今回はそれを何度も練り直す作業をして。
フミ
“一曲に対する熱意をお互いがちゃんと持てているのか?”っていうのを共通意識として大事にしながらね。

しかし、この忙しい中、よくこれだけ熱心に丁寧な作業をやりましたよね。

ハヤシ
ホントにね(笑)。でも、ツアーの合間を縫ってちょいちょい曲作りを進めて、ツアー1本終えるとまた違ったアイデアだったり刺激を得て曲作りができるんですよ。その辺が如実に出るのもウチらっぽくて良かったんじゃないかな? 初期段階で作った曲が、アルバムの選曲をする時にはちょっと古いものになっていたりして。
フミ
そこでまたリメイクしたり、ボツにしたり(笑)。

お話を聞いていても、常に最前線の物を抽出して、持って来ようとしている感じがありますもんね。

ハヤシ
今回、僕の中ではかなり新しかったですよ。今、僕の中でインダストリアル・メタルブームが来ちゃっていて。あとね、ZZ TOPが流行っていて、どうしてもやりたいから、そんな要素も入れたりしてね、08年のこのご時勢に。

いいですねぇ(笑)。最前線かと思いきや、かなり後ろの方を振り向いてますけど。

ハヤシ
僕の中ではニューウェイブなんです(笑)。
カヨ
そういうハヤシくんのマイブームもあったりして、作る時には10年やっていても毎回新鮮な気持ちでできていて。10年とか経つと似たような感じになってくるバンドもいますけど、私たちはそういうのが全然ない。毎回1stみたいなイメージで作れている気がするんです。あとは前々作『Now is the time!』くらいからかな? ウチらで音を出せば、どんな曲でもPOLYSICSになるって意識が出てきたから、そこから曲のバリエーションもすごく広がったと思うし。

逆に言うと、それまでは自分たちらしさみたいなところを強く意識していた部分もあった?

ハヤシ
そうですね。らしさを追求してみたけれど、そこまで面白いものになっているのかって考えたり。だから、今はいい意味で無駄なこだわりの部分を取っ払えている気はしますね。例えば、「Pretty Good」のピアノとか、あのストレートさは昔の僕だったら考えられない! でも、今はあの感じが曲にマッチして、ライヴでも映えるアレンジになるならば、“全然演ろうよ!”って感じで。単純にそこも楽しめてますね。
フミ
最近はそういうのも関係ないっていうのがウチらっぽいと思えるようになって。面白いとか新鮮だとか、刺激的だとか思うものにバンバン手を伸ばしていくっていう楽しみ方もあるんだなっていうのは実感してますね。

ヤノさんは完成したアルバムについてどうですか?

ヤノ
前作の続きでありながら、より固まっていっているのは感じますね。前回はみんなでセッションしながら作ったりしたけど、今回はフミさんとハヤシさんが作った曲に自分のエッセンスを加えて具現化するっていうのが僕の役割で。それはそれで割り切ってできたし、個性や自分の中にある新しいものもちゃんと入れられたかなって思いますね。
ハヤシ
ドラムは今回、相当いろんなことやらされてるからね! 1曲目から4曲目くらいまでなんて、同じドラマーが叩いているとは思えない非人間的なドラムですから(笑)。でもそんな、僕がポッと浮かんだアイデアがすぐにパッできてしまうというところがすごいんですけどね。

今回、アルバムで鍵になった曲ってありました?

ハヤシ
1曲目「Moog is Love」じゃないですかね。自分たちの中でも新しい曲になっているし、それまでの自分たちのスタイルでもない、新しいPOLYSICSのアンセムになったと思います。もうね、僕ら150~200キャパの狭いところでライヴを観せるのはバッチリなんですよ。だから、それをさらに広げた時…例えばフェスとかどこまで伝わっているのかっていうのを最近は考えるようになっていて。一番後ろにいる人をどれだけ振り向かせることができるか? そういう意識で曲を作れたのが大きかったですね。それでいて今のロックスタイルにもない、感覚をズラせるような新しい切り口のロックナンバーを作りたい!って気持ちもあって。そこでこの曲ができたのはデカかったですね。事実、フランスでこの曲を演奏しちゃったんですけど、それがえらい盛り上がっちゃって。“この曲は何かあるぞ!?”って思わされました。

確かにこの曲で1曲目から異彩を放ってますからね。

ハヤシ
しかもやっぱり、こういうアイデアをすぐに具現化できてしまうことがすごいんですよね。これまでも“俺のあれやりたい、これやりたい”がポンポンできてきていたけれど、その究極系が4曲目の「機械食べちゃいました」だと思っていて。昔のニューウェイブって新しい音楽を作りたいってアイデアはあっても、そこにテクニックが追いつかなくて。そのチグハグなところからオリジナルみたいなものが生まれたりもしたんですけど、そこから誰も上手くなろうとしないから自滅したり、アイデアが出なくなって解散するバンドが多かった。でも、POLYSICSはアイデアもあって、それを具現化することもできてしまう。そこが過去のニューウェイブとの最大の違いだと思うんですよ。そういう意味でも、ニューウェイブよりさらに新しいもの、本当に新しいものができちゃうバンドなんだろうなっていうのは今回、改めて思いましたね。
『We ate the machine』2008年04月23日発売Ki/oon Records
    • 【初回生産限定盤(DVD付)】
    • KSCL 1240〜1 3360円
    • 【通常盤】
    • KSCL 1242 3059円
POLYSICS プロフィール

ポリシックス:1997年3月に結成。結成当初から揃いのバイザー、特異なライヴパフォーマンス、爆音ギターとシンセサイザーやボコーダーなど、コンピューターミュージックを融合させた稀有なサウンドで注目を集める。日本武道館単独公演や250本以上の海外ライヴなど、精力的に活動。結成20周年となる17年、10月に新メンバーのナカムラ リョウを迎え4人体制となり、11月にはニューアルバム『That's Fantastic!』をリリースする。POLYSICS オフィシャルHP

OKMusic編集部

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