奈落からの生還、LAMP IN TERREN 辿
り着いたのは幻想世界

一ミュージシャンのきっかけを掴んだという「fantasia」をリリースしたLAMP IN TERREN

 4人組ロックバンドのLAMP IN TERRENが4月12日に、通算3枚目となるアルバム『fantasia』をリリース。前作『LIFE PROBE』から1年9カ月ぶりとなる今作は、作詞・作曲を手掛ける松本大(Vo.Gt)が「奈落の底に落ちたくらいの感覚」という状況下で制作。松本は「このアルバムで僕は1回死にましたから」とも語っている。なぜその心境に陥ったのか。昨年1年間を振り返りながら、自身の心境変化、そして、それがどのように楽曲制作に影響を与えたのか、話を聞いた。

自分の事をちゃんと知るまでは死ねない

松本大(撮影=(C)山川哲矢)

――昨年は『“GREEN CARAVAN TOUR”』や『TOUR“11” L.A.P』と様々なライブをおこなってきましたが総括するといかがでしたか?

中原健仁 とにかく一貫して、ライブに来てくれている人に楽しんでもらいたいという気持ちが強かったです。お客さんやメンバー、スタッフ、『“11” L.A.P』では対バン相手と一緒に、特別な日にしたいと思っていました。ステージから見ていると色んな表情の人がいるんです。楽しそうだったり、どこか悲しそうだったり。だから僕はライブを通して、「楽しいな!」と共感したり、「しんどいなら一緒に闘おうぜ」と励ましたりすることで、一人ひとりと一緒に“特別”を作れるんじゃないかなと思いました。

 会場ごとに来る人は絶対に違うし、雰囲気も違う。ツアーという非日常の中で、その時にしか得られない感情があるからこそ、会場全体で楽しめるんじゃないかなと。こういう考え方は僕にすごく合っていて、今ではブレない“芯”になっている気がします。僕にとっても、やっぱり特別なツアーになりました。

松本大 総括すると僕は気持ちが沈んでいました。自分がやってきている事に対して、想像に状況が追い付いていないと思ったんです。2016年を通してしんどかったですね。闇に落ちていました。

大屋真太郎 周りから見ていても大変だと思ったんですけど、適度に休んでとしか言えなかったし、どうフォローをしたら良いかと悩んだ1年でもありました。

――それでも楽曲は松本さんから発信していかないと、という思いも?

松本大 僕からしたらそんな事は思われたくないんですけどね。心配されたくないし、強い姿であり続けたいと思っていたんです。でも去年はそうはいかず、自分が思っている方向と真逆に事が進んでいる感じでした。思い返したら今は面白いですけど。

――川口さんは去年を振り返ってどうでしたか?

川口大喜 みんな必死でしたね。今作収録の「at (liberty)」に関しては『GREEN CARAVAN TOUR』中に出来た曲なんです。

松本大 ワンマンツアーが終わった直後に長崎に滞在する期間があって、その時に制作期間を設けました。そこでアレンジは完全に仕上がりました。

川口大喜 ツアー『TOUR“11” L.A.P』が直ぐだったので、その途中からライブでやりだすようになって。アルバムに入っている曲とはアレンジは変わっていますが、めちゃくちゃカッコ良い曲が出来ました。

――今作で1、2位を争う完成度だと思いました。『TOUR“11” L.A.P』のファイナルとなった赤坂BLITZでは凄く気合いが入っていましたね。改めて振り返ってどうですか?

中原健仁 自分たちが打ち出すライブの中では過去最大規模だったので、めちゃくちゃ緊張していました。だけど、音が会場に広がっていく感覚、ちゃんと届いているという感覚がすごく楽しくて、嬉しかった。色んなバンドとツーマンしていく中で吸収出来た部分があったからこそ、届けられたところもあるのかなとも思います。

大屋真太郎 このバンドとは、照明と雰囲気が合うなと思いました。大きい会場になると僕らの見せたい風景が表現しやすいのかなと。自分達のワンマンのパッケージとしての完成度は高かったと思います。

――課題も出てきましたか?

大屋真太郎 ステージが大きくなるにつれてパフォーマンス出来る幅が広がるので、そこですね。

川口大喜 「不死身と七不思議」の時は(松本)大がハンドマイクだったりと、新たな挑戦がありましたし、色んな可能性があると思ったので、挑戦していく事は大事だなと思いました。

――「ギター置いて歌うんだ」という違和感も最初は少しありました。これは誰のアイディア?

松本大 曲が出来た時に「これはギターを持ってやる曲じゃないな」と思ったんです。ギターを置きたくないなと思いつつ(笑)。

――ギターボーカルのスタイルに名残惜しさも?

松本大 ギターを持っているのが当たり前で、歌よりもギターの方が好きで基本的に弾きたいんですよ。でも曲がそうじゃなかったという感じです。

――「不死身と七不思議」のタイトルにはどういった意図が?

松本大 自分の事をちゃんと知るまでは「死ねない」と思いまして。そういったシンプルなところからです。自分に対して知らない事が多過ぎるし、納得出来ない事も多過ぎる。世の中に対してもそうです。七不思議は、七つ不思議があれば何でも良いらしいんです。それを全部散りばめて曲にしたら面白いんじゃないかなと。僕の中では“オモシロ路線”として書きました。

――コミカル路線だった?

松本大 そうなんです。けど、最終的には「物語っぽくなってないか?」と。勝手にペンが進んで、僕じゃないものが動いている感覚がありました。物語を書いているような感覚で、タイトルが先にありましたが、僕が書いたという記憶はあまりないです。

大屋真太郎 歌詞の全体的な中のキーワードを並べたというイメージがあるから、合っていると思う。“不死身”と同格というか、この曲に関しての歌詞のまとまり方の完成度が高いと思います。

――赤坂BLITZで披露していた「時の旅人」という曲が今作に収録されていませんね。

松本大 その曲を今作に入れても、アルバムとしてのまとまりがなさそうだったので。「これは次だな」と。シングルのカップリングなど、どこかでいきなり収録するかもしれません。

このアルバムで1回死にましたから

大屋真太郎(撮影=(C)山川哲矢)

――今作のタイトルである『fantasia』というテーマにどう行き着いた?

松本大 デモ段階で「heartbeat」が出来た4月か5月の頃には『fantasia』というタイトルがありました。デモ音源のタイトルをフォルダ分けしている時、そのフォルダ名が『fantasia』でした。パッと浮かんだ言葉で、調べたら“幻想曲”という意味で。

 僕の中では「国」のような感じです。前作『LIFE PROBE』は「ワンダーランド」という曲で終わりますが、その感覚がずっと残っていて、「そもそもこの現実こそが不思議な世界である」「行き着いた国」みたいな感覚で、『fantasia』が「国」のようなイメージがありまして。

 言ってしまえば、空想や不思議な世界に音楽で飛び込んで行く事って“幻想曲”だなと思って、それで意味が繋がるなと思ったんです。日常にあるものや喧噪が、音楽を聴くだけで様変わりして聴こえたらいいなと。それが“fantasia”じゃないかなと思いました。

――アルバム1作目から今作の3作目まで繋がっているような印象もあります。

松本大 前作『LIFE PROBE』の時も同じような話をしたんです。今回もそれを人に言われるという事もあって、凄く分かるんですよね。

――じゃあ次回作でも言っている可能性も?

松本大 次では、それはないですね。僕はこのアルバムで1回死にましたから。

――それほどですか。メンバーもその感覚を共有している?

中原健仁 僕自身、そういう機微を感じ取るのが苦手で、なかなか気づけませんでした。たまに「元気ないなあ」とか、ちょっと「機嫌悪そうだなあ」とか思っていたりはしたのですが、元気な時もよくあったので、そこまでの状況だとは考えてなかったです。最近になってそんな状況だったことを知って、こういう鈍感なとこを反省しました。

松本大 個人的には奈落の底に落ちたくらいの感覚はあるんですけど、それとは逆にバンドのサウンドはどんどん良くなっている感覚があります。

――バンドの調子の良さは、松本さんとは反比例しているんですね。

松本大 僕はこのアルバムで初めて、自分が「一ミュージシャン」であるというきっかけを掴んだと思っています。多分もう同じような事はしないと思うし、ここから先は新しいものをミュージシャンとしてはやりたいし、面白く良いものでありたいと思っています。

 初めて、次に行く方向だったり、1曲に対する温度感みたいなものが自分の中でずれなくなりました。それが今凄く面白いんです。このアルバムを作り終えてからの方が僕は気が楽です。それで自分の中でプレッシャーなんですよね。今まではどちらかと言ったら、「辻褄(つじつま)を合わせなければいけない」という事が少なからずありました。

――「辻妻」とは?

松本大 自分が今まで進んできた道はここだから、この道の上で進化した自分をみせなければいけないという気持ちがどこかしらにありました。でもそれって意味無いんですよね。未来を予測しながら移動して行くのって、凄くつまらないとこのアルバムを作っていて思いました。

 たとえ矛盾が生じたとしても、新しいもので「良い」と思わせなければ駄目なんだという事が、このアルバムの制作に関しての1年9カ月で学んだ事です。このアルバムを作る時は、自分の中の貯金を削っていく感覚が一番近いものでした。「新しいものを取り入れる」というか「自分がもともとやりたかった事を全部やってみた」という感覚です。

 だから、このアルバムの作業中に自分がどんどん進化していく感じでしたね。アレンジをしていく中で自分が新しくやっていきたい事を発見する事が多かったんです。

――「奈落の底に落ちた」と表現されていましたが、その割には明るめの曲や様々な振り幅のアプローチを見せていますね。

松本大 曲は明るくてもけっこう暗い事を歌っていたりしています。もう一つの自分のテーマに「エモーショナル過ぎたくない」というのがあって。歌詞が伝わらなかったとしても、聴くだけで楽しくなる曲を書きたかった。ライブのMCでも僕はずっと「日々の悲しみや憂鬱みたいなものが洗い流されていく感覚も楽しいという事で良いんじゃないか」という話をしてきました。一緒に笑顔で歌いたかったりと、色んな気持ちを共有したいなと思うようになりました。その気持ちが具現化されたんでしょうね。

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