ギャップに悩んだ、須田亜香里、這い
上がらせたコンプレックス力

SKE48須田亜香里。一度は挫折を味わった彼女が躍進を遂げる原動力になったのは「コンプレックス力」にあるという

 アイドルグループ・SKE48の須田亜香里が24日に、自身の著書『コンプレックス力~なぜ、逆境から這い上がれたのか?~』(産経新聞出版)を発売した。

 須田は2009年にSKE48の第三期生オーディションに合格し、同年末にデビュー。ステージ上での全力のパフォーマンスやファンとの握手会での“神対応”から「握手会の女王」として注目を集め、AKB48選抜総選挙では2013年に16位、2014年には10位と躍進する。一方でメディア露出が増えてくると、「検索ワードで自分の名前を入れると『須田亜香里 かわいくない』と出てくる」(本人談)と、いわゆる「ブスキャラ」というレッテルを張られることに。さらに2015年の選抜総選挙では18位と大きく順位を落とし、選抜入りを逃した。

 そんな彼女だったが、続く2016年の選抜総選挙では自己最高順位の7位に再び上昇、AKB48グループの栄誉の一つである「神7」の座に着き、大きな反響を呼んだ。2015年の選抜落ちの際は、一度はアイドルを辞めようとまで決意したという彼女の奮闘ぶりには、この本で書かれている「コンプレックス」というキーワードが密接に関係しているようだ。

 今回は須田本人にそのコンプレックスと自らの関係や、昨年の総選挙での「神7」入りを果たした躍進への思い、そして今後への思いなどを語ってもらった。

今の自分が好きじゃない」と思っている人にはぜひ読んでほしい

コンプレックス力~なぜ、逆境から這い上がれたのか?~

――この本を執筆しようと思ったきっかけは?

 そうですね…本に至るまでのきっかけは、3年くらい前に「連載をやってみないか?」と雑誌の編集の方から声を掛けていただいて、コラムを書いていたんです。全部自分で文章も書いて、写真も自分でシャッターを押して、と、必要な材料は全部自分で取材するというコンセプトの企画でして。それを続けていく中で『本を出しましょう』という風に声を掛けていただいて。ただ、小学校のころから本当に国語の成績は悪かったし…だからまさか自分が文章を書く人になるとは思わなくて、自分が一番戸惑っています(笑)

――日常的に、自分の中にかなり大きなウェイトとしてコンプレックスを抱えていたのでしょうか?

 そうだったと思います…。というかコンプレックスって、知らないうちに蓋をしていることも結構多いと思うんですよね。

――どんなコンプレックスを持っていたのでしょうか?

 たとえば、声質なんかに自信がないこととか。歌を歌った時に自分の声が聴こえてくるのは、ずっと抵抗があったんですけど…。それともう一つ、コラムを書いている時に気づいたコンプレックスがあります。「私は何でこんなにアイドルとして頑張れたんだろう?」と思ったことがあったんだけど、それは「選ばれない」コンプレックスがあったからなんだな、と最後の最後に気が付いたんです。

――「選ばれない」コンプレックス?

 そう。たとえば幼稚園や小学生の時から、クラスで「○○を選びます」って学級委員なんかを選ぶ時に、私は目立ちたかったから立候補しこともあったけど、選ばれなかったんです。小さいころに遊んだ「はないちもんめ」でも、一度も呼ばれたことがなかったり(笑)。そんな気持ちがコンプレックスとしてあったと思います。そんな思いが自分の中で積もりに積もって、選ばれる人間になりたいという気持ちを、最大限に自分のばねとして力を発揮できたのが、アイドルという場所だった、と思うんです。

――いっぱいコンプレックスがあると、なかなか「アイドルになる!」という方向には向かない気もするのですが…。そんな中で須田さんがSKEのオーディションを受けた、その意図にはどんなものがあったのでしょうか?

 意図というか…。たとえばよく、今のアイドルの方で昔は「引きこもりでした」とか、あまり人前に出るタイプじゃなかったみたいな人も多いですけど、私はどちらかというとそんなタイプじゃないと思うんです。コンプレックスは蓋をしていたけど、本心はわりと前に出たいタイプで、明るい性格ですごく自信家だったんです。

――自分としては、アイドルに向いているはずだと?

 そう思っていました(笑)。実はアイドルに向いている!って。すごく自信家で、アイドルだったら私も選ばれる人になれるかもしれないみたいに、そんなすごい自信過剰な(笑)。そんな願望を持って、オーディションを受けたんです。それと昔からずっとクラッシックバレエをやっていたこともあって、ダンスにも憧れを持っていました。オーディションではダンス審査があるというのも知っていたから「オーディションでダンスができるんだ!」って。アイドルのダンスも興味があって、踊ってみたいと思っていました。

須田亜香里

――コンプレックスという言葉に惑わされたという気もしますが…。その意味ではガチで受けにいったという感じですね。

 うん、まあでも割と遊び心は持って受けたと思います。

――実際オーディションを受けて、受かるは受かったけど、なかなか上に登れないとなった時には、そこでもかなりのコンプレックスを感じたのではないでしょうか?

 そうですね。クラッシックバレエをやっていた時は、練習した分だけ登れたのが普通だったし、上手になった人こそが前に出られるという世界だったけど、アイドルはダンスが踊れても歌が歌えても、練習をいっぱいしていたとしても、それは結果に必ずしもつながるわけではない、キャラクター性とか、もちろんルックスに華があるか、とかいった要因でも“選ばれる””選ばれない”のチャンスの量は変わってくるし、そのギャップにはすごく悩みましたね。「あの子より私、頑張っていると思ったのに、私は選ばれない」ということが、普通にあるので…。

――同期の方や先輩、後輩方その他、グループの中でも、同じようにコンプレックスを持たれているという雰囲気はありますか。

 それは感じますね、そんな雰囲気を。後輩でも「今この子は、こういうことで悩む時期だろうな」って。私は本当に選ばれる経験も、選ばれない経験もしてきたので、いろんなこの立場に立って悩みを共有することができたりとか、話してみるとすごく会話が通じ合うことが多かったりすると思っています。

 うまくいかないことがあったからこそ、いろんなメンバーの立場に立って、後輩を見ていてもほっとけないなと思えるようになっているし、自分はちゃんと前に進めているんだな、みたいなことを実感します。うまくいっていることが多かったら、多分こうはできなかったかと思う。

――それはつまり、あくまで目指すところに行けない、という状況を、何かのやり方で必ずそういうところに行ける方法はあるんだ、ということを示唆しているのでしょうか?

 それは「克服する」という意味であれば、「イエス」だと思います。絶対にできる。私は小さいころから何をするにも思っていたんですけど、「他にできる人がいることだったら、私にもできる」と思うんです、同じ人間だから。向き不向きとかはあるかもしれないけど、同じように人間は赤ちゃんから育って生きていって、達成する人がいるんだったら、自分にも可能だろう、って。不可能があると思いたくない、負けず嫌いなところもあるのでそんなことも思うんですが…。

――負けず嫌いなんですか?

 はい、メッチャ負けず嫌い(笑)。わりと強気なんです。でも同時にすごくネガティブだったりはしますね。マイナス×マイナス=プラス、みたいな感じで、ネガティブ×ネガティブ=ポジティブみたいな感じではないかと。

――須田さん自身はこれまでの話も含めてこの本で、どんなことを人に伝えたいと思いますか?

 そうですね…。私がここ数年間で一番大事だと思ったのは「今の自分が一番好きでいること」。たとえば「あのころの自分は良かったな」と思うことは誰でもあると思うし、今の自分がマックスじゃないと思うこともあるかもしれないけど、今の自分が一番好きと思えた時に、初めて自分にとって開けてくるものがたくさんあると思うんです。

 だからこそ「今の自分が好きじゃない」と思っている人にはぜひ、読んでほしい。私自身も、人と出会って成長させてもらってきたからこそ、今こうやって素直に思ったことを口にしたり、嬉しいなと思ったり、感情を素直に表現できるようになってきたことを実感しているし、人に頼ったり、頼られたり、そういう関係を持つこともできたんです。

 だから、この本を一冊の友達みたいに思って、これも出会いだと思って読んでもらえたら嬉しいなと思います。「友達の一言」と思って読んでもらって、こういう意見もあるんだなと思いながら、悩みと照らし合わせて読んでいただければ嬉しいですね。

欲を素直に言えるようになった。周りにそれを伝えるのも正解だと思うし、皆も言えばいい

須田亜香里

――昨年の総選挙の結果から、今年の総選挙への思いなどというところもお尋ねしたいと思います。今年もさらに上に、という気持ちもありますか? この本に書いていることはもう通用しないから、さらに新たな手を、とか(笑)。

 (笑)もちろん行けたら行きたいという気持ちもあります。7位になったからこそこうやって本も出せたし、7位以上とか、順位があるからこそもらえるお仕事とか経験させてもらえることって、ぐっと広がったので、やっぱり上を目指したいという気持ちは、正直なところはすごくあります。

 でも、順位だけにとらわれると、結局また内容が無くなったりとか、自分の中で自信を持っていけるものが減ってしまうと思うんです。去年は楽しみながらやった結果が、この「神7」につなげることができたと思うし、今年も楽しみながらいろんな人と心を通わせる中で、結果を出せたら万々歳ですね。でも下がっても、意外においしいかな、と(笑)

――実は本心としてはちょこっと欲もあると?(笑)

 いや、というかちょこっとじゃない! 欲はメッチャありますよ!(笑)。ただ、今思っていることがあるんですが、最近欲を素直に言えるようになったと思うんです。自分の見え方なんかを気にして、そういうことが言えなかった時もあったんです。

 後輩もたくさんいるからこそ「後輩に譲ってよ」とか。最初はそれも全部気にして「譲らないといけないのかな」とか「自分のしたいこと、言っちゃいけないのかな」とか思ったりしたこともありました。

――それ、ありますね。「先輩あるある話」的な。

 でも、そもそも「譲られる側って、嬉しいのか?」とも思う。譲られるって「そんな上から目線で」って…。チャンスを譲るって、たぶん上から目線だと思うんですよ。譲られた側は、それは屈辱じゃないのかよ?って(笑)。だから最近は逆に自分から欲を言うのが、周りにも正解だと思うし、皆も言えばいい。そう思っています。

――本当の意味でポジティブですね。もちろんいろんな努力をしてきたということもあると思うんですけど、選ばれるものという話にあった、たとえば運や、自分ならではの特別なものを持っているからそういうところに行けるのでは? となかなか上に上がる方向に気持ちを向けることも大変ではないか、という感じですよね。

 いや、持つものを持っていないからできるんです!だって、世の中才能を持っている人なんて、一部じゃないですか。才能やセンスとか、人を引き付けるものがある人って。そんな人がごく一部で、私にはそういう人ではないからと、あの手この手でもがいているんです。

 たぶん、そんな私だったからこそ、ファンの方は私を見て何か共感してくれて、味方になって応援してくれたのかと思うんです。それにもともと持ち合わせているものが少ないからこそ、人と一緒に補い合って、足りない分で人とつながれたと私は思っています。だから、アイドルとして成り立ったし、神セブンという場所にたどり着いたし、アイドルを全うすることができていると思います。

――現時点で「この人には負けたくない!」というライバルはいますか?

 それを出すのは難しいですね…。でも敢えて何人か上げるとしたら、SKE48を卒業された方々には負けたくないなと。卒業された人の中には「SKEにいるから駄目だった」と思いながら去っていた方も、いるんじゃないかと思うんです。

 でもそうじゃなくて、私はSKE48のメンバーだったからここまで来られたと思っているし、そういう私を見て、卒業生さんが「辞めなきゃ良かった」と思われたら、ちょっと嬉しいなと(笑)。そんな気持ちも、ちょっとあります。

――今後、須田亜香里さん個人として、何か新たに始めたいと思っていることもあるのでしょうか?

 そうですね、やりたいことはたくさんあります。たとえばSKE48だと(松井)珠理奈さんしか知らないよ、みたいな人もいるじゃないですか。そういうのはすごく嫌なんです! だからグループにとっても、須田がいることでSKE48がもっとよくなると言ってもらえるように、個人の仕事を増やしていくこともそうだけど、知名度を上げていくことだと思うので。

 それに自分自身がいつかグループを巣立つことになった時に、塵にならないためにも…今の状態で辞めたら、宇宙の塵になるレベルで(笑)、実力不足なので、ちゃんといつかそういう日が来た時にも、ちゃんと地に足を着けていられる人になるためというのもあるし、一つでも多くいろんな人と絡んで、いろんなお仕事をしていきたいですね。

須田亜香里

――2月の頭に、いずれ事務所を移籍するとの発表がありましたが、これは何か新しいことを一人でもやろうという方向なのでは、とも思いました。現時点で特に具体的に何か決まっていることなどはありますか?

 いや、まだないですし、SKE48にはまだいます! 今辞めると塵になっちゃう(笑)、むしろまだいさせてもらっているレベル。

――では卒業というのも…。

 残念ながら、まだできるレベルじゃないです…(笑)。ファンの方からは「まだ辞めないで!」と言ってくださるんですけど、逆に「辞められない」ということを恥じなければいけないなと思っているくらい(笑)、本当に実力不足ですから…

――でも、本が出ちゃいましたね…(笑)。次に書いてくれと言われたら、それも一つの才能であると(笑)

 確かに、今回出したものがどう出るかもありますよね。「そんなもっと須田の考え方を知りたい」と言ってもらえたら嬉しいですけど、私の中のものはもう全部出しちゃったから(笑)。でも本当にすべてを詰め込んで書いたので。25歳なりに。

――では最後にこの本について一言を。

 結構音楽とかって、お仕事の合間とか移動時間とかに、聴いたりすると思うんですけど、そんな時に合わせて、お仕事をやっている方とかに、この本も読んでもらえると嬉しいですね。仕事術とかも書いているので、仕事をする時に、ストレスをためることってあるじゃないですか? 人、上司がムカつくとか、同僚がウザいとか(笑)。 そういうことをポジティブに変えられる方法も書いてあるので、皆さんの日々のストレスをちょっとでも消せたらいいなと思います。たとえば、音楽と一緒に、私の考え方を、ストレス解消の一つにしてもらえたら嬉しいです!

(取材・撮影=桂 伸也)

書籍情報

「コンプレックス力 ~なぜ、逆境から這い上がれたのか?~」
著者:須田亜香里(SKE48)
発売元:産経新聞出版
定価:1300円+税

アーティスト

タグ

    MusicVoice

    音楽をもっと楽しくするニュースサイト、ミュージックヴォイス

    連載コラム

    • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
    • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
    • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
    • MUSIC SUPPORTERS
    • Key Person
    • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
    • Editor's Talk Session

    ギャラリー

    • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
    • SUIREN / 『Sui彩の景色』
    • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
    • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
    • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
    • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

    新着