バッティストーニ&湯山玲子「爆クラ
! presents ジェフ・ミルズ×東京フ
ィルハーモニー交響楽団×バッティス
トーニ」を語る


テクノミュージックのパイオニア的存在であり、今もなおシーンの最前線で活躍するジェフ・ミルズが、若手人気指揮者アンドレア・バッティストーニ率いる東京フィルハーモニー交響楽団とのコラボレーションを行う。大阪(2/22)、東京(2/25)で開催されるこのコンサートの題名は『爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモ二ー交響楽団×バッティストーニ クラシック体感系II -宇宙と時間編-』。
これはクラシック音楽の新たな聴き方を提唱する湯山玲子の開催するイベントシリーズ「爆クラ!」の拡大リアルライブ版。ジェフ・ミルズと東フィルによるテクノとオケの邂逅は、すでに昨年3月に実現し大成功を収めている。この時はチケットが即完。各方面から再公演が望まれる“伝説”と化していた。そんな中、今回はジェフ・ミルズが宇宙を扱った壮大な新作組曲『Planets』を引っさげ、再び東フィルと共演することになった。
さらに今回注目すべきは、いまクラシックの世界で飛ぶ鳥を落とす勢いの若手人気指揮者アンドレア・バッティストーニの初参戦。"次世代のトスカニーニ"との呼び声も高い彼が加わり、未だかつて聞いたことのない、新しいクラシック音楽の可能性が出現する。このほどSPICEでは本公演の仕掛け人であり『爆クラ』を主宰する湯山玲子とバッティストーニに意気込みを聞いた。
――そもそも湯山さんはどのような経緯で、ジェフ・ミルズさんとオーケストラの共演に出会い、ご自身の「爆クラ!」というプロジェクトの中で日本公演を実現されることになったのでしょうか。

湯山 私の父親は、湯山昭というクラシック音楽の作曲家だったので、家庭環境としてはいつもクラシックがかかっていたんですね。でも私は反抗的な子供だったので、小学生の時から洋楽ファンで学生時代はロックとニューウェーブを深掘りしていました。

39歳の時、フリーランスのディレクター、編集者として、ハウスミュージックやクラブの本を作るため、ニューヨークへ取材に行ったら、そこでひとつの大きい出会いがありました。ジュニア・ヴァスケスというハウス・ミュージックのマエストロによる8時間プレイを聴いた時の感覚が、まったく交響曲と同じ、だったという。クラシックはそれでも空気のように実家に流れていましたから、昔のクラシック耳が突然、そのとき立ち上がってきたという。

それから10年以上は経ってしまったんですけど、非常に音響のいいサウンドシステムがあるクラブから「何かやってくれない?」というオーダーがあったので、クラシックの新しい聴き方を提案したい、ということから「爆クラ!」をはじめたのです。これまでに60回くらいやっていますが、その間に、東京フィルの事務局の方とか、オーチャードホールのあるBunkamuraの音楽部門の方だったりとか、クラシック音楽を新しい方向に進めていきたいという人たちのネットワークが出来てきたんですね。

また、それとは別にクラブミュージックのマエストロのジェフ・ミルズとも私のクラブ耽溺時代から親交があって、彼がすでにヨーロッパで行っていたオーケストラとの共演作品を日本でやる可能性について話していたりはしたんですよ。そんななか、一昨年前、東フィルとBunkamuraとで話がまとまって、2016年の3月にやることになったんですね。

――それが、早々にチケットが完売してしまうほど大反響となったわけですね。その後、9月にはテレビ朝日系の「題名のない音楽会」でも特集されて話題となりました。日本では3回目となる今回、どうしてバッティストーニさんに指揮をお願いすることになったのでしょうか。

湯山 ジェフの新作である『Planets』がまた一段と進化していまして、前回よりも更にデリケートであったりとか、とても表現するのに非常に難しそうな曲だったんですね。

バッティストーニさんのことは以前から存じ上げていて、レスピーギの演奏が私は本当に好きだったんです。それでこの夏、イタリアのトリノで、ピアニストの反田恭平さんがバッティストーニの指揮でアルバムを録音するという現場に立ち会うという機会に恵まれまして、これはちょっと、ダメ元でお願いしてみたいな、と彼の音楽の作り方……特に「歌う」ことかな……に、非常に感銘を受けたんです。あと彼はエネルギッシュといわれるんですが、私はどちらかというと弱音、ソフトになったときの流れ方の、豊穣さや緊張感が結構好きで、彼のタイム感覚とかが、ジェフ・ミルズの交響組曲にある、テクノ/クラブミュージックのイディオム(語法)をどう料理するかを聴いてみたい、と。

湯山玲子

――なるほど。でもバッティストーニさんが今回、ジェフさんとの共演で指揮をされると聞いて、非常に驚いたクラシック音楽のファンも多いのではないかと思います。しかしながら、バッティストーニさんは作曲もなされるんですよね? YouTubeに公開されている作品をいくつか実際に聴かせていただきましたが、ジェフさんの音楽とそう遠くないところにいらっしゃることが分かりました。

湯山 そうなのよ(笑)。

バッティストーニ 私はもともと、クラシック音楽のトレーニングを受けた作曲家です。オペラとか交響曲とかを幼い頃から聴いていたんですけれども、10代になっていろんなスタイルの音楽を聴くようになると特にロックが好きになったんですね。それからというもの、ロックのもつエネルギーとか即興性、自由といったものを、どうやったら交響的なものや室内楽に取り入れられるのかを考えています。だから「汚染 (contamination *1)」が、私の作曲にとって非常に大切な要素でして、クラシックの音楽をやってはいるけれども、なるべく新しい音楽を聴くようにしているんです。
[*1:イタリアのプログレッシブ・ロックバンド、ロヴェッショ・デッラ・メダーリャが1973年に発表したアルバムが"Contamination"(伊語:Contaminazione)である。このアルバムでは、バッハの楽曲が引用されたり、変容させたりしていることで知られている。邦題は「汚染された世界」。]

今回すごく嬉しいのは、ジェフ・ミルズさんの音楽だけでなく、いま生きている音楽家の中では一番重要じゃないかと思われるジョン・アダムズの曲もできること。それから黛敏郎のことは日本に来てから知ったんですけども、非常に面白いレパートリーで、これも取り上げられて良かった。それからリゲティの「ポエム・サンフォニック(100台のメトロノームのために)」も、非常に哲学的というかとてもシリアスなインスピレーションで書かれたんじゃないかと思うんですけど、この実験的な曲をできることも嬉しく思っています。今日、色々なものがミックスされてくる時代にあって、やっぱり音楽のジャンルのあいだに壁をつくるのではなくて、その壁を溶かしていくことのほうが大事なんじゃないかというふうに感じています。

――ありがとうございます。バッティストーニさんに続けてもうひとつおうかがいしたいのは、ジェフさんの『Planets』のスコアについてです。ジェフさんとオーケストラの共演作品においてオーケストラが演奏する楽譜は、2013年頃からフランスの作曲家シルヴァン・グリオットが手掛けているそうですね。彼はパリの音楽院で、ミカエル・レヴィナス(哲学者レヴィナスの息子で作曲家)やマルコ・ストロッパといった最前線の現代音楽の作曲家に師事した後、かなり幅広いジャンルのミュージシャンのサポートをしているユニークな音楽家です。バッティストーニさんは、彼の書いたスコアをご覧になって、どのような印象を受けましたか?

バッティストーニ 非常にクレバーに、注意深くバランスがとられたスコアで、とても上手くオーケストレーションされているという印象を受けました。結果的に、クラシックな楽器とエレクトロニックなものがうまくミックスされていると思います。興味深いのは、非常にモダン(近代的)なテクニックも使われているし、20~21世紀のエクスペリメンタル(実験的)な要素も入っているんですけど、同時にかなりストレートでポピュラーな手法が使われており、紛れもなく2人のアーティストの魅力が混ぜ合わされていると感じるところです。

アンドレア・バッティストーニ

――こうしたコラボレーションについて、湯山さんが「2000年代後半ぐらいから、ヨーロッパでは、クラシック界からDJに楽曲制作の依頼が始まってきていました」とおっしゃっているように、DJとクラシック音楽のミュージシャンの共演機会は21世紀に入ってから格段に増えていますよね。しかし、それが単なる一過性のイベントではなく、双方にとって真にクリエイティブなパートナーになった例は、まだそれほど多くないのではないかと思います。ところが、ジェフさんによるオーケストラとの共演作品は一過性のイベントでは全くなくて、年を追うごとにはっきりとオーケストラとジェフさんがそれぞれ奏でている音の緊密さが増しているように感じます。湯山さんから見て、ジェフさんによるオーケストラとの共演作品は初期の「ブルー・ポテンシャル」などと比べて、近年どのように変化してきていると思われますか?

湯山 そもそも一番最初のラップトップ時代のエレクトリックミュージックとシンフォニーオーケストラの邂逅に、私は立ち会っていると思うんです。バルセロナでやっているフェスティバル Sonar へ2004年に行ったとき、バルセロナ交響楽団と、坂本龍一、パン・ソニック、フェネスといったアーティストたちがオーケストラとエレクトロのセッションをすると記者発表し、私はそのセッションを実際に現地のオーディトリというコンサートホールで観ているんですけど、実はジェフ・ミルズもそこにいたんですよ。なんか面白いことがあるなということが、あのとき一瞬で広まったんだと思うんです。

sonar 2004 opening orchestra obc + pansonic vs. videogeistしかも、それがきっかけかどうかは分からないのですが同時期、ジェフにもオーケストラと共演の依頼がきているんです。ジェフも一度観ているので、興味が湧いていたんじゃないですかね。でも正直いって最初は、ジェフの曲の音をオーケストラで演奏するという「ジャスト編曲」だったんですね。

ジェフが電子機材をつかって作るテクノ音楽は本当に深くてかつ強くて、それだけで完成しているんです。エレクトリックミュージックはそもそも「音源」それ自体を創作することができる。しかし、クラシックの音源は楽器という限定されたものです。その中で、響きの可能性を歴史的に追求されてきたのがオーケーストラで、彼の中ではおそらくは彼のなかでは機材が放つ音源と、オーケストラの楽器がイコールなんですよ。多分、それが面白くて、クラシックを聴きだして、逆に彼の音楽のイディオムにないものをクラシックに見つけていって、そのなかで格闘がはじまったんだと思います。

そして、スコアに落としてくれる編曲者が変わったんですね。今回のグリオットを見つけたのは大きかったと思う。ジェフはまず最初に"Planets"のイメージをもとに自分の機材で音楽を作ったんですね。ここからは想像ですけれど、それを具体的に交響曲にどうやって響きを置換したらいいのかを、現場で二人でかなり話し合って、調整したんだと思います。

面白いのは、この二人が最初に協働した"Where Light Ends"(2013)でもクラブミュージックの基本となるイディオム「ループ(繰り返し)」が使われているわけですけど、そのループをたとえば、二拍三連なんかを弦楽器でやらせていると歯切れがどうしても悪くなる。でも今回の"Planets"において、そこにマリンバ(木琴)とかピアノとか、締める音をいれてる。こういうちょっとしたことをどんどん学んでいっている感じですよね。

特に今回私がすごい好きなのはウラヌス(天王星)。弦の高音部の長く伸ばしている部分の移ろいは、ジェフのテクノ音楽で感じる世界とまったく同質のもの。真骨頂じゃないかと思っています。

湯山玲子

――バッティストーニさんは楽器をプレイするようにDJをしていくジェフさんの姿を映像などでご覧になっているかと思うのですが、そうした新しいプレーヤーとの共演は初めてではないですか?

バッティストーニ ええ! こういうエレクトロニック・ミュージックとは初めてですね。こういうときは毎回、演奏の異なるやり方やスタイルといった新たな姿勢 (attitude)や理解の仕方を見つける必要があります。ロックやポピュラー音楽とは、これまでに何度かコラボレーションしたことがありますよ。著名なギタリストであるブライアン・メイ(Queen)と共演したこともありました。

ブライアン・メイらと共演し、「ボヘミアン・ラプソディ」を指揮するバッティストーニ↓湯山 ブライアン・メイは、そういえばバイオリンっぽいソロを弾く人ですよね。

バッティストーニ 私がまず心配だったのは、技術的な問題をどう解決するかだったんですね。それで彼に尋ねたら「やればできるから、ロックしよう!(Let's Rock!)」と言われてしまったんですよ(笑)これはプロフェッショナルな経験として非常に重要なことだと感じました。なぜなら、コンプリートな音楽家になりたいならば、異なる姿勢、彼らの姿勢を学ばなければなりません。今回も同じだと思いますし、新しい姿勢を学びたいですね。

――でも、ジェフさんの場合は、ブライアン・メイとの共演のように、オーケストラがピットにはいるわけでもなく、いわゆる協奏曲のソリストの位置でもないですよね。

湯山 彼自身が作曲しているのが大きいですよね。そして、自分自身が楽器の一部として参加しているんです。彼自身が作曲しているわけだから、エレクトリックを捨ててしまって、逆にオーケストラに任せてしまってもいいわけじゃないですか。でも、どうしてもそこに入れたかった、必要だった音色やソニック(音質)があるんでしょうね。

――こうした新しいコラボレーションが一過性のイベントではなく、本当に価値のある作品を創造するために、お二人は何が重要だと思われますか?

バッティストーニ オーケストラでも、エレクトロニック・ミュージックでも、ロックでも、相手を真似しようとしたり、クロスオーバーしたりすると面白くなくなってくるので、それぞれが自分自身のもともとのキャラクターを持ちながらもお互いに対話をするというのが重要なのではないかと思います。

アンドレア・バッティストーニ

湯山 私も彼と同じ意見なのですが、絶対やっちゃいけないのが「異種格闘技」的なプロジェクトですよね。それはとてもイージーなやり方で、ただ、「やってみた」系のショーになってしまう。申し訳ないんですけど、クラシック音楽を新しくしようとするときに、こういったアプローチは頻発します。そうしたものと、今回のプロジェクトは全く違うものだと思って欲しいんですよ。(バッティストーニさんに向けて)そう思うでしょ?

バッティストーニ もちろんそう思うよ。

――もうひとつお聞きしたいのですが、ジェフさんはあるインタビューで、テクノが踊るためだけでなく「もうそろそろ、自分の思考を伝える手段として認識されてもいいのではないかと思っています」と発言されています。このようにジャンル自体や受容され方の変化について、湯山さんやバッティストーニさんご自身としては「こう変えていきたい」といったような将来的な展望はございますか?

湯山 結局、これは私が爆クラをやった意味に近いのですけどね、クラシック音楽って、実はすごく易しくないんですよ。でも「いい音楽は一発聴いたらわかる」ともよく言われますよね。

――すごく多いですね。

湯山 そうなんだよね。でも、クラシック音楽ってすごく情報量が多くて、様々な音を聴き分けたり構造を見たりとか、そっちの、こう解析する脳の喜びみたいなことをやっていって、はじめてわかる音楽なんですよ。しかし、すでに耳の良いポップスファンは、その感覚がきちんとあり、例えばフランク・ザッパが好き、レゲエのダヴが好きといった人たちの耳を、こっちに向けたいですよね。

私が日本テレビ系の「チカラウタ」に出演した時、番組の軸は「あなたに力を与えた音楽は何ですか?」なのですが、ほとんどのゲストが、チカラをもらったものとして挙げるのは「歌詞」なんですよ。つまり日本ではメロディーと歌詞(リリック)の魅力が、音楽だと、考えられていることがわかる。でも、クラシック音楽というものは、歌詞やメロディー以外の魅力、音そのもので人々を引きつけているし、オーケストラの音響そのものが、人にチカラを与えてくれるってことを知ってほしいと思う。ちなみに、同じことがクラブミュージックにもちょっと当てはまるんだよね、同じなのよ。この動きは、これからも進めて行きたいですね。

今は面白いアーティストが一杯いて、カナダのソプラノ歌手バーバラ・ハンニガン。それから、オランダの作曲家ミシェル・ファン・デル・アーといったあたりは、クラシック音楽が今という時代の人間の耳にどう入ったら魅力的なのかに意識的な、面白い動きをしてますよね。バッティストーニさんも、10年後にどうなっているのかすごく楽しみですし、すごく期待してます。そして、今、29歳の若い時期にジェフ・ミルズというテクノの天才の作品を体験していただくことは、彼の「マエストロへの道」の中で、ものすごく良い経験になるはずです。

バッティストーニ 今回のプロジェクトをご一緒できるということにとても期待もしていますし、興味深く関心をもっています。オーケストラというのは、伝統的な楽器の集合体なんですけども、新しいモダンなものと対話ができるものだと信じていますし、今まで発明された「楽器」として最もパワフルなのが「オーケストラ」なんじゃないかと思っています。若い人たちとの新しい音楽とも充分一緒にやっていけるものだとも思っていますし、皆のための音楽を作っていくことも出来るのではないでしょうか。



――最後に一言、まだチケットを買おうかどうか迷われている方に向けたメッセージをいただければと思います。

湯山 クラシック音楽の次なる10年間というか、今後クラシックはどこに行くのかという、ひとつの座標軸になるような、素晴らしい公演になると思いますので、ぜひみなさん会場に足をお運び下さい。

バッティストーニ 素晴らしいエンターテインメントと、情熱とに満ちた一夜になると思います。お待ちしております!

湯山玲子さん&バッティストーニさんから動画コメントいただきました↓!
PRムービー取材・文:小室敬幸   写真撮影:大野要介

公演情報爆クラ!presents ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団×バッティストーニ
■DJ:ジェフ・ミルズ
■指揮:アンドレア・バッティストーニ
■オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団
■ナビゲーター:湯山玲子
<大阪公演>
■日時:2017/2/22(水)19:00
■会場:フェスティバルホール
<東京公演>
■日時:2017/2/25(土)18:00
■会場:Bunkamuraオーチャードホール
■公式サイト:http://www.promax.co.jp/bakucla/

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