芥川龍之介はスライを聴いたことがあ
るのか?サザンオールスターズ『マン
ピーのG★SPOT』

この曲は、2番で「芥川龍之介がスライを聴いて”お歌が上手”とほざいたと言う」という印象的なフレーズが出てきます。芥川龍之介は、日本の作家。POPSの歌詞の中にこの作家の名前が出てくることも、まずありません。1892年から1927年まで生きた非常に有名な小説家であり『蜘蛛の糸』『トロッコ』などで知られています。スライは、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのこと。1960年代後半から70年代にかけて活躍したファンクバンドです。時代が異なるので、芥川龍之介は生きている間にスライを聴けることはありません。「芥川龍之介がスライを聴いて“お歌が上手”とほざいたと言う」という状況は、現実にはあり得ないのです。では、このフレーズは何を表しているのでしょうか?



この「芥川龍之介がスライを聴いて」にあたる部分の、他の歌詞を見ていきます。

「本当の未来なんて知りたくない」「笑う人生にビジョンなんておよしなさい」「情熱や美談なんてロクでもない」それぞれこう歌っています。いずれも歌詞上の「アナタ」が否定していることなんですね。「ほざいた」というのもバカにしている表現。「アナタ」は「本当の未来」も「人生にビジョン」も「情熱や美談」も全て否定しているのです。そして、これと同様に「芥川龍之介がスライを聴く」ような架空の出来事すら否定している。

では人生のビジョンや情熱や架空の出来事も否定して、何が他にあるのか?この世にあるのは「無情の愛」=愛のないセックスや「ベッピンな美女を抱いて宴に舞う」ような欲望ばかりだと言っています。この曲は、目の前の欲望の前には他のことは全て無意味になってしまう「人の業」を歌っているんですね。芥川龍之介のような優れた文学も、スライのような素晴らしい音楽も、文学性を持った歌詞とブラックミュージック要素をもつサザンの曲も、エロや欲望の前では無意味なものとして扱われてしまうのです。それは、この『マンピーのG★SPOT』という曲が、タイトルフレーズのインパクトが強く残り「この曲は歌詞に意味がない」とされがちなことと似ています。人は強い欲望を目の前にしてしまうと、他のことが霞んでしまうんですね。

そして桑田佳祐は、そんな「人の業」すらも笑いにしてしまうのです。この曲は、ライブにおいて桑田がハゲカツラをかぶって暴れる曲です。エロい単語を連呼してるだけで全く意味のない歌。そう思われて大いに結構だし、それで間違っていない。でもそういう曲でも、しっかりと作る。だからサザンはずっと人気なんですね。

TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)

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