人間椅子「もっとでかいところで」“
威風堂々”のステージ ツアー終幕

ライブバンドとしての底力を存分に見せた人間椅子(撮影=堀田芳香)

 3ピースロックバンドの人間椅子が3月25日に、東京・赤坂BLITZでライブ盤『威風堂々~人間椅子ライブ!!』リリース記念ワンマンツアー『威風堂々』のファイナル公演をおこなった。ツアーは、2月24日の栃木 ・HEAVEN’S ROCK UTSUNOMIYAを皮切りに、14公演をおこなうというもの。最終日となったこの日は「鉄格子黙示録」や「わたしのややこ」など、初期のナンバーを織り交ぜたセットリストで、ダブルアンコール含め全18曲を熱演。ライブバンドとしての底力を魅せつけ、観客を熱狂させた。MCではニューアルバムの制作に突入することも発表し、和嶋慎治は「恐ろしいアルバムを作ります」と語って会場を沸かせた。

僕らのルーツはやっぱり高円寺

和嶋慎治(撮影=堀田芳香)

 開演30分前、クラシックロックのBGMが流れる中、会場はすでに多くの観客で埋め尽くされていた。ステージ上はギター、ベースアンプのレッドランプが不気味に光り、静かにライブへの期待感を高めていく。

 定刻になり会場は暗転。オープニングSEの「此岸御詠歌」が流れるなか、和嶋慎治(Vo.Gt)、鈴木研一(Vo.Ba)、ナカジマノブ(Vo.Dr)の3人がステージに登場。観客の手拍子が響くなかスタンバイ。緑色の照明が鈴木を照らし、歪んだヘビーラウドなベースのイントロが高揚感を煽る「鉄格子黙示録」でツアーファイナルの幕は開けた。そして、「陰獣」へと繋ぐ。人間椅子を語る上で、重要なナンバーでのスタートは観客を興奮の坩堝(るつぼ)へいざなう。緩急をつけた「陰獣」、間奏での鈴木のダウンピッキングがアグレシッブさを更に際出たせた。

 訪れた観客への感謝を告げるMCを挟み、人間椅子らしい他とは一線を画すリフが心地よい「九相図のスキャット」、聴くものの狂気を覚醒させる「狂気山脈」と、序盤から人間椅子の持つコアな世界観を見せつけていく。「狂気山脈」でのブルージーな、5分弱にも及ぶロングギターソロもエモーショナルに奏でていく。様々なフレーズを生み出す和嶋の手に観客の視線が集中する。

 MCでは「ファイナルということで、いつもより多くソロを弾かせていただきました。1.5倍です!」と和嶋。鈴木は「ツアー最後の日にこのソロは長いね~後で映像見て(小節)数えてみる」と話すと、和嶋は「意外と37小節とか奇数だったりするんだよね」とエンディングのギターソロの話題で盛り上がった。

 音源未収録の「わたしのややこ」と、初期のナンバーも出し惜しみなく披露。そして、和嶋のスペーシーなテルミンの演奏がアクセントを加える「宇宙遊泳」へ。間奏のテルミンソロでは、ステージを移動しながらパフォーマンス。メロイックサインやハート型など手の形を変え、観客を煽りながら奏でていく。続いて、不気味に奏でられるベースフレーズが響き渡る。プログレッシブな「宇宙からの色」とロックサウンドの美味しいところを詰めこんだナンバーで魅了。

テルミンを奏でる和嶋(撮影=堀田芳香)

 ここでツアーを振り返る。和嶋は「全国各地、特色はありますね。高松は第二のふるさと、名古屋は心のふるさとだなとか。ふるさとばっかりですけど(笑)。でも僕らのルーツはやっぱり高円寺だと思うんですよね。ここには夢と希望と挫折と青春が詰まってるんです」と、住んでいた高円寺への愛郷の想いを明かしてから、「1回離れた時期があったけど、再び高円寺に戻ってきた時にロックな街だなあと思った」とし、その想いのもとで制作したという「見知らぬ世界」を届けた。

 昨年リリースしたアルバム『怪談 そして死とエロス』から披露した「黄泉がえりの街」では、迫力のある鈴木の歌、間奏でのナカジマの破壊力抜群な弾丸のようなツーバスサウンド、めまぐるしく変わる展開が感情を揺さぶる。熱量の高いサウンドで会場のテンションを高めていく。

 MCでは、鈴木が普通自動二輪の免許を取得した話に。「一本橋が苦手でね。1回目の試験本番は逆走して一発アウトです。51歳で試験に落ちるとちょっと辛いんだよね…」と苦い経験を語った。そんな試験の気持ちとリンクした「心臓がバクバクして平常心を失う感じ」でもあるという「心の火事」を披露。真っ赤に染まるステージは、まさにメラメラと燃える雰囲気を醸し出す。 イントロで和嶋の指弾きによるギターアルペジオが一気に世界観を変えた「深淵」。その怪しげな匂いを醸し出すアルペジオから、ギターのボリュームを上げフィードバックさせる和嶋の姿は、これから刀を抜こうとする武士のようにも見えた。

恐ろしいアルバムを作ります

鈴木研一(撮影=堀田芳香)

 ここで、お色直しのため鈴木が一旦ステージを後にした。その間、ツアーで結成したという和嶋とナカジマで“シマシマブラザーズ”と名付けたコンビでMCを展開。“歌って踊れる”ということを目指していくという“シマシマブラザーズ”。ナカジマの叩き出す軽快なリズムに乗って和嶋がムーンウォークを披露するも、「やってみたんですけど、重力に引っ張られる感じで(苦笑)」と語り、会場を和ませる。

 ライブは終盤戦へ突入。「最高だぜお客ちゃ~ん」と“アニキ"ことナカジマが叫び、ナカジマがメインボーカルを取る「ロックンロール特急」。和嶋、鈴木ともまた違う、突き抜けるような歌声は、さらなる活力を生み出す。更に「恐怖!!ふじつぼ人間」、「雪女」と攻撃力抜群のナンバーで畳み掛け、ボルテージが最高潮に達したところでダメ押しのキラーチューン「針の山」。観客の掲げた拳は、針のようにステージに向かい突き出された。圧巻のサウンドとパフォーマンスで本編を終了した。

 アンコールに応え再びメンバーがステージへ。和嶋はTシャツにモンペ、鈴木は白装束、ナカジマもTシャツに着替え、和嶋が「この言葉を伝えるためにツアーをおこなってきました~!」と「猟奇が街にやって来る」を披露。そして、もう一曲、ヘヴィなサウンドにロングディレイが絡み合う「地獄」と混沌とした世界観を叩きつけ、ステージを去った。鳴り止まないコールにダブルアンコールに応え3人がステージに舞い戻ってきた。このツアーが終了したらニューアルバムの制作に突入することを発表。和嶋は「恐ろしいアルバムを作ります」と宣言。ラストは「なまはげ」。鈴木の断末魔の叫びのような歌声、ザクサクと体を切り刻まれるようなソリッドなギターバッキング、体にズシッと残るラウドなドラムを観客に浴びせ、『威風堂々』のツアーファイナルの幕は閉じた。

ナカジマノブ(撮影=堀田芳香)

 ナカジマは「もっとでかいところでやるぜ!!」と次のライブへの意気込みを宣言。まさに『威風堂々』と言えるサウンドとパフォーマンスであった。そう遠くない未来にリリースされるニューアルバムと、デビュー30周年へ向かい、休むことなく走り続ける人間椅子のこれからの活動に期待したい。

(取材=村上順一)

セットリスト

人間椅子 ライブ盤リリース記念ワンマンツアー『威風堂々』

3月25日 東京・赤坂BLITZ

OPSE:此岸御詠歌

01.鉄格子黙示録
02.陰獣
03.九相図のスキャット
04.狂気山脈
05.わたしのややこ
06.宇宙遊泳
07.宇宙からの色
08.見知らぬ世界
09.黄泉がえりの街
10.心の火事
11.深淵
12.ロックンロール特急
13.恐怖!!ふじつぼ人間
14.雪女
15.針の山

ENCORE

16.猟奇が街にやって来る
17.地獄

ENCORE2

18.なまはげ

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