つんくが『のりものステーション』で
起こす“子ども向け音楽レボリューシ
ョン”



NHK・Eテレの『いないいないばあっ!』では、松田聖子の「青い珊瑚礁」をはじめとした80年代女性アイドル~近年ではハロー!プロジェクト関連のグループの作詞も手掛けている三浦徳子が作詞、つんくが作曲というタッグで生み出された楽曲が、たくさん流れているのだ。シャ乱Qでそのキャラクターも含めてブレイクし、モーニング娘。をメンバーと共に作り上げて一時代を築き、さらに次世代を担う子どもたちのハートも掴む……これだけ多才なアーティスト、他にいないじゃないか! 様々な顔を持つ彼だが、一言で言うならば、幅広い世代に親しまれる、今の時代に希少な“大衆音楽家”なのだと思う。

『いないいないばあっ!』に彼が提供した楽曲は、実に幅広い。ほのぼのしたバラード「カエデの木のうた」、爽やかなシンガロング・ナンバー「ソラハアオイヨ」、キュートなエレクトロ・ポップ「まる、まるっ」などなど……それらはどれも、クレジットを見て初めて「あ、つんく作曲なんだ!」とハッとさせられるような楽曲だった。つまり、ソングライターとして黒子に徹している印象だったのである。もちろん、解析していけば、彼の抒情的な歌謡性やヴィヴィッドなポップセンス、そして私生活で父である素顔が滲み出ているのだが、「子どもの歌の主役は、あくまで子ども」という、子ども向けの音楽ならではの優しさがこもった指向や、「『いないいないばあっ!』の歌は、ワンワンやゆきちゃんといった出演者のもの」という、前に出る時は出て、引くべき時には引く彼のプロフェッショナルな姿勢が感じられた。

そんな彼が、新しいフェーズに突入したことを感じさせる楽曲「のりものステーション」が、この4月から『いないいないばあっ!』で流れている。この楽曲、作曲だけではなく作詞も彼自身。さらに今までと違うところが、もう誰が聴いてもつんくの楽曲だとわかる、バリバリのつんく節なのだ。歌詞を変えたらモーニング娘。が歌えるのでは?と思ってしまうような、エッジィでダンサブルなビートと、ユーモラスな構成。セリフ混じりの楽し気な歌詞で、乗り物大好きな子どもたちが好きになれる歌ではあるのだが、その記名性の高さと攻撃的な曲調は、強烈な余韻を残す。

黒子に徹していた彼が、なぜ今、このような楽曲を発表したのだろうか? それはもちろん、彼自身に聞いてみなければわからないことだけれど、闘病を経て、自らがやるべきこと/やりたいことが、より明白になってきたからなのではないだろうか、と想像できる。さらに、これまでの『いないいないばあっ!』での作曲(と自身の子育て)を経て、子どもの感性を理解したから、そして子供の可能性を感じられるようになったからこそ、これだけアグレッシヴな球を投げたのかもしれない。

その反応は?というと、筆者の子どもは楽しそうに踊っていた。

子どもは正直だ。楽曲の背景や、生み出した人・歌っている人の名前も顔も関係ない、楽曲がよいと思えば踊るのだ。だから子ども向けの音楽を作ることは、本当に難しいと思う。難しいところに挑み続ける彼のファイティングスピリットが、「のりものステーション」には表れている。

これまで、J-POPに、アイドルに、新しい風を吹かせてきた彼。今度は、子ども向けの音楽にも、新しい風を吹かせる時が来たのかもしれない。自らの音楽を子どもたちに託し、未来を切り開く。それは“大衆音楽家”として、素晴らしく意義があること。これから、彼がどんな楽曲を生み続けるか、さらに注目していきたいと思う。

文=高橋美穂

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