まるで汚泥に咲く一輪の蓮。a flood
of circleの『花』

「生きるために生きる」花の姿は、時々、人間よりもよっぽど逞しく見えることすらあるのだけれど。


a flood of circleは2006年結成の三人組ロックバンド。今年で結成十一年目になる彼らの楽曲は、ガレージロックの要素を多く取り入れたサウンドとボーカル佐々木亮介のハスキーで男臭いボーカルが特徴的だ。メンバーの病気や脱退、失踪など様々な試練を乗り越えながら今の姿にまで一歩一歩着実に成長してきた彼らのスタイルはあくまでスマートでドラマティック、洋楽ライクなロックンロールでありながら日本人らしい演歌のような情念や泥臭さすら感じる。

そんな彼らが一昨年リリースしたシングル、『花』。
BEGINORANGE RANGEなど多くのミュージシャンが同名の曲を作っているように、タイトルだけを見るとよく言えば「王道」、悪く言えば「ありきたり」な印象を受ける。儚くも美しいものの象徴「花」をモチーフとした楽曲である事がダイレクトにわかるタイトルだが、歌詞のワンフレーズ目を耳にした瞬間、そんな印象こそが花びらのように何処かへ飛んでいってしまう程の衝撃を受ける。



高音でキャッチーなギターにミスマッチな男臭いシンガロングが乗ったイントロ。その後に続く歌詞は、驚く程に悲しい。



どうだ、この、思想の根底に刷り込まれたような根深い絶望感で横っ面を叩かれるような言葉達は。途方も無く悲しかろう。
この曲の主人公は、儚く美しい花とは正反対の、人生に迷うひとりの男だ。

男は、「ただの死んだ木をかき鳴らし」「散った青春も飯の種にして」「大人の階段転げ落ちながら」生きてきたと言う。「死んだ木」を「かき鳴らす」と言うのは不思議な言い回しだが、かき鳴らすものと言えばギターだ。アコースティックギターやガットギターは一般的に木製が多いから、きっとこの「死んだ木」とはギターの事なのだろう。この事から、この主人公はミュージシャン、歌うたいである事がわかる。

そんな男が「散った青春」を「飯の種」にすると言うのは、自分の歌の中に己の青春を投影して歌ってきた、と言う事になろう。
と言う事は、おそらくこの男は、楽曲の作詞作曲歌唱全てを担う佐々木そのものなんじゃないだろうか。この曲の歌詞には、佐々木自身が胸に秘める孤独が、痛々しい程鮮やかに表れているのだ。

しかし、彼の噛みつくような荒々しい歌声には悲壮感は無く、逆に切実なまでの力強さを感じる。

たとえどんなに苦しく泥のような現実で生きていても、すぐにそこから飛び出せるわけではないのが私達人間だ。全てを放り出し、何処か遠くへ飛んでいってしまえれば良いけれど、鳥のような羽根も無い私達には難しい。人間は日本の脚で、自分が生きるべき世界にただただ立ち続けるしかない。
だったら、せめて蓮の花のように、泥の中でも綺麗な花を咲かせたほうが良いんじゃないか。



大サビを前にしたこのフレーズを、吠えるように語りかけるように、嘆きのように歌い続けてきた佐々木が急に声のトーンを落とし、柔らかく囁くようにして歌う。その優しげでありながら何処か投げやりな響きには、達観した包容力すら感じる。
彼はただ自分の置かれた環境や人生の中で育てられ、どうしたって癒えない程に根深くなった孤独感を嘆くだけではなかった。歌と言う武器を手に入れ、バンドと言う仲間を手に入れ、そこから希望を見出したのだろう。

たとえどんな汚泥の中に芽吹いたとしても、「泥水にまみれもがいてでも」「命掛けで生きていくだけ」。そんな強い意志を身に着けた彼にとっては、「ただの死んだ木」すらもこの途方も無く続く人生と言う泥沼のような海原を漕ぎ進めるためのオールとなる。



儚く見える一輪の花。しかし、たとえ世話をする人がいなくなろうと、人々に忘れ去られ枯れ果てようと、太陽と水さえあればまた咲く事が出来るかもしれない。その姿は誇らしく力強く、決して儚くなどない。この曲を聴いていると、自分も蓮の花のように、暗く深い泥の中でもしっかりと根を張って美しく生きてみたいと思わされる。

確固たる意志を胸に秘め、大輪の花を咲かせるように「世界は素晴らしい」と絶唱する佐々木の声は、切なくも誇らしい。


TEXT:五十嵐文章(@igaigausagi)

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