ヒグチアイ、独特の世界観で魅せた“
人間味”溢れるステージ

人間味溢れる独特な世界観で観客を魅了したヒグチアイ

 昨年11月にメジャーデビューした女性シンガーソングライターのヒグチアイが1月7日に、東京・渋谷WWWでワンマンライブ『ヒグチアイ「百六十度」ツアー2017〜東名阪ワンマンライブ』をおこなった。デビューアルバム『百六十度』のリリースを記念した東名阪ツアーの初日。バンド編成とピアノの弾き語りで「誰かの幸せは僕の不幸せ」や新曲「わたしのしあわせ」などアンコール含め全17曲を披露した。

人は生きていける強さを持っているんです

ヒグチアイ

 赤いドレス姿で登場したヒグチは、両手を広げて腰をちょこんと落とし、声には出さないものの「ようこそ」といった感じを見せ、ピアノの前に座った。腕を伸ばしたり首を回したりして入念なストレッチを終えると、おもむろにピアノを弾き始めた。

 1曲目はアルバムでもOPを飾っている「誰かの幸せはボクの不幸せ」。続けて「ツアーへようこそ。あけましておめでとうございます」と、ピアノに乗せた自己紹介ソングが始まり、会場には手拍子が沸き起こる。ヒグチは「普段は手拍子なんてなくて、むしろちょっと面白い感じでお送りしているんですけど…さすがワンマンですね!」と、いつもとは少し違った雰囲気に笑顔を見せた。

 「猛暑です」では、エキゾチックなフレーズが響く。ヒグチの<シューマイは♪>というフレーズに続けて、WWWの観客全員による「絶対!」というかけ声が会場に響き渡った。最後には、ヒグチ自身がドラを鳴らし、MCで「今日のお昼のお弁当が崎陽軒だったんですけど、これって誰かが仕組んだのかな?(笑)」と、笑顔で投げかけ会場を笑いに包んだ。

 「アイカギ」と「さっちゃん」は、弾き語りで聴かせた。「アイカギ」は、胸を締め付けるような切ないナンバーで、情景が目の前に浮かぶリアルな歌詞に、観客はその世界観にひたってジッと聴き入る。初恋相手の結婚式に招かれ、複雑な気持ちでいる主人公の心情を歌った「さっちゃん」。ユーモアを織り交ぜつつの歌だが、最後に実は当時両想いだったことを知るというオチに胸が締め付けられる。“こういうすれ違いってあるよね〜”という、あるある感が会場をやわらかく包み込んだ。

 「ぼくとおばあさん」は、別れと喪失感が胸に広がる。曲の前にヒグチは、MCで「今27歳なんですけど、27歳にならないと気づけないこと分からないことはあるもので、今それを身にしみて感じています。でも、たとえ何かをなくしたとしても、人は生きていける強さを持っているんです」と語った。MVでは、おばあさんとおばあさんを看取った犬のストーリーが描かれていたが、ライブでは歌詞の言葉が様々な別れを想起させ、客席にはハンカチで涙をぬぐいながら聴き入るファンの姿が大勢見てとれた。

私はみなさんのことを忘れません

ヒグチアイ

 「黒い影」では、ロックとジャズが融合したようなサウンドに合わせて、曲中でバンドメンバーの紹介も。言葉で刺すような歌に、ファンは聴き入っていた。ブルージーなオルガンの音色が響くミディアムバラード「まっすぐ」では、観客はリズムに合わせてゆっくりと身体を揺らし、一緒に「ラ〜ラララ〜♪」と歌を口ずさんだ。また、ハンドマイクを持って歌った「恋人よ」は、まるで昭和歌謡の雰囲気。ステージを歩き周りながら、身振り手振りを交えて歌う姿が印象的だった。

 本編ラストには「今良いことがあるのは、きっと今よりも前に一緒にいてくれた人のおかげだと思う。今までにどれだけの人と出会い、離れてしまったのかと考えました。今ここにいるみなさんと、万が一にでも会えなくなったとしても、私はみなさんのことを忘れません!」と話し、続けて自身の半生を綴ったかのような「備忘録」を披露した。

 アンコールでは、新曲「わたしのしあわせ」を弾き語りで披露したほか、ノスタルジックなムードの「東京」を披露。オレンジ色の夕陽のようなライトを浴びながら、まっすぐ声を届けたヒグチは、達成感を分かち合うように、最前列のお客さんと手を合わせる。そして歌とピアノの余韻に、最後まで拍手が鳴り止むことはなかった。

 MCで、自虐要素を含んだユーモアで、会場を笑いで包み込んだ彼女。たとえば「YouTubeなどでたまにコメントを見るんですけど、『まっすぐ』という曲に出てくる女の子がカワイイ! というコメントがけっこうあって。『そこかいっ!』と思った」とか、「去年、八戸に行ったときは、ライブハウスのスタッフにタロット占いが得意な人がいて、『あなた、今年は運気が良いよ』と言われ、自信満々に『そんな気がします』と答えた」など、独自の言語感覚で笑いを巻き起こす。ひとたび歌い始めれば、切ない胸の内を吐露するようにして暗い湖の縁まで引きずり込む。誰の隣にも普通にある喜びや悲しみを、ストレートな言葉で綴るからこその親近感が、会場全体をふわっと包み込む。ヒグチアイのステージは、実に人間味に溢れていた。

(取材・榑林史章)

セットリスト

ヒグチアイ「百六十度」ツアー2017〜東名阪ワンマンライブ
1月7日 東京・渋谷WWW

01.誰かの幸せは僕の不幸せ
02.シンプル
03.衝動
04.猛暑です
05.朝に夢を託した
06.霙 -みぞれ-
07.アイカギ
08.さっちゃん
09.ぼくとおばあさん
10.ハダノアレ
11.ココロジェリーフィッシュ
12.黒い影
13.まっすぐ
14.恋人よ
15.備忘録

ENCORE

EN1.わたしのしあわせ
EN2.東京

ライブ情報

ヒグチアイ「百六十度」ツアー2017 〜二百度編〜

2017年2月4日(土)  広島ヲルガン座  (広島)

2017年2月10日(金) 米子AZTiC laughs (鳥取)

2017年2月12日(日) 松江AZTiC canova (島根)

2017年2月18日(土) 水戸ミネルバ   (茨城)

2017年2月19日(日) 甲府KAZOO HALL  (山梨)

2017年3月3日(金)  新潟GOLDEN PIGS YELLOW STAGE (新潟)

2017年3月4日(土)  音楽酒家 村門 (富山)

2017年3月5日(日)  金沢もっきりや (石川)

各地の対バン、チケット販売方法等の詳細、その他の会場は決まり次第、オフィシャルサイトで発表。

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