5月7日@東京国際フォーラム ホールC

5月7日@東京国際フォーラム ホールC

吉澤嘉代子、ツアー東京公演で『架空
OL日記』主題歌披露

簡素なステージの中央には鏡台、上手隅に黒電話と下手隅にはラジカセ(!)が置いてあり、シンプルだがやる気が伝わるセットだ。

「地獄タクシー」のビッグバンドヴァージョンが鳴り響くと、当夜の主役・吉澤嘉代子とバックバンドの4人がぱらぱらと現れる。オープニングは予想どおり「ユートピア」。耳で聴き目で見る『屋根裏獣』ワールドの幕が開いた。

吉澤は色覚検査シートのようなカラフルな花柄のワンピース姿。パープルのペチコートのような裾とソックスにストラップシューズの足元がいかしている。ラメのアイシャドウで遠いお客さんにも表情がバッチリ届く。最新作『屋根裏獣』の収録曲はもちろん、その世界観にハマる過去の曲を巧みに持ってきて、元の意味合いをずらし、新鮮に響かせる。彼女のツアーではおなじみの、カエターノ・ヴェローゾやクレイジーケンバンドを連想させる手法だ。

通常のコンサートとは異なり、MCは生トーク皆無。すべて事前にレコーディングしたものを流し、吉澤は当て振りをする。「地獄タクシー」(と「麻婆」「ぶらんこ乗り」も)の主役の主婦を演じる姿は、いわゆるシアトリカルなコンサートのレベルは軽く超えており、「小芝居」(本人の弁)どころか立派な歌芝居である。

ラップ(フリースタイル?)でバンドのメンバーを紹介したり、電話の向こうの姑(吉澤二役)や夫の声とコミカルなやりとりをしたりと、ユーモアも交えながら物語は進む。途中、チャイニーズな柄の黄色基調のドレスへのお色直しを経て、「地獄タクシー」から「ぶらんこ乗り」への流れで、夫を愛しすぎた妻のトラジコメディはクライマックスを迎える。黒電話とラジカセも大活躍だ。思いのこもった「一角獣」の熱唱は、この曲が新たな嘉代子スタンダードとなることを予感させた。

アンコールの拍手に応えて再登場。今度はMCも生で「楽しかったです。あ、前回も楽しかったんですけど」と照れ笑い。「しゃべるのが苦手」と本人は言うが、みうらじゅん先生のように「そこがいいんじゃない!」と言いたい。明らかに流暢じゃないし、誰が見ても不器用だけれど、その話し方に表れた彼女の正直な人間味(隠そうとしても出てしまうそれ)に癒され、救われ、共感する人は、彼女の想像以上にたくさんいると思う。

アンコールでは5月24日にリリースされる初めてのシングル「月曜日戦争」とそのカップリング曲「フレフレフラレ」を披露したのだが、両曲ともに素晴らしかった。特に客席を練り歩きながら歌った「フレフレ~」は歌い出しの言葉選びとサビの遊びが絶品。高校時代に作ったそうだが、若書きとか、いかにも高校生とか、筆が滑った感じがどこにもない。キャリア20年のプロが書いた歌だと言われても信じそうなくらい、表現がスキルフルで普遍的。終演後に立ち話をしたギターのKASHIFも言っていたが、きっと40歳になっても17歳のときと変わらないと思う。

レコーディングで精神が参ってしまい、一度は「(ツアーは)できませんって言おうと思っていた」というところまで追い詰められていた……という話を前に聞いていたせいか、彼女の溌剌とした姿、精気を感じさせる表情は感動的だった。残る3公演にも期待できそう。というかもう一度見たくなって、ファイナルの名古屋のスケジュールを確認しながら帰途についた(笑)。

Text by 高岡洋詞
Photo by 田中一人

アルバム『屋根裏獣』

発売中
【初回限定盤】(CD+DVD)
CRCP-40497/¥3,241+税
【通常盤】(CD)
CRCP-40498/¥2,778+税
<収録曲>
■CD
01.ユートピア
02.人魚
03.カフェテリア
04.ねえ中学生
05.屋根裏
06.えらばれし子供たちの密話
07.地獄タクシー
08.麻婆
09.ぶらんこ乗り
10.一角獣
■DVD
1. 地獄タクシー(MUSIC VIDEO)
2. アボカド feat.伊澤一葉(live at 東京キネマ倶楽部 2016.10.16)
3. 東京絶景 feat.曽我部恵一(live at 東京キネマ倶楽部 2016.10.16)

シングル「月曜日戦争」

2017年5月24日発売
【初回限定盤】(CDS+カセットテープ)
CRCP-10371/¥1,852+税 
【通常盤】(CDS)
CRCP-10372/¥1,111+税
<収録曲>
■CD
1.月曜日戦争
2.フレフレフラレ
3.月曜日戦争(instrumental)
■カセットテープ
1面
1.月曜日戦争
2.フレフレフラレ
2面
1.月曜日戦争 (instrumental)
2.フレフレフラレ (instrumental)
5月7日@東京国際フォーラム ホールC
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