新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女
』 木村優里&井澤駿、フレッシュな
美男美女が演じる夢世界



5月5日からの前半は世界の王子、ワディム・ムンタギロフをゲストに迎え、オーロラ姫の米沢唯とともに息の合った舞台を披露。カラボス役の本島美和をはじめ、踊りはもちろん演技のレベルも高いソリストたちや、このバレエ団の看板の一つである整然かつ抒情性豊かなコールド・バレエが場を盛り上げる。バレエ団の総力を結集しての華やかな夢世界が展開された。

そしては連休明けの週末5月12日(金)からはじまる公演後半12日には、前半でリラの精を演じた入団2年目の木村優里、同じく3年目の井澤駿というフレッシュなペアが主演として登場する。

木村はバレエ団の入団前に『くるみ割り人形』公演のルースカヤを踊り、テクニックと新人離れした舞台度胸で観客の度胆を抜いた。入団後は『くるみ割り人形』、『ドン・キホーテ』で主演、さらに最近では『ロメオとジュリエット』のロザライン、ガラでは『白鳥の湖』の黒鳥のパ・ド・ドゥを踊り、表現力や演技力にも輝きを見せはじめている。5月5日、6日の公演ではリラの精で登場。丁寧で表情豊かな踊りはもちろん、初役とは思えない貫禄で物語世界をけん引し、堅実な成長を客席に印象付けた。

井澤は2014年『眠れる森の美女』が新国立劇場でのデビュー作。4人の王子の1人で舞台映えする容姿を、青い鳥では堅実な技術を披露。以後同バレエ団の主演を誠実にこなしながら、主要男性ダンサーの一人として成長を続けている。今回の公演でも4人の王子の1人として出演。舞台前半の見せ場に大いに花を添えたほか、13日は青い鳥を踊る予定だ。

今回はこの2人が初めてペアを組む全幕舞台。そのリハーサルの様子と、インタビューをお届けしよう。

「眠れる森の美女」リハーサル 撮影:西原朋未

■物語の重要なポイントとなる「目覚めのパ・ド・ドゥ」

リハーサルで行われていたのは2幕の「オーロラ姫の幻影」と「目覚めのパ・ド・ドゥ」。「幻影」は王子がリラの精に導かれ深い森に入り幻影のオーロラ姫と出会い恋をするシーン。「目覚め」は王子のキスで目覚めたオーロラ姫と王子が互いに真実の愛を見出すという、2人の心情を描いた物語部分の核となるシーンだ。

まず「目覚め」の部分からピアノに合わせて通して踊る。木村の手足の長さ、顔の小ささ、身長のバランスなど容姿の素晴らしさに改めて感嘆。3年目を迎え王子の貫禄がさらに増してきた井澤もまた、美女映えする王子というのだろうか、リハーサルにもかかわらず2人が並ぶ姿は絵になり、衣装を着けるとさぞや華やかだろうという期待感が増す。

一通り踊り終えたそばから、指導をするバレエ団のプリンシパルでバレエマスター・菅野英男の細かい指示が飛ぶ。前回公演でも王子を踊った菅野の指示は的確で、一般人が聞いていても「そうか、なるほど」と思うわかりやすさ。互いの視線や腕の角度、足の位置、例えばアラベスクといったそのポーズに至るまでの身体の動き方などをチェックし、それにより「修正前」「修正後」の美しさや雰囲気が明らかに、素人目にも見て取れるほどまったく変わる。木村と井澤もその指示に対して素直に対応し、あるいは菅野の「なぜそうしたの?」という問いに対し自身で答えることで課題を明確にして、一つひとつを丁寧に確認していく。動きを身体に覚えこませていく作業に加え、菅野が「そこのシーン、気持ちは『ロメオとジュリエット』だから」と指示するように、姫として、王子として互いの気持ちを動きに乗せて表現する作業もあり、「踊りながら演じる」のは大変なことだと、改めて思い知る。2人が踊りに向き合う姿勢は真剣で丁寧。共に着々とステップアップをしているだけに、本番までにどのように仕上げてくるのか、実に楽しみだ。

2幕のパドドゥのリハーサル。指導はプリンシパル兼バレエマスターの菅野英男さん 撮影:西原朋未

■「おとぎ話」という夢の世界観を表現したい

リハーサルの合間を縫って、木村、井澤の両名に話を聞いた。

――お二人はガラで組んだことはありますが全幕、そして『眠れる森の美女』で主演を踊るのは初めてですね。

井澤 『眠れる森の美女』は僕にとっては入団してすぐに出演した思い出深い特別な作品です。当時ワディム・ムンタギロフさんのアンダースタディをやっていて、また「眠り」自体が新制作でしたから、作品をつくるところから参加させていただきました。

――そうでしたね。大抜擢での登場でしたが、当時はどのようなお気持ちだったんですか。

井澤 もう入りたてで青い鳥も踊ることになっていて、ビビりまくっていました。とにかくただ、周囲の方々には絶対迷惑をかけてはいけないと、その時の振り付けやリハーサルで言われたことなどはすべてノートにとっていました。今回は前回の経験も生かして踊りたいと思います。

木村 「眠り」は古典の型が詰まっていて体力的にも大変です。時代に基づいたスタイルを保ちながら自分なりの気品や風格を出せるよう、考えながらやっているところです。新国立劇場バレエ団研修所時代に英国ロイヤルバレエ団の『眠れる森の美女』を教わったのですが、決まり事が山ほどあって、授業の中で細かく習いました。今それがすごく役に立っています。

――研修所でそんな機会があったのですね。それはこのバレエ団の「眠り」にはすごく役立ちそうですね。役をつくっていくに当たって、お二人でどんな話をしているのでしょうか。

木村 井澤さんは初演時のことをよくご存知なので、イーグリングさんがおっしゃっていたことなどを教えてくれたりします。

井澤 話していると考え方は同じでも微妙にニュアンスが違うところなどもあるので、そうしたところを話し合って互いに寄り添いながらつくりあげるという感じです。そうすると違ったものが見えてきて、その作業がとても楽しいですね。

木村 フランスにシャルル・ペローがこの物語を書くきっかけとなった、『眠れる森の美女』の舞台となっているユッセ城があり、ネットでそのお城の写真を見るのが好きで(笑) お城には「オーロラの間」もあって、オーロラが目覚めた部屋なども再現されているんです。それを見ていると物語のイメージや雰囲気が想像できて。そんな話もしています。

――「目覚めのパ・ド・ドゥ」があることで、オーロラ姫と王子の気持ちが表現され後の3幕に繋がっていくという、「物語」の部分で重要な場面だと思いますが。

井澤 この部分は、イーグリングさんもかなり力をいれていたとか。振り付けも独特で難しいところも多く、見どころの一つだと思います。

木村 「目覚め」では幻想世界で会った王子と恋に落ち、パ・ド・ドゥが終わるときは2人に愛が芽生えている流れがある。その部分が見る方にもわかるように表現したいです。

――井澤さんは12日は王子、13日は青い鳥を踊りますね。

井澤 青い鳥は前回の課題を修正してもっと鳥らしく、しっかり踊りたいです。あと体力配分も。前は終わった後かなり足が痛くなってしまったので。

――当日に向けての抱負を。

井澤 王子役って難しいです。立ち居振る舞いひとつで存在感を出さないとならないし。一つひとつの仕草を大事にしながら僕らしい王子を踊りたいです。『眠れる森の美女』は誰もが知っているおとぎ話で、ハッピーエンドの王道ストーリー。子供達が憧れる作品です。その「おとぎ話」の世界を、夢を壊さずに忠実に再現したいです。

木村 体力的な部分も含め、物語として主人公の成長を伝えないとならない大変な役ですが、「おとぎ話」の世界観を大事にして、いただいた役それぞれに集中して、精一杯踊りたいと思います。新国立劇場バレエ団ならではの『眠れる森の美女』ですので、初めて見る方はもちろん、ほかのバージョンを見た方も楽しめると思います。ぜひおいでください。

『眠れる森の美女』2014年公演 撮影:鹿摩隆司

『眠れる森の美女』の舞台となったユッセ城の話を「いつか行きたい」と嬉しそうに語ってくれた木村。ダンサーとしての第一歩を踏み出した作品について、当時を思い出すようにしみじみと話す井澤。将来性あふれる2人が踊る公演日は5月12日(金)の18時半からだ。この日はリラの精役に独特な透明感とラインの美しさに定評のある細田千晶が登場。そしてカラボス役にはプリンシパルの米沢唯が初挑戦することも注目だ。3幕のディベルティスマンには宝石に奥田花純・飯野萌子・五月女遥に木下嘉人らが配されるなど、見応えあるダンサーが目白押し。コールド・バレエも回をこなして一層磨かれていることだろう。盤石のメンバーとともに、木村&井澤ペアならではの初々しくも華麗な物語世界が展開されるに違いない。

(文章中敬称略)

公演情報新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』
■会場:新国立劇場 オペラパレス (東京都)
■日時:
5月5日(金)・6日(土)・7日(日) 14:00~
5月12日(金) 18:30~
5月13日(日) 14:00~
■芸術監督:大原永子
■音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
■編曲:ギャヴィン・サザーランド
■振付:ウェイン・イーグリング(マリウス・プティパ原振付による)
■指揮:アレクセイ・バクラン
■管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

■キャスト:
5月5日(金)・6日(土):米沢唯(オーロラ姫)、ワディム・ムンタギロフ(デジレ王子)
5月7日(日):池田理沙子(オーロラ姫)、奥村康祐(デジレ王子)
5月12日(金):木村優里(オーロラ姫)、井澤駿(デジレ王子)
5月13日(土):小野絢子(オーロラ姫)、福岡雄大(デジレ王子)
新国立劇場バレエ団
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/sleeping/

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