清春、迫力の歌声に涙ぐむ観客 全身
全霊を捧げたツアー

ボーカリストとしての真価を示した清春(撮影=SHINGO TAMAI)

 ロックミュージシャンの清春が2月26日、東京・新宿ReNYで全国ツアー『天使の詩 ’17 夜、カルメンの詩集「CARMEN’S CHARADE IN DESPAIR」』の最終公演をおこなった。1月26日に始まったツアーは、名古屋、大阪などを経て、東京での2DAYSでファイナル。持病の腰痛悪化もあり、東京での初日公演は急遽アコースティック編成でおこない、仙台公演は中止という苦渋の選択を強いられたが、2公演を除いてはバンド編成によるロックをベースとした多種多様な“音”の世界観を見せ、魅了した。このうち2月25日の東京公演では、清春の迫力の歌声に心を奪われ、感動のあまりに涙ぐむ観客も多くいた。一方で、饒舌トークは健在でMCでは笑いも絶えなかった。喜怒哀楽が激しく行き交ったこの日は、まさに“ボーカリスト“としての真価を掲示した一夜だった。

妖艶な空気感

 昨年末のツアーで歌った“詩集”の続きを紡ぐように、この日の始まりは“定番”の流れともなった「赤の永遠」、「夜を、想う」、「アモーレ」で幕を開けた。パールブランのペルシャ絨毯の上に裸足で立つ清春は、ベージュのジャケットに、ダークブランのゆとりのあるイージーパンツの姿。髪は光を浴びて黄金色に輝き、ホワイトのインナーが胸からのぞいた。

 フランスのオペラ「カルメン」を連想させる冒頭の3曲は、こうした衣装と相まって、更に時代をさかのぼり、オスマン帝国が栄えた頃の西側地域の世界観を醸し出していた。そのなかで響く、キレのあるアコースティックギターの音色、清春の深みのある情熱的な歌声。寒が残る東京にあってここだけは熱気に満ちた。

 2年前のこけら落とし公演でこの舞台に立ったという清春。比較的新しいホールともあって音響設備は充実しているのか、サウンドは鮮明で、超満員の観客も心地良く音楽に酔いしれていた。ステージ上に風が流れることを嫌う清春。いつもの煙草の煙はその場で漂い、吐息交じりの歌声を絡めながらアコギのアルペジオが妖艶な空気感を作った。

撮影=SHINGO TAMAI

 そうしたアダルティなムードは「JUDIE」を挟んで、ブルースの要素を感じさせるものや、ファンクのようなノリのものなど4つの新曲を通してより奥深いものとなっていた。それはサウンドも同様だった。フラメンコのように情熱的なアコギの単音弾きやコード弾き。曲によって入り込むエレキギターのエフェクトのかかったサウンドと裏拍を刻むコード、力強いドラム、目まぐるしく展開するベースの指使いは、グルーヴ感だけでなく視覚でも観客を楽しませた。

 清春もその旋律で踊るように絨毯の上で華麗な舞を見せたかと思えば、ジャケットのポケットに両手を突っ込み、立てたマイクスタンドで挑発的に歌った。クールな表情だが、腕を力強く伸ばしたりと端々の力味からは感情の高まりを感じさせた。

 9曲目の新曲では、先の「夜を、想う」や「アモーレ」の世界観をほうふつとさせるサウンドが入り込んだ。清春は客席に背を向けて前かがみに強く声を発する。月夜を感じさせるエレキギターのエフェクトに、青と暖色の光源が清春を照らす。時折入る歪んだギターサウンドは夜更けの不気味さを漂わせた。

 力強い歌声を残し、曲を結ぶと会場が暗転する。そのなかで2台のシャンデリアだけが薄く灯し、清春は煙草を一飲みする。煙が漂う中で明かりがゆっくりと落とされる。やがて妖艶なギターの音色が響き、楽曲「シャレード」が紡がれる。身体の内側から歌声を吐き出す清春は天井を仰ぎ、2本のエレキギターの野太い音が時を刻むように空気を叩いた。

 歌い終えると、ギターの大橋だけを残してメンバーがステージを後にする。アコギを抱えたままの大橋はゆっくりと弦を弾く。その瞬間、空気ががらりと変わった。情熱的で疾走感のあるインストは約5分に渡り、届けられた。

駆け抜けるロック

 再びメンバーが登場する。黒をベースに白の網目が入ったジャケット、黒のイージーパンツ、ツバの拾い黒のハット姿の清春は、肩から掛けたアコギを縦に構えると、弦を叩き演奏を始めた。まずは「Masquarade」。シルクロードを駆け抜けるように、ここからはロック全開のアッパーなナンバーが続く。

 「妖艶」では、アコギを脱ぎ捨てた清春が胸に入れていたスカーフを口から下げ、更にそれを左手で広げたかと思えば、口元に巻き、目を光らせる。目の前にある台に乗り、しゃがみこんでシャウト。時にスカーフを舐めて挑発する。

撮影=SHINGO TAMAI

 手から離れたスカーフが床に落ちるとほぼ同時に電子音が響く。それに乗るように歪んだギターが入り込む。「LAW‘S」。そして、「まだまだ」と煽るとテンポの速いドラムが鳴りびく。「ALIEN MASKED CREATURE」。ロックに入り込むテクノ調に会場は一気にダンスフロアと化す。観客も高揚感を身体で激しく示し、その反動で場内が揺れた。

 清春が静かに「Thank you」と結ぶと、不気味なエレキギターのサウンドが空気を切り裂く、「COME HOME」。力強いドラミングをバックに、上着を脱いだ清春は黒のロングTシャツの首元の生地を左右に振り、胸をみせる。終盤にあって疾走感は更に増し、激しくドラムを打ち鳴らして終えた。清春は再び「Thank you」と告げてステージを後にする。主人公が去った後のステージは、2つのキャンドルが弱く火を揺らし、灯っていた。

すすり泣く声、痛々しく響く音

 観客の鳴り止まない再演の声に押されて、アンコールに登場。この日の調子の良さが物語るように20分にもおよぶMCを届けた。時事ネタを絡めた饒舌トークでは場内には笑い声が響き渡っていた。清春のライブではみられる光景だ。そして、この場では、夏にアルバムを出したいとも告げた。

そうした和やかな空気も次の曲で一転する。アンコール1曲目は「貴方になって」。アコギに、電子ピアノとストリングの音が入り込む。序盤こそ静かに流れる曲だが、徐々にドラム、エレキギター、ベースが入り込む。それに絡む、感情を突き刺すかのような清春の歌声。<貴方になって 狂おしくて 時が止まった>。そうした歌声と音色に心を掴まれ、すすり泣く女性客が多くいた。それに加えて、清春が奏でるギターの音は金属片のように痛々しく響いた。

アコギを外して、少しの間をおいてからドラムの打音が力強く鳴った。次いで温かみのあるギターが続く、「MOMENT」。<愛しいならば君を連れ去って>ゆったりと流れるなかで、清春の温かみがあり深みのある歌声、そして、メロディが歌詞に絡み、涙腺を刺激した。一方で時折、展開される曲の転調はドラマの場面を変えているような効果があった。

 ここからエレキを抱える清春。ギターに手を一振りして、そして奏でる、ドラムが入り込む。「星空の夜」。先ほどまで涙を流していた観客は疾走感のある楽曲に心を弾ませる。1回のライブに多くの物語が用意され、感情が様々に揺さぶられる。勢いをそのまま「HAPPY」へと流れる。「Are you happy」の掛け合いが決まると清春が腕に力が入った。一体感を生んだままアンコールを終えた。

撮影=SHINGO TAMAI

 ダブルアンコールでは、冒頭にMCをおこない、その流れから観客から掛けられた言葉を拾い清春がアコギを弾き始める。sadsの「楽園」だ。予定にはない即興に観客は喜びながらも、魂の叫びとも言える清春の圧巻の歌声にしばし時が止まった。声と粗いギター音だけが場内に響き渡る。<いつか交わせなかった 約束と口づけ><忘れてしまう位 幸せ あのおおらかで 狂える程優しい><楽園にはもうないよ 空 暗い空 青い空>。マイクを通さずに生声で歌い届ける。激しいアコギのサウンドの合間に、観客のすすり泣く声が静かに聴こえた。

 歌い終えると何も告げずに次曲への準備を始める。「EMILY」。最後に向けて疾走する。赤く染まり、エレキギターが妖艶なサウンドを刻む。そのなかでアコギを弾きじゃくる清春。そのまま、ラスト「あの詩を歌って」へと向かう。場内はめいいっぱい明るくなり、清春はギターを置く。<あの詩を歌って>をシンガロングする。プレイヤーと観客が互いに歌い合って絆を確かめ合う曲だ。観客に後ろ姿を向ける清春は腕を伸ばしながら背中にめいいっぱい言葉を受ける。<あの詩を歌って>。とてつもないエネルギーが場内に放射し、最後に清春は「新宿、また会えるよな」と述べ、自身の口からマイクを遠くに引き離すと、ほぼ生声で歌い切った。

 余韻にひたるなか、清春を中心にメンバーが横一列になって挨拶。最後は、清春がメンバーひとり一人を紹介し、ステージを後にした。清春が去った会場には爽やかさが残っていた。(取材=木村陽仁)

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