ロックは総合芸術、GLIM SPANKY 過
去を取り込み掴んだ今の表現

映画や文学、ファッションを含めて総合的にロックを表現するGLIM SPANKY

 松尾レミ(Vo&Gt)と亀本寛貴(Gt)によるロックユニット、GLIM SPANKY(グリムスパンキー)が4月12日に、3rdミニアルバム『I STAND ALONE』をリリースした。これまでの作品は70年代を中心に、古き良きロックの質感を大切にしてきたが、今作はそのベクトルをさらに深化させるものになった。「カルチャーとロックの融合」をテーマに、ロックを、楽曲だけでなく、映画や文学、ファッションを含めて総合的に表現していくことを主眼に置く彼ら。敬愛する60年代・70年代ロックをどう現代ロックとして作品やライブ、ビジュアルで表しているのか。その想いを、結成経緯を含めて2人に話を聞いた。

根源的な制作意欲は「何かを表現したい」というのが全て

GLIM SPANKY「I STAND ALONE」

――バンド結成の経緯は?

松尾レミ GLIM SPANKYは高校1年生の時からやっているので、今年で10年になります。2人とも長野県出身で高校の時に出来たバンドです。私の1つ上が亀本で、元々先輩後輩。ロックが大好きで、「60年代から70年代のロックを基本にして現代の表現にする」という感じでやっています。

 「カルチャーとロックの融合」という事も大事にしています。ロックというのは音楽だけで生まれないと思っていて。ファッションも映画も文学もそう。そういう物を含めてこのバンドは出来ているんです。

亀本寛貴 僕は、ファッションなどはお任せですけど(笑)。

松尾レミ 彼はサウンドで、私は文化が好きなんです。なので「こういう服を着ろ」とか「ジャケットはこんな感じにする」とかは私がやっていて。バンドのデザインをやるために、日本大学の芸術学部デザイン学科に入学しました。今アートワークは私が好きなデザイナーさんにお願いをして、ミーティングをしながら作ってもらっています。グッズやイラスト連載とかは自分でやっていて、バランスをとってますね。

――どうして「ロックは音楽だけじゃない」と思った?

松尾レミ 60、70年代の数々のロックスターは、皆そういう風にやってきていると思うので。例えばザ・ビートルズだったら、アート集団(オランダのザ・フール)がいました。『イエローサブマリン』を全部描いて、衣装も全部やって。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドはアンディ・ウォーホルがいて、皆、アートスクール出身。デヴィッド・ボウイもローリング・ストーンズもそう。

 私の好きなミュージシャン達は、歌詞が詩的な文学からインスピレーションを受けていて、そういうのを新しく表現していたからロックになったと思うんです。だからロックらしい形はカルチャーと融合しているものだと自然と考えてやってきました。今は幻想的な歌詞を書く時は稲垣足穂、澁澤龍彦、金子光晴など、日本の幻想文学的な詩人たちからの影響があります。

 「いざメキシコへ」は、アレン・ギンズバーグの詩から着想しました。芸術作品だったら、ポール・デルヴォーやマックス・エルンストなどのシュールレアリズム画家からも影響を受けています。

 デザインでいうと、ドイツのバウハウスというデザイン学校が大好きで。日本大学の芸術学部はその流れを汲んでいるんですけど、そこで学んだものを自分のデザインに当てはめたりもします。

松尾レミ

松尾レミ

――そういう意味ではバンド自体がバウハウス的なプロジェクトなのかもしれません。これらについて亀本さんはどう考えますか?

亀本寛貴 僕は特にそういうのはないです。ただ、音楽を聴いて「これは格好良いな」というのはインスピレーションを受けて作るので。だからアートワークやファッションも「ジョージ・ハリスンやジミー・ペイジが着ていて格好良い」という感じ。

 あとは「○○のジャケットが好きだから、こういうフォントが好き」とかそのレベルなんです。だから音楽ありきで、ファッションだったり、アートだったりは深くは僕自身、わからないです。でもレミさんがわかってくれているので、イメージは共有しやすいです。

松尾レミ 好きなロックスターが共通していますからね。例えば「ザ・ビートルズのジョージが着てた、これが着たい」と言っても、ジョージが着ていたファッションの意味は私が知っているから大丈夫なんです。そこは信頼してもらっているので、「じゃあ、こういう服はどう?」と提案が出来るんです。役割がはっきりしています。

 高校時代からレコードジャケットの話をしていて。私の実家にレコードや本がいっぱいあったので。家で一緒にボブ・ディランの色んなジャケットを見て「70年代はこういう書体を使っていたけど、80年代になるとこういう感じになるんだ」みたいな話をしたりしてました。学ぶというよりも、好きで感覚的に話し合っていたから、今は阿吽(あうん)の呼吸で出来るんだろうなと思います。

亀本寛貴 ジャケットはレコード屋さんで見ていると気になります。音を聴かなくても、見ればわかるじゃないですか。「(このジャケットワークなら)これ絶対プログレじゃん」と(笑)。普通に「これ60sっぽいな」「ロックっぽいな」というのがわかる。ジャケットは、音を表現しているんです。

――70年代と現代を比べて思う事は?

松尾レミ 私は60sの音楽が好きなんですけど。何で魅力を感じるのかと考えると、やっぱりロックがロックとしてまだ世に浸透し切ってないというか、実験的なサウンドを皆がしていたからなんです。それにワクワクする。今はロックというものが、色んなジャンルに分けられてしっかり土台があった上での表現になっているので。

 でも60年代は、まだ土台がどれかも決まっていない時代。その中で表現するサイケデリックだったりとか、ノイズっぽかったりする変化がもの凄い面白い。「次に何が生まれるんだろう?」という答えの無い表現をしている、そんなロックのワクワク感は今とは全然違うんじゃないですかね。地の底から宝を見つけた様な、ワクワクがいっぱいあったんだろうなと。

亀本寛貴 そういう新しく出て来た軽音楽に対して、当時は否定的な人も沢山いたんじゃないですか? だから挑戦者だったんだと思うんです。僕は60年代が特別に好きではないんですけど。出来上がってきた初期の頃は皆が挑戦的だったと思うし、常識的にはNGとされていることをしなきゃいけなかったと思うんで、そこは凄いなと。いつの時代も一緒だと思いますけど。

――だとすると、フォーマットとして定着したロックに今取り組むのはなぜでしょうか?

松尾レミ 私は絵が好きだったので、油絵か、アクリル絵で生きていきたいなとは思っていたんです。でも中学2年生の時に、たまたま音楽に出会ってしまって。絵具と筆で自己表現していた当時の私がたまたまギターに出会って、筆がギターになった感覚なんです。

 だからロックや音楽にこだわっているというより「何かクリエイティブな事をしたい」という感覚のもと、今たまたまギターを持っているというだけで、特にロックに固執するような感情はないんです。

 もしかしたら小説だったかもしれないですし、それは運命だと思います。だから私の根源的な制作意欲は「何かを表現したい」というのが全てなのかもしれません。

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