ほとばしるのは涙じゃなく汗!フェア
リーズの「別れ」ソングは、なぜ『S
ynchronized~シンクロ~』なのか

春の卒業シーズンに向けた別れの曲です。なぜ別れの曲が「シンクロ」なのでしょうか。この曲は、藤田みりあがグループを卒業し、5人体制になってから初のシングルにあたります。言わば、別の道へ進んだ元メンバーにあてた、シンクロさせた曲でもあるんですね。





冒頭から主題である歌詞が登場。「必ずまた会える」「意味ある 別々の歳月」の歌詞は、一般的な再開の約束の意味は勿論、旅立っていったメンバーのことも含んでいます。「I gotta do」は「~しなければならない」意味。別れても意味ある別々の歳月を歩まなければならない、と歌っている強い曲。



このAメロの歌詞も良いですね。「雑踏のソリチュード」とは、人々がいる雑踏の中で一人でいること。ロンリネスだと寂しい孤独ですが、ソリチュードはソリストという言葉もあるように、一人の状態を前向きにとらえていること。「街中がアウエイ」に感じるほどだけれど、それでも「顔上げて前を向く」。別れをかなり前向きに、「チャンス」ととらえているのです。「顔上げて」というアクションが入っているのも良いですね。フェアリーズは、ダンスを重視しているダンスボーカルグループだからです。



たとえばこの歌詞。「リフォーメーション」は改心、改善の意味。心を入れ替えて愛のかたちを変える。さらに「フォーメーション」というダンスボーカルグループならではの単語も仕込んでいます。

たとえば「ステップはもう試さない」「踊る影」。このあたりの歌詞も「ステップ」「踊る」と、ダンスに関連した単語を入れています。身体をフルに使うダンスで、これらの歌詞の意味を強めている。かなり激しいダンスをするフェアリーズだからこそ、こういった歌詞に説得力が出るんですね。



サビ直前は、リズム感のいい野元の歌割で変化を強調。「同調を律し、凌駕する」というフレーズをわざわざ[ ]でくくり、際立たせています。ダンスをシンクロさせる。さらに揃っているだけではない、それを凌駕する魅力をも見せる。そう宣言している歌詞です。

そして、これは「同調するだけでなく、それを超えていく心」の意味も含みます。日本人は、基本的に「同調すること」を良しとしがちです。しかし、もっと大切なのは同調しつつも、それすらも超える心の強さを持つこと。



「一人きりでは成り立たない」と表現するのは、ここでまた[ ]で強調している[恋愛も友情も孤独、それさえも]という歌詞。恋愛や友情が一人だけは成り立たないことはすぐ分かります。しかし「孤独」も、実は一人では成り立たない。孤独を感じることができるのは別れがあるから。前半に出てきた「ソリチュード」がここにかかってきます。別れで感じる孤独感を強く肯定している曲なんですね。




サビです。「ほとばしるのは涙じゃなく、汗」というところが運動量の多いこのグループらしくて良いですね。日本で別れの歌には多くの場合「涙」がつきもの。しかし、この曲は「涙」でなく、身体を動かす「汗」を強調するのです。

「一緒に見た夢」は白黒がつけられる=全く違う別の夢になる。その別の夢、新たな道を「諦めたら 許しはしない」。これは別れる相手にも自分にも言っているんですね。別々の道を歩むからこそ、自分の選んだ道を諦めない。別れても、どこかで心や体がシンクロしている。

そしてシンクロさせるのは心と体だけではない。過去と未来もです。過去に別れた人だけでなく、これからの未来に新たに出会う人も含んでいる。この曲が「別れ」を肯定し、「孤独」という単語を入れるのは、未来を見ているから。「また会える」のは、過去の人だけでなく、新しい人、新しい自分に「また会える」。「シンクロ」できるんですね。

伊藤がインタビューで言っていたように、友達や恋人や家族や数々の知り合いなど、多くの「別れ」に通用する曲です。その別れがリアルなのは、フェアリーズ自体が大きな別れを経験した直後だから。そしてその別れを肯定し、さらに聴き手に前向きな気持ちをもたらすことができるのは、フェアリーズが高いダンススキルと「ほとばしる汗」で歌詞の意味に説得力をもたらすことができるから。

日本は春になると様々な卒業ソング、別れソングが出ます。その多くは切ない曲。しかし、この曲のように力強く、前向きな別れの曲もあるのです。フェアリーズは、こういう強い曲を引きよせるんですね。



TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)

アーティスト

UtaTen

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