「今日は過去最高のライブ」ACIDMAN
の2マンツアーセミファイナル、“特
別”なスカパラとの一夜



Yasei Collective 撮影=taku fujii



午後5時55分。未だ客入れ中のステージで、オープニングアクト・Yasei Collectiveが演奏を始める。機械仕掛けのように精密なファンク・ビート、ジャズのインプロヴィゼーションを思わせるエレクトリック・ピアノ、猛烈な重低音を発するシンセベース、ミニマル・ミュージックのようなギターのリフ。ジャズ、ロック、ファンク、ダンスを股にかけて涼しい顔で超絶技巧を繰り出す4人は、現代のプログレッシヴ・ロックバンドとして実に刺激的な音を出す。純粋な音の快楽と、「ナンダコリャ?」という驚きが交互に押し寄せる。ツイッターのフォローを促すお茶目なMCには、明るい笑いと拍手が起こる。ACIDMAN率いるFREE STARの期待のニューカマー、掴みはOKだ。

Yasei Collective 撮影=taku fujii



午後6時30分ちょうど。フロアを揺るがす大歓声に迎えられ、東京スカパラダイスオーケストラが姿を現した。惚れ惚れするダンディズムとワイルドネスを全身から発散し、最初の一音で場内の温度を急上昇させるライブ巧者ぶりは、野外フェスでもライブハウスでもまったく変わらない。「DOWN BEAT STOMP」「スキャラバン」と立て続けに代表曲をぶっ放し、谷中、GAMOU、大森がマイクを持ち煽りまくる。踊りまくるオーディエンスの中に、スカパラTシャツがたくさん見える。

「ACIDMANは、硬派、ストイック。スタイルを変えずにやり続けているのは、すごいこと。一緒にできて光栄です」
谷中のMCに、愛がある。一緒に酒を飲む時、いつも感動して大泣きしていたという、大木を語るエピソードに優しさがある。音楽の刺激だけではない、人間同士の交流が感動を生むことがよくわかる、美しいシーン。さらに「Routine Melodies」から「Pride of Lions」へ、90年代スカパンクを通ってきた者なら涙ぐみそうな名曲が続く。「水琴窟-suikinnkutsu-」では、キーボードの沖が神がかったかのような凄まじいソロを弾いた。さらに最新ヒット「道なき道、反骨の」から、ロシア民謡でお馴染み「ペドラーズ」を華々しくぶちあげて、きっかり40分でライブを終える。「このあとACIDMAN、思い切り楽しんで!」と谷中が手を振る。いついかなる場所でも、必ず期待に応えるプロフェッショナル。スカパラ、やっぱり凄いなと呟くしかない。

ACIDMAN 撮影=taku fujii



午後7時半、いよいよ主役の登場だ。いつものインスト「最後の国(introduction)」、いつもの手拍子、いつもの照明。いつも通り胸高鳴るオープニングの中に、いつも通りではない特別なエモーションを感じるのは、スカパラが高めてくれた熱量のせいに間違いない。「この素晴らしい瞬間を、1分1秒を、みんなで最高のものにするぞ!」。大木の言葉も興奮で上ずって聴こえる。1曲目はいきなり「world symphony」。爆風のように猛烈な音圧がステージから押し寄せる。続いて「アイソトープ」。フロアは一人残らず拳を掲げ、リフに合わせて声を嗄らす。「今、透明か」で静かにスタートした4か月前のライブとは、テンションの向きがまるで違う。

ACIDMAN 撮影=taku fujii



「やっぱり東京はいい。みんなのパワーを感じます」
Yasei Collectiveへ賛辞を送り、スカパラへ謝意を述べ、オーディエンスへ礼を告げる。すべての人に感謝を伝えること、それがきっとこの2マンツアーの核心だ。曲は「River」から「スロウレイン」、そして「銀河の街」へ。軽やかにダンサブル、華やかにメロウな曲調が続き、ヒートアップした場内の熱気が少し和らぐ頃、大作バラード「世界が終わる夜」が始まった。世界は終わる。人は死ぬ。だから命は素晴らしい。僕らはつながっている。大木の思想の中核を成す名曲に、立ち尽くして聴き入るオーディエンス。後光のような白い光がだんだんと強くなり、超新星の爆発を思わせるハレーションを引き起こす。ドラムとベースとギター、たった三つの楽器がフルオーケストラのように高らかに鳴り響く、3ピースの最高峰。こんな壮麗な音を出せるトリオは、世界中探してもたぶんいない。

ACIDMAN 撮影=taku fujii



ACIDMAN 撮影=taku fujii



「ずっと、理解してくれる人が少なくて、孤独を感じていました。でも、デビューして、みんなが聴いてくれることで、救われました」
穏やかな口調の中に、万感の思いを込めた大木のMC。宇宙はどうやって始まったのか、どうやって終わっていくのか。その中で生まれて死ぬ、僕たちの運命とは。それだけを歌っている音楽家人生だと、鮮やかに言い切る姿に、谷中の言った硬派、ストイックという言葉が重なる。「この二人(佐藤&浦山)は全然わかってくれないけどね」と、笑いを誘う言葉に朗らかなユーモアがにじむ。音楽家として、思想家として、今の大木伸夫は素晴らしく成熟している。

ACIDMAN 撮影=taku fujii



ACIDMAN 撮影=taku fujii



インスト曲「彩-SAI-(前編)」と「Slow View」は2曲続けて。何もないところから命の鼓動が始まっていく、ACIDMANのインストにはどれも力強い生命力が宿っている。続いてはお馴染み、一悟のくだけたMCタイム。いつものようにオチがなく、佐藤が茶々を入れ、大木が混ぜっ返す。大木はなぜだか、最近見たという映画『メッセージ』を熱烈に絶賛している。大木が言うなら見てみようかと、その気になる。言葉に説得力を持つ男は強い。

ACIDMAN 撮影=taku fujii



ACIDMAN 撮影=taku fujii



「最後の星」は、ビートの効いたミッドバラード。ルート音を弾くだけのプレーに、佐藤が魂を込めているのが伝わる。彼もまた、ストイックに成長を続けている。そして久々に聴いた気がする「アレグロ」。1曲の中にシンフォニーを詰め込んだかのような、なんと複雑な、なんとストレンジな、なんとエモーショナルな曲だろう。初めて聴いた15年前も、今も、感動は瑞々しいままだ。今日のクライマックスはここだな、と思った。が、まだその上があった。

ACIDMAN / 東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦、加藤隆志 撮影=taku fujii



1か月前の『ARABAKI ROCK FEST.』でも共演したという、スカパラの谷中、加藤を呼び込んでの「ある証明」。もともとエモーショナルな曲が二人のパワーを得て、大木の思いを乗せて、熱狂を通り越して異様な興奮へと至る。谷中のサックスが火を吹き、加藤のギターが叫ぶ。ここはスタジアムか? 鬼気迫る爆音祭り。こんなにエモい「ある証明」は聴いたことがない。二人が去った後の「飛光」でもテンションは持続し、大木と佐藤がステージ左右に飛び出してオーディエンスを煽る。いや、煽られている。嵐の海のように沸騰するフロアを見ているだけで胸高鳴る、ACIDMANのオーディエンスは本当に凄い。

ACIDMAN / 東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦、加藤隆志 撮影=taku fujii



「今日は過去最高のライブでしょう。みんなのおかげです。いいエネルギーをもらいました」(大木)

本編ラストは、「愛を両手に」。いつものように、大木が丁寧に曲の解説をする。この曲はただ聴くだけでは足りない、語られるべき曲だ。これからも世界が終わる曲を、人が死ぬ曲を書き続ける。生きていることは普通じゃないと歌い続ける。そうすれば、いとおしくなる、優しくなる。「一緒に歩いてきましょう」と大木は言った。最新曲になればなるほど、大木の思想は最も核心に近づいて行く。それはまるで、最新の宇宙望遠鏡が最古の昔を解き明かすように、ACIDMANの一番新しくて一番古い原点がここにある。

ACIDMAN 撮影=taku fujii



アンコール。Yasei Collective、東京スカパラダイスオーケストラ、そして満員のオーディエンスにあらためて深い感謝を告げ、最後を締めくくったのは「Your Song」だった。あなたの運命を讃えよう。あなたの戦いを受け入れよう。僕はここに立っている。まばゆく輝く光、はじけ飛ぶ爆音、圧倒的な肯定、圧倒的な演奏。ワンマンツアーではない、対バンとの対話があったからこそ到達した高み。多くの支えと交流を得て、ACIDMANはまた一つバンドのレベルを上げた。目指すは11月23日、さいたまスーパーアリーナ。『SAITAMA ROCK FESTIVAL“SAI”』では、この日以上の特別な光景が見たい。見せてほしい。見られるはずだ。

取材・文=宮本英夫 撮影=taku fujii

ACIDMAN 撮影=taku fujii



イベント情報ACIDMAN主催『SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』
2017/11/23(木・祝)
故郷・埼玉県、さいたまスーパーアリーナにACIDMAN主催『 SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』開催決定!
 
リリース情報ニューシングル「ミレニアム」
2017年7月26日発売
(価格)¥1,200+消費税
(品番)初回限定 紙ジャケット仕様 TYCT-39059
(収録内容)
M1.ミレニアム
M2. Seesaw
M3. 青の発明 -instrumental-
M4. Live Track From 20141023 Zepp Tokyo(『世界が終わる夜』リリース記念プレミアム・ ワンマンライヴ)
アイソトープ/赤橙/type-A

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