経験はギフト、LOST IN TIMEの足跡 
洗練と深み確信した大阪の夜

LOST IN TIMEの大阪公演。彼らがライブでみせたのは、節目を超えていく確かな足跡だった(撮影=トゥッティーニ)

 今年6月にデビュー15年目のアニバーサリーを迎える3人組ロックバンドのLOST IN TIMEによる、東京、名古屋と続いたツアー『LOST IN TIME ONE-MAN Live ~足跡の更新2017~』の大阪公演が5日、大阪梅田のライブハウス・梅田シャングリラで開催された。ボーカル海北大輔の伸びやかな歌声、三井律郎の確かなギターテクニック、そして、演奏を支えるドラム大岡源一郎による安定感。3つの個性が互いを縫い奏でる高度なアンサンブルによる調べは、会場に集った大阪のオーディエンスの耳を、そして、心を魅了した。現在、10枚目となるニューアルバムのリリースへ向け、楽曲制作中の彼らが見せたのは、節目を超えていく確かな足跡だ。新曲3曲を含め計20曲を歌い切った大阪の夜をレポートする。

希望の光を当てるライラック

撮影=トゥッティーニ

 日曜日の夕刻、大阪・梅田。日中に降った雨は止み、人影を包んだのは、ひんやりとしながらどこか心地のよい空気感。大阪のランドマークの一つ、「梅田スカイビル」のふもとのライブハウスには、開場を待ちわびるオーディエンスが長い列を作った。

 軽快なポップサウンドが流れるフロア。午後6時の定刻を少し回る。同行者と談笑する人もいれば、ドリンクを注文してリラックスする人もいる。入り口付近には人があふれ、開演の瞬間を固唾をのんで見守る。ステージに並んだギターやベース、キーボード、ドラム。今はまだ音のない楽器もまた、感情を乗せて開放される瞬間を、今や遅しと待っているようだった。

 ピアノの音が鳴った。胸に鼓動のように届けられる“音”は徐々にスピード感を増していく。ステージ右手から海北、大岡、三井が登場し、自らのポジションにスタンディング。そして、始まった。LOST IN TIMEのファーストチョイスは「ライラック」。大岡のドラムが激しく打ち鳴らされると、黄色のライトがステージを眩しく照らす。海北の優しく伸びる歌声が会場に広がり、三井のギターが感傷と前進を表現。このライブへの希望をオーディエンスに抱かせた。

 一転してサウンドに重厚感が備わった「約束」に入ると、サビ部分でオーディエンスは右手を振り上げて音とシンクロし、海北が鳴らす独特のビブラートは感情の震えを体現した。「ようこそおいでくださいました。最後まで目いっぱい、歌っていきます」と海北の最初のメッセージが観客に届けられ、続けて「太陽のカフス」へ突入。赤いライトアップがセクシャルなムードを作り出し、ダンサブルな音色で大人の世界を描出。三井のギターカッティングはオーディエンスの胸をざわつかせた。

一歩一歩

撮影=トゥッティーニ

 4曲目には、早くも人気ナンバーの「30」を持ってきたLOST IN TIME。三井は音を楽しむように柔和な笑みを作り、海北は“30歳”という節目に誰もが抱く葛藤を、力強く乗り超えていくようにサビへ向けてビートを高める。<いつか見た夢の続きがここなんだよと♪>。明るく照らされたステージが、次への一歩を踏み出す心境をたくましく演出した。

 オーディエンスの手拍子に荒々しさが備わるなか、「ジャーニー」の演奏が始まる。「ウォーウォーウォーウォー」。海北の咆哮が閉塞感を突き破る。アグレッシブなサウンドが会場を満たし、3人のセッションは音に多様な感情を織り交ぜる。最後はオーディエンスとのシンガロングで締めると、「No caster」へ。ミステリアスな演出がオーディエンスの高揚感を落ち着かせ、「列車」では、大岡のドラムが運転役を担うかのように演奏を支え、海北のフェイク、三井のギターが乗車チケットとなり列車は進む。走り続ける列車=LOST IN TIMEをオーディエンスは万雷の拍手で迎えると、畳みかけるように「グレープフルーツ」を持ってくる。<どんな時も胸の奥で 思っているよ あなたのこと♪>。希望への旅路は始まったばかりだ。

 8曲をノンストップで演奏したLOST IN TIMEは、ここで新曲を披露。海北は楽曲のコンセプトを紹介する。

 「色んなことがあって、自分が一体どこにいるのかさえ、見失いそうになるとき、もちろん僕もあって。そんなときこそ僕たちには声があって、一歩踏み出す足があって、その勇気を振り絞る心があって、叫んでいこう、一歩一歩進んでいこう、そんな気持ちをこめて作った歌です」

 昨年、47都道府県での弾き語りツアー『旅行鞄と僕の声と2016 ~旅人と47つの約束~』を開催した海北は、その際に披露した「路傍の石」をバンドでアレンジ。海北の突き抜ける歌声を、優しい演奏が包み込み、穏やかな感性を紡ぎ出していった。

逆リクエスト

撮影=トゥッティーニ

 MCで三井は「あけましておめでとう」と大阪のオーディエンスに挨拶。来場に感謝し、海北は今年6月にバンドが15周年の節目を迎えることを報告した。万雷の拍手を受けるなか、三井はバンドに加入して10年目であることを告げると、海北は「三井君なしじゃ語れないバンドになったからね」と持ち上げ、三井は「上げるねー」と照れ笑いでオーディエンスを和ませた。

 LOST IN TIMEは現在、楽曲制作の真っただ中。アルバムとしてリリースされれば10枚目。海北は「今年は節目だらけ。すごく成長の早い竹みたいな。バシバシ節目を刻んで行きたいな」と独特の言葉で表現したが、自ら「なんのこっちゃですが…何となく察して」と話すと“笑い”にうるさい大阪人の爆笑を誘う。コメントを求められた大岡は、「今日はパワーをもらいに来ました」と、なぜかオーディエンスに逆リクエスト。海北や三井からツッコミを入れられていた。

 後半戦の一発目は「26」。オーディエンスの横揺れは大きくなり、掛け声が会場を支配する。続けてキラーチューン「366」を持ってくる。しっとりとした演奏は疾走感を強め、海北は手拍子を要請。それに応えたオーディエンスは、LOST IN TIMEが提示するメッセージに夢中で耳を傾けた。さらに、「旅立ち前夜」。<頑張れよ 負けるなよ♪>。直情的な歌詞はストレートに観客席に届けられ、オーディエンスが振り上げた拳は、その強度を高める。「青よりも蒼く」に移ると、大岡が感情の溜まりを解き放つようにコーラスし、続く「線路の上」のイントロが流れると、オーディエンスの身体は一定のリズムを刻んで揺れ続ける。明るく照らされたステージは、希望という名の光のようだった。

 そして、「手紙」。海北の歌声は伸びる。三井のギター旋律はどこまでも優しい。オーディエンスのテンションは、海北の突き抜ける大声とリンクした。その余韻が鎮まらぬまま「希望」へ。弾けるようにエネルギッシュな演奏は、<変わり続ける 代わりのない世界で♪>生きる人々に、葛藤や感傷を乗り越えていく確かな強さを伝えていた。

経験ではなくギフト

撮影=トゥッティーニ

 7曲を一気に突っ走った汗だくの海北は水を飲む。そして、「2002年から始まった僕たちの物語は今年で15年。長いようで、短いようで、色んな経験をしてきました。でも、今になって思えばそれは経験ではなくて、ギフト」とキーボードの鍵盤を弾きながら、胸に秘めた思いを言葉にしていく。「これからの僕らの日々が、良くも悪くも、できれば良い方で、あなたの日常に、小さなギフトになり続けていけたらなって」との思いをこめ、セットリストを締めくくる新曲の「全ての贈り物」に移った。ラストを惜しむかのように海北は丁寧な歌唱にソウルをこめ、壮大さを醸し出す重低音や小刻みなビートが温もりを会場に落とし込む。オーディエンスは力みを排除し、人への優しさに身を包みこんでいた。

 海北は「どうもありがとう」と言葉を残し、ステージを去る。だが、アンコールを求める手拍子が期待のボルテージを高めていくと、海北が一人でステージに舞い戻った。楽曲制作に取り組むいま、「ものすごくピュアな曲がいっぱい書けた」と話し、1stアルバムを作っている感覚で新たな歌が生み出されている心境を明かした海北。そして、オーディエンスに語り掛けた。

 「どれだけ思っても、もちろん昔には戻れない。どれだけ思っても、気持ちっていうのは100%は絶対に届かないし、伝わらない。だからこそ、伝えたい、届けたい気持ちを歌に込めるんだと思う。届かない気持ちを、歌う歌のことをトーチソングと言います。そして、その届かない歌を歌う、歌うたいのことをトーチシンガーと言います」

 新曲「トーチシンガー」。海北の弾き語り。歌声は、溢れる思いを抑えながら強く高く伸びていく。オーディエンスは心の深くに侵入してくる優しい音に身を預け、海北の弾き語りをうっとりと眺めていた。

明日への始まり

撮影=トゥッティーニ

 そして、三井、大岡も登場。海北は歌詞づくりのなかで、時に2人から助言を得ることがあるという。「それがすごく新鮮なんですね。ピュアな言葉ができるのは良いなって」と話した海北だったが、ピュアさを求め過ぎることで言葉が辛辣になることもあると語り、自虐的に笑って場を和ませる。そして、現在制作中のアルバムは「言葉の純度が高いアルバムになってます。メロディはもちろん、アレンジももちろん、すごく期待して欲しい。個人としては言葉はすごく乗せられた」と話し、自信作になることを伝えていた。

 そして、3人で奏でたのは「昨日の事」。煙るようなライトアップのなかで、幻想的な空間が描き出される。高く、高く、高く伸びて行く海北の咆哮。エネルギーを振り絞るような演奏が終わると、オーディエンスは再び手拍子を盛大に鳴らす。ダブルアンコールに感謝した海北。LOST IN TIME最後の楽曲は「あしたのおと」。ポップなサウンドが鳴り響く。いま、この瞬間から明日が始まるかのような演奏が会場を満たし、この日のステージを締めくくった。

 2002年6月に1stアルバム『冬空と君の手』でデビューを飾ったLOST IN TIME。確かな演奏技法と、独創的な海北の歌詞と歌声で多くのファンを魅了してきた。積み重ねてきた経験を「ギフト」と語った海北の言葉が表すように、その15年はLOST IN TIMEとファンが紡ぎ上げてきた濃密なストーリーそのものだ。10枚目となるアルバムに込める思いの一端を垣間見せた大阪の夜。LOST IN TIMEの”足跡”は、さらなる洗練と深みを込めて更新される――そのことに確信を得る夜だった。(取材=小野眞三)

セットリスト

01.ライラック
02.約束
03.太陽のカフス
04.30
05.ジャーニー
06.No caster
07.列車
08.グレープフルーツ
09.路傍の石
10.26
11.366
12.旅立ち前夜
13.青よりも蒼く
14.線路の上
15.手紙
16.希望
17.全ての贈り物

EN-1.トーチシンガー
EN-2.昨日の事
WEN.あしたのおと

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