『オワリカラ・タカハシヒョウリのサ
ブカル風来坊!!』 マジック:ザ・
ギャザリング 八十岡翔太に訊く“プ
ロプレイヤー”の世界



――あれは20年近く前のことだ。中学生だった僕は、同じ学校の1学年上の先輩と下校していた。家の前に差し掛かった時、その先輩が「面白いもの見せてやるよ」と言って何かのケースを取り出した。「マジック:ザ・ギャザリングっていうカードゲームなんだ」と言ってそのケースから見せられたカードは、1枚1枚が外国の絵画のようなイラストで美しかった。先輩は、簡単にルールを説明してくれたと思う。1枚のカードを取り出して「沼の数だけ強くなる凄いカード」と紹介した。今になって思うと、あれは「黒単夢魔」というデッキだった。俄然興味が湧いた僕は、ブースターを買ってみたが、キラカードが入ってないし、当時の僕の知力レベルではルールが理解できずに挫折した。ちょうど同じ頃、神奈川のカードゲームショップに件の先輩と同じ年の1人の少年が出入りしていた。彼は、後々に日本有数のMTGプロプレイヤーとして成長し、様々なタイトルを獲得、2016年ハワイで行われたプロツアーで優勝し世界一にも輝いた。彼の名前は、八十岡翔太。「ヤソコン」とも呼ばれるその独創的なデッキビルディングや、「blazing speed」と呼ばれる高速のプレイングで、多くのMTGファンを魅了している。

さて、今回のテーマは、24年前に世界で1番最初の「TCG(トレーディングカードゲーム)」として誕生し、今では70カ国以上でプレイされ「1番遊ばれているTCG」としてギネスにも認定されているカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」。大人になって、僕はいまさらMTGの深すぎる世界にドハマりしている。そんなMTGの“プロプレイヤー”の世界を知るために、八十岡翔太さんに会いにMTG専門店『晴れる屋』さんに向かった。


八十岡プロ、MTGに出会うタカハシヒョウリ(以下、タカハシ):マジック:ザ・ギャザリング(以下、MTGまたはマジック)のプレイヤー向けのインタビューって多いと思うんですけれど、今日はそれよりもうちょっと「あんまりMTGわかんないな」って人向けの話もできたらなって思ってます。なので、初歩的なことも伺うと思うんですけども……。

八十岡翔太(以下、八十岡):わかりました。全然、大丈夫です。

タカハシ:いま僕のまわりでも、小中学生の時にやっていて最近復帰した、っていう人がすごい多くて。僕自身は子供の頃は、指をくわえて見ていたというか(笑)、自分よりちょっと先輩の人とかがやっていて、やりたいんだけど「難しいな!」と挫折したっていう感じだったんです。で、去年から20年越しでやり始めて、今すごいハマっていて。八十岡さんってマジックをやり始めたのはいつからなんですか?

撮影=髙橋定敬

八十岡:中学一年ですね。19年くらい前、1997~98年あたりですね。

タカハシ:ちょっと不思議なのが、僕らの世代ってスーファミとかあったじゃないですか。で、ポケモンとか、プレステもあった。デジタルゲームがみんなのコミュニケーションのツールだったと思うんですけれど、そういうのには行かなかったんですか?

八十岡:やっていましたよ。ポケモンとかも、初代の赤、緑とずっとやっていて。

タカハシ:じゃあゲーム全般が好きで。

八十岡:そうですね。ポケモンは小学6年生ぐらいの時に流行っていて、そのあとプレステ出て、FF7出て……その時期でしたね。

タカハシ:じゃあデジタルゲームもやりながら、カードゲームもやっていたと。

八十岡:まあ最初は遊んでいるだけでしたがね。マジックを始めた最初のきっかけは、クラスにマジックをやっている子がいて、部活の先輩にもやっている人がいて、そこから誘われて、ですね。

タカハシ:そこから今日まで、マジックを卒業することなくずっとやっている?

八十岡:そうですね。

タカハシ:まったくやっていない時期っていうのは無いわけですよね?

八十岡:ないですね。

タカハシ:すごい!結構みんな高校生くらいでやめちゃうじゃないですか。あれ何なんですかね? 「やめる/やめない」の境目っていうのは。

撮影=髙橋定敬

八十岡:うちらの世代でいうと、まず高校受験の時に一回やめるタイミングがくるんです。僕もその時少しやめて……いや、でもやっていたな(笑)。で、中学卒業した後もカードショップに遊びに行っていて、で、そこに僕が入った高校の先輩もいたんですよ。だから高校ではまたその先輩とやって。なのでやめるタイミングがあんまりなかったというか。

タカハシ:「街のカードショップ」に通うかどうか、ってデカいですよね。めちゃくちゃハードル高いじゃないですか。ここ(晴れる屋トーナメントセンター)は大きくてかなりカジュアルですけど。そういうところで仲間を見つけられるかどうか、って大きいですよね。

八十岡:そうですね。しかも当時はこんなにカードショップがなくて。駄菓子屋とか本屋とかゲームショップの一角にデュエルスペースだけある感じでした。だから行ったときも年配の人ばっかりだったんですよね。社会人の人とかが多くて、という感じでした。

「カードゲームのプロ」ってどうやって暮らしているの?タカハシ:そんな少年期を経て、MTGのプロプレイヤーになり、昨年はプロツアー優勝ということで…おめでとうございます!でもですね、これ読んでる人からすると、そもそも「カードゲームのプロ」ってなんだ?という……。

八十岡:僕からしても「なんなんだ?」と思っています(笑)。

一同:(笑)。

タカハシ:たとえば、すごい強いアマチュアの人もいるわけですよね。その人が「プロ」になるにはどうしたらいいんですか?

八十岡:他の将棋とかみたいにプロ連盟があるわけじゃないんで、なにがあってプロかといわれると難しい。結構マジックって昔からそこが謎で、「どこからプロなんだ?」っていう風に言われるんですよね。

タカハシ:そうなんですか! プロランクがありますよね?

八十岡:ありますね。

タカハシ:それは何で決まるんですか?

八十岡:年に4回ほどプロツアーっていう大きな大会があって、それが年4回あるんで、4回出れたらプロって名乗っていいかなと……。大きい大会で勝つと、ポイントがたまっていくんですよ。そのポイントが高いと、プロの大会にも招待される感じです。ゴルフとかもあるじゃないですか。

タカハシ:ありますね。シード権的なものが与えられるということですね。ということは、積み重ねなんですね。突然強くても意味ないんですよね?

八十岡:一回ポーンと勝つと、少しだけレールに乗れるというか、そこから落ちないとやっとプロになれるのかなという。1回勝っただけではプロではないですね。

タカハシ:MTGのプロっていうのは世界には何人くらいいるんですか? プロツアー大会に出場できるのは……?

八十岡:それは大体400人くらいなんですけれど、1年間ずっとプロツアーに出続けられる人は100~200人くらい。で、さっきポイントをためると大きな大会に招待されるって言ったじゃないですか。そのポイントに応じてステータスが決まるんです。シルバーレベルとか、ゴールドレベルとか、プラチナレベルになるんです。

タカハシ:八十岡さんは最高のプラチナレベルですよね。

八十岡:僕プラチナですね。

タカハシ:それは何人くらいいるんですか?

八十岡:プラチナは30人くらい。

タカハシ:世界に30人!? 少ねえー。

八十岡:一応そこがプロって呼べるラインなのかなと。

タカハシ:じゃあMTGのプロは世界に30人ってことか…。やっぱりその30人くらいの人が、世界大会の決勝で当たるんですか。

八十岡:いや、必ずしもそうではないですね。でも誰かは残っています。

撮影=髙橋定敬

タカハシ:これを読んでいる人も「カードゲームのプロ」ってどんな日常なのか、全く謎だと思うんですが、MTGのプロプレイヤーはどんな生活をしているんですか?

八十岡:普通の生活ですよ、たぶん(笑)。仕事しています。

タカハシ:それは普通の職業?

八十岡:普通の職業、ですかね? 一応僕もカードゲーム関係で仕事しているんですけれど。

タカハシ:カードゲームを作っている?

八十岡:そうですね。

タカハシ:仕事でカードゲームを作りながら、カードゲームで遊んでいる。基本的にカードゲームのことを考えている……。

八十岡:はい。いまの仕事についているのも、もともとマジックで勝って、誘われたみたいなところがあるんで。

タカハシ:カードゲーム系の仕事に就く前は?

八十岡:一年中マジックをやっていましたね。そういう意味では、格闘ゲームのプロに近いのかなと。

タカハシ:その時はどうやって生活をしていたんですか。

八十岡:賞金ですね。

タカハシ:おー! それは、1年間を食べていけるくらいもらえる?

八十岡:ギリギリです(笑)。1年間かなり頑張って、一応普通には生きていけるかなくらい。

タカハシ:いや、でもすごい。たぶん「カードゲーム強かったら食べていける!」って思っている人、世の中にほとんどいないと思うなぁ(笑)。でも今は同時に働いていらっしゃるわけですよね? 今は、MTGの「練習」をする時間っていうのはどれくらいとってるんですか?

八十岡:月に1回なにかしら大きな大会があるのでその大会に出るのと、家でマジックオンライン(MTGをオンラインでプレイできるネットゲーム。以下、MO)をちょこちょこ触るくらい。なので、そんなにはしていないですね。僕は世界中のプロの中でも少ない時間しか練習していない方みたいです。

タカハシ:ちなみに働く前っていうのは、人生最大でどれくらいの時間やっていましたか?

八十岡:まあ、ずっとやっていましたね。

タカハシ:寝食以外ずっとMTG、みたいな?

八十岡:そこまではいかないですけれど、近いときはありましたね。一番濃いときはそのくらい。

タカハシ:MOで一番やっていた時はどのくらいやるんですか?

八十岡:最初は1日8時間くらいやっている程度だったんですけれど、だんだん1日20時間とか……。一番やっていた時期の最後の方は20時間以上やっていましたね。

タカハシ:20時間以上……!?最低限、トイレ行って寝て……。いわゆるネトゲ廃人的な。

八十岡:ネトゲ廃人でしたねー。

タカハシ:話が戻りますが、「プロ」と呼ばれる人がカードゲームで収入を得るのは、賞金しかないんですか?

八十岡:ここ1年くらいは、カードショップがスポンサーについてくれるようなことも増えましたね。僕はいま晴れる屋のプロなんですけれど、ユニフォームを着てイベントに出るといくらもえるとか。それプラス、勝ったときの成功報酬としてボーナスが出る、みたいなことも。

タカハシ:となると、プロプレイヤーでこれまで勝っていたけれど、ある年にまったく勝てなくなった、みたいな人は年収0円になるとか?

八十岡:契約次第ですね。場所によっては成果報酬にすると0になりますし、最低保証してくれる企業もあります。負けても、一応ユニフォームを着て出場するので。

撮影=髙橋定敬

「プロの世界」カードゲームの強い・弱いって?タカハシ:プロの世界っていうのがすごく気になるので、いろいろ聞いちゃうんですけど、たとえば「強い/強くない」って一体なんなんですかね? 八十岡さんは事実として勝っているわけじゃないですか。それは他のプレイヤーと比較して何が優れているから勝っているのか? そういう点をご自身ではどう考えているのか、気になります。

八十岡:「ミスが少ない」みたいな、細かいところになると思います。将棋とかもなにが強いのか、ってわからないんじゃないですか。「上手いから」としか言えない。「ミスが少ない」とか、「当たり前のことができる」とかですかね。プロと呼ばれる人たちの間では、技術的な違いはほとんどないと思っています。一定水準を越えた上で、「読みが鋭い」とか「ブラフ(=はったり)が強い」とかの違いがそれぞれ出てくる。

タカハシ:そういう世界で戦い続けて、マジックをやり続けてきて、マジックが苦痛だったとか、「ちょっと、そろそろマジックやめてえな」みたいな時は無かったですか。

八十岡:プロ生活を2006年くらいから始めているんですけれど、やはりずっと勝っていたわけではないんで、波はありますね。でもやめたいって思ったことはないです。

タカハシ:逆にマジックのプロだからこそ経験できることってあったりします? 「マジックやっててよかったなー」と思う場面とか。

八十岡:知り合いが増えますね。海外の人とコミュニケーションとったりすることもできます。あとは海外のいろんなところにいけますね。

タカハシ:初めてのプロツアーは?

八十岡:僕が高校一年の時のプロツアーですね。場所はバルセロナです。

タカハシ:高一で海外に行っているんですか!? それもう明らかにめちゃくちゃ強いですよね!?

八十岡:いや、たまたま行けたんです。そこで初めて友晴さん(齋藤友晴、株式会社晴れる屋代表に)会いました。

タカハシ:ちなみに、そういうのの渡航費って自腹なんですか?

八十岡:そうなんですよ。その頃はまだ自腹で。20万くらいかかったんですよ!

タカハシ:いまはある程度結果を残したら渡航費はもらえる?

八十岡:そうですね。でもホテル代や現地での食費は自腹です。

タカハシ:ええ、そうなんですか!? いい飯食わしてくれたりとかないんですか。大会の裏でのケータリングとかないんですか。

八十岡:ないですね。

タカハシ:ないんだ! そこはでも、夢を育んでほしいなぁ(笑)。

八十岡:昔はパーティみたいなのとか、ラウンジでお酒を飲むとかできたんですけれど、気づいたらなくなっていましたね(笑)。

タカハシ:プロの大会だとMTGのモニュメントみたいなのがあって、すごい空間で対戦するじゃないですか。あれってやっぱり緊張感ありますか。

八十岡:そうですね。やっぱり最高峰の大会ということもあって、シーンとしてて、緊張感はありますね。プロツアーに一度出ると、また出たいなという気持ちになって、続ける人が多いですね。僕自身も高校1年の時に出て、また出たいなと思って続けてきた感じです。

タカハシ:プロツアーのどういうところが良かったんですか。

八十岡:プロ同士の大会のピリピリした感じですかね。それまでは和気藹々とやっていたものが真剣勝負にかわる感じですね。

八十岡流デッキビルドの美学、そして「運」の話
撮影=髙橋定敬

タカハシ:あとですね、デッキ(※ゲームをプレイするための60枚以上のカード)を構築するときやプレイしている時の、直感と計算の割合ってどれくらいですか?

八十岡:デッキはほとんど計算にはなると思います。プレイングに関しては、僕は計算よりは直感のほうが多いかなと思います。8割直感かな。

タカハシ:8割直感!

八十岡:10割直感になるのがベストなのかなと個人的には思います。直感って、「経験に基づいて計算しなくてもわかる状態」ということなので。全部が直感になるのがベストなんですけれど、そうそう簡単にはいかないですね。

タカハシ:八十岡さんが組んでいるデッキは「ヤソコン」という名前がつくくらい独特じゃないですか。それは、計算して導き出されたものが、他の人と違うっていうことですよね。それは他の人と何が違うんでしょうか?

八十岡:何が違うのか、と言われると難しいですね。ただ、考え方が違うというのはあるかもしれないです。基本的に勝つだけのデッキではないので、そういう意味で、人と違うデッキを作ろうという意識は持っています。そういうのは人と違う部分ですね。

タカハシ:それは、使いたいカードを使うとか?

八十岡:そうですね。みんながデッキで使っているもの以外でどうにかしよう、という気持ちからスタートすることが多いんで。

タカハシ:それはプロとして、意図的にそうしているみたいなところがあるんですか? 観客に魅せよう、というような

八十岡:今はそういうのもありますね。それに、「デッキビルダー」としては誰しもオリジナルで勝ちたい、っていう気持ちはあるじゃないですか。最初はそういうところからスタートして、プロとして名前が出るようになってからは、なるべく自分のデッキで勝って見ている人にも楽しんでもらうっていうのは大事にしています。

撮影=髙橋定敬

タカハシ:大会の前日にデッキを組む、という話は本当なんですか。

八十岡:本当ですね。

タカハシ:その場で考えて、みたいな?

八十岡:前々から多少は考えていますね。ある程度みんなが何を使うのかは予想して練習したり、情報を集めて、その上で組む、という感じですね。

タカハシ:大会の前日っていうことは、プロツアーだったら海外の現地に着いてから、っていうことですよね。

八十岡:そうですね。昔は朝組んでいましたね。

タカハシ:はっはっは(笑)。

八十岡:朝3時くらいに起きて作って、8時くらいに完成して、9時から大会、みたいな。

タカハシ:すげえー。それは、長期間長考したほうがいい、っていうことはないんですか?

八十岡:そうですね。いまは発売してからすぐに大会なので、そもそも発売してから2週間くらいしか考える期間はないんですよ。結局2週間前からやっていても、ずっとああだこうだ悩んで目移りしちゃいますよね。だから、そんなに変わんないのかなあという気がします。

タカハシ:あと、これはすごく聞きたいなと思っていたことなんですけれど、「運」ってあると思います?

八十岡:あると思いますね。

タカハシ:それを意識することってありますか? たとえば、麻雀だと阿佐田哲也っているじゃないですか。彼は「運気の流れがあるから、私生活はできるだけダメにして、そのぶんギャンブルに運気を」みたいなこと言うじゃないですか。そういう感じの運の流れとか意識しますか。

八十岡:流れは意識しますね。ツイている、ツイていないっていうよりかは、なにかを引きそうな流れとか、悪い流れだな、とか。

撮影=髙橋定敬

タカハシ:例えば、プレイしていて明らかに悪い流れがきている、みたいなときってそれを打破する方法とかってあるんですかね?(笑)

八十岡:いや、ないですね、諦めるしかない(笑)。逆にいうと、マジックはある程度運があるゲームなんで、理不尽な負けが続いたからってあまり気にしないっていうのが大事かもしれないですね。「ああツイてなかった」で片づけられるというか。

タカハシ:ちなみに、MTGというゲーム自体は、運と実力、何割・何割のゲームだと思いますか?

八十岡:よく言われるんですけれど、とても難しい質問なんですよね。僕は、運3割・実力7割だと思います。

タカハシ:ああすごい的確なところな気がしますね。ポーカーは運1・実力9とか言われてるみたいですが、運0・実力10のゲームってあるんですかね?

八十岡:将棋とかはよくそういわれますけれど、「0」とまでと言われるとそうでもない気も……。

タカハシ:ちなみにMTG以外のゲームっていうのはやるんですか? ボードゲームとかアナログゲーム、あるいはデジタルゲームとか。

八十岡:僕けっこうやりますよ。基本ゲームなんでも好きなんで。ボードゲームも一時期は結構やっていましたね。

タカハシ:ちなみにハマったやつはなんですか?

八十岡:『プエルトリコ』とか、『カタン』、『ドミニオン』もやっていましたね。

タカハシ:ああ『ドミニオン』はたしかにMTGっぽいところもありますね。僕『カタン』大好きで、運と実力が五分五分くらいかなって思うんですが……。

八十岡:いや、それはどうですかね? 結構実力重視な感じがしますけれど。

タカハシ:ああー、それはやっぱりプロの意見ですね。ちなみに八十岡さんは、MTGではコントロール(※積極的に攻めるより相手の行動に対応して場を支配する「待ち」のスタイル)を組むけれど、他のカードゲームではコントロールを組まない、っていう話を耳にしたことがあるんですが……。

八十岡:詳しいですねー(笑)。逆に言うと、コントロールが強いっていうゲームなかなかないんですよね。

タカハシ:たしかにMTGの独特なところですね。コントロールが好き、っていうわけではない?

八十岡:なんだかんだで好きなんだと思いますよ(笑)。


八十岡流・実戦的ドラフト指南書タカハシ:僕去年マジックをやりだして、最初にスタンダードで対戦しているとき、そんなに深くはハマらなかったんですよ。でも、ドラフト(※未開封のカードを使って4人以上でプレイする遊び。未開封のパックからカードを選んで戦うので、デッキを用意しなくても遊べる)っていうものを知って、これはめちゃくちゃ面白い!ってなって、よくドラフトをしてるんです。八十岡さんもドラフトがお好きなんですよね? どれくらいやるんですか。

八十岡:最近はそんなにですね。やっぱり人が集まらないとドラフトってできないじゃないですか。一時期、マジック仲間と一緒にいたときはずっとやっていましたね。

撮影=髙橋定敬

タカハシ:めっちゃ難しいと思うんですけれど、ドラフトのコツというか、なにかひとつでもドラフトが強くなれる要素ないですか?

八十岡:ドラフトはピック(※カードを選んで取ること)の段階と、実際のゲームの2個あるんですけれど、ゲームの方だとダメージレース(※ダメージを与えあいライフを0にすることを競うこと)とかコンバット・トリック(※戦闘を有利に進めるための呪文)とかそこが一番肝。なので、重要なのは不利な交換はしない、とかですね。3/3が殴って2/2の2体にダブルブロックされると損じゃないですか。そういう積み重ねが結構ゲームに影響するんで。そういうアタック、ブロックの計算が一番大事なゲームかなと。

タカハシ:ピックのときは、1周目の時はまだ自分の色が定まってないじゃないですか。その時って基準はなんなんですか? あきらかに爆弾レア(※すごく強いカード)とかが強いっていうのは別にして。

八十岡:基本的には強いカードから取っていく、っていうのが基本じゃないですか。そのあとはデッキの完成形を考える。あとは、1周して何が回ってくるかを予測しておく。最初14枚入っていて、8人しかいないんで6枚回ってくるじゃないですか。なにか6枚回ってくるかを考えて、回ってきそうな色をとっておくと、その色を組みやすいとか。

タカハシ:それは、基本的に覚えていますか? 14枚を。よほどの弱いカード以外はっていう感じですか?

八十岡:昔は全部覚えていたんですけれど、いまは漠然と覚えていますね。白が2枚あって、緑が3枚あって……とか。で、回ってきそうなやつ2~3枚を覚えておくと「あ、きた」とか。

タカハシ:シグナルってやつですね。

八十岡:そうですね。卓に何人いそう、とか。基本的にはマナカーブ、2マナは多めとか、重いの取らないとか、そういうのが大事なのかなと。

撮影=髙橋定敬

タカハシ:ちなみに好きな色っていうのはあるんですか?

八十岡:青黒ですね。

タカハシ:たとえばドラフトで、自分は青黒が得意だから青黒に寄る、っていうことはあるんですか?

八十岡:そういう環境(※MTGは、新しいシリーズが発売するたびにカードが入れ替わって環境が変化する)の時はありますね。青黒が強いときはそうなりやすい。弱いときは無理してやらないっていうのはありますけれど。

タカハシ:いまの環境はどうですか?

八十岡:あんまりやらないですね。

タカハシ:実戦的なとこでいうと、今の「霊気紛争」環境で強い色はなんですか?

八十岡:赤白と緑とかは結構強いですかね。自分はこの現環境は結構苦手で、全然勝てなくて。

タカハシ:現環境が苦手なのはどういう点で? コントロール向きではないから、っていうことですか?

八十岡:そうですね。それは間違いないですね。1個前の「カラデシュ」の時は結構ずっと青黒で青が強かったんですけれど、「霊気紛争」に入ったら青が弱くなって。

タカハシ:晴れる屋さんのドラフト合宿の記事以外でも、ドラフトはやっていらっしゃいますか?

八十岡:あんまりやっていないですね。どちらかというとMOでやっていますね。リアルで8人集まるってやっぱり難しくて。

MTGの、八十岡プロの、これからタカハシ:MTGをはじめアナログゲーム全般にいえることですが、現実的に集まるハードルはやっぱりありますよね。そしてMTGはいま世界的にはメジャーですが、日本の若者の文化としてすごく流行っているわけではないじゃないですか。

八十岡:そうですね。

タカハシ:それを、もっと多くの人がやるようになるにはどうしたらいいと思いますか?

八十岡:難しい質問ですね。それはまあウィザーズさん(MTGの販売元・ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社)に……(笑)。僕ら個人ではやはりどうにもできないですからね。それこそ、この晴れる屋さんとかウィザーズさんとかにもっと宣伝してもらうとか、アニメをやるとか。知名度が上がれば人は増えるのかなという気はしますけれど、所詮は「カードゲーム」という遊びのひとつなのでどれだけいっても限界はあると思います。スポーツとかとは違うんで。

タカハシ:デュエマ(※デュエル・マスターズ。MTGを題材にしてスタートした漫画作品)が漫画でやっていた時は人口が増えたんですかね?

八十岡:増えましたね。やっぱりメディアは大事かなと思います。入りやすさという意味でも。

タカハシ:ゲームのポテンシャル的にはあると思いますか? 将棋のようにメジャーになるような。

八十岡:ちょっと難しいと思いますね。1個あればできる、っていうもんでもないじゃないですか。将棋盤があればできるとか、代々親からそれを受け継げるとかでもない。ある程度お金を使ってカードを集めなくてはいけないし、常にルールが変わっていくからサッカーや野球みたいに普遍的なものでもない。やっぱり限界はあるのかなと。

タカハシ:MTGがよりメジャーになってほしいという気持ちっていうのはありますか?

八十岡:それは思っていますね。格闘ゲームよりすこし下、くらいまでにはメジャーになってほしいです。

タカハシ:個人的に、ドラフトっていう遊び方が一般的に知られていれば、もっとハードル下がるような気がするんですよね。でもお金かかるかあ。1人900円ですけれど。

八十岡:小中学生にとっては900円は重いですよね。

タカハシ:確かにそうですね。ちなみに、小学生くらいのMTGプレイヤーっているんですかね?

八十岡:海外だといますし、日本でもたまに見ますね。

タカハシ:でも圧倒的に難しくないですか? ほかのカードゲームと比べて。

八十岡:遊ぶのは難しくないんです。けど、勝つまでが難しいのかなという気がします。

タカハシ:なるほど……。八十岡さんは、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーをとって、プロツアーも勝って、殿堂入りもして、残す称号は世界選手権だけっていうところですよね。そこがやはり今年の目標ですか。

八十岡:目標ですね。

タカハシ:もしそれを獲得できると、獲れるものは獲ったっていうことになるわけですよね。それ以上の目標っていうと何かありますか?

八十岡:何になるんでしょうね?(笑) プロツアーを1年に2冠とか、そういう話になるんじゃないですかね。グランドスラム達成、みたいな。でもさすがに現実的ではないので……目指すかはわからないですけれど。

タカハシ:MTGはもっとメジャーになってほしい、という話もありましたが、それがなぜかってありますか? やっぱりお金がっていうのも……(笑)?

八十岡:まあ、そうでしょう(笑)。でもその1点ていうわけではなくって、やっぱり自分がやっているものが有名になったほうが嬉しいっていうのはあります。それに加えて、一応プロでやっているので、もっと広がればもっとお金も入ってくるかな、と(笑)

タカハシ:たとえば、いまプロを目指す人にはどんな言葉をかけますか? たとえば20代の人とかが仕事をやめてプロを目指すとか……。

八十岡:ああ、それは止めますね。

一同:(笑)。

八十岡:やっぱり今の制度だと、基本的に稼げないというか、一握りしか食べていけないですからね。学生さんとかならいいかもしれないですけれど。たとえば20代の人で「いまからサッカーのプロを目指すために仕事を辞めます」って言ったらそれは止めますよね。それと同じかなと。やっぱり強い人って10代なんですよ、海外とかだと特に。だから30代とかになってポッと出てくる人はいない。

タカハシ:なるほど。あと聞いておきたいのが、テゼレット(※八十岡さんが多用したカード)はやっぱりお好きなんですか?

八十岡:うーん……これ言っていいかわからないんですけれど、別にそんなに好きじゃない(笑)。

一同:(笑)。

八十岡:あのカードを使うひとがあんまりいなくて、それで目立ったというのはあるかもしれないですね。

タカハシ:もしも、MTGがこの世になかったら、何していたと思いますか? ゲーム系の仕事についていたとか?

八十岡:それは無いような気がしますね。普通に勉強して、学者とかになっていたかもしれないですね。

タカハシ:もともと調べたりするのが好きっていう?

八十岡:そうですね。数字系とかが好きだったので、数学者とかになっていたかもしれないですね。

タカハシ:やっぱり理系なんですか?

八十岡:どちらかといえば理系ですね。早い段階でドロップアウトしてしまったのですが(笑)。大学受験の時にマジックばっかりやっていて、落ちてしまったんですよね。

タカハシ:でももしその時に大学に受かっていれば、全然別の道に行って、こうして世界一になっていなかったかもしれない。カードゲームの神の思し召し、かもしれませんね。

八十岡:そうかもしれませんね。

インタビューは無事終了、聞きたいことを聞かせてもらってホクホクの風来坊。そして、ここでなんと、八十岡プロが対戦してくれることに……! まさかの世界チャンピオンと、マジック歴1年のミュージシャンの戦いが実現!

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

タカハシのマイデッキは、八十岡さんもプロツアーで使用したことのある「ジェスカイ・サヒーリ」。「サヒーリ」というキャラクターと「守護フェリダー」という2枚のカードで無限コンボを目指すコンボデッキです。対して八十岡さんは「ティムール・タワー」。「電招の塔」というカードを駆使して、相手を制圧するコントロールデッキ。

撮影=髙橋定敬

探り合いながらの第一戦、打ち消し合戦の末、あっという間に焼き尽くされました。
でも意外と善戦できたかも……? 次こそは!

タカハシ:シャッフルって練習するんですか? プロの方ってみんなプロっぽいシャッフルするじゃないですか。 八十岡:練習というよりかは、10年くらいやっていると自然とうまくなるんですよね(笑)。あとは、考えているときに自然とシャッフルしていたりとか。 撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

圧倒的にボコボコにされました……。19機の飛行機械で殴られて−17対20というスタンダードではありえない大差で敗北。あたりまえですが、1ナノも歯が立ちませんでした。しかし、その八十岡プロの高速かつ的確なプレイングを目の前で見ることができ、感無量。八十岡さん、晴れる屋さん、ありがとうございました!

八十岡プロの話は実はいろんなことに繋がっている、と思います。すごく面白かった。
そして「マジック:ザ・ギャザリング」の世界へ、なかなか縁が無いという人も興味を持ったら足を踏み入れてみませんか? 晴れる屋さんやカードショップでは、未体験者向けの体験会なども定期的にやっています。

そしてドラフト、やろう!

撮影=髙橋定敬

店舗情報晴れる屋トーナメントセンター

営業時間:9:00~23:00(土日祝含む全日)
住所:〒169-0075 東京都新宿区高田馬場 3-12-2 OCビル 2F
TEL:03-5332-7544(代表) 03-5332-7517(通販専用)
通販専用ダイヤル対応時間:9:00~17:30(土日祝含む全日)
詳細:http://www.hareruyamtg.com/jp/store/tc_top.aspx

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